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漫画家アシスタント物語 第3章〈4〉 酒と女と漫画の日々

 
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《 画像上:’87年頃「ヤングジャンプ」で新人賞努力賞をもらった「壁」の一部です。絶望的な主人公を描いています。どうしても暗くなるのです。 》
               < この3章〈4〉は、文庫本約17ページ分 >

 

              その19
  
    
それまでカチカチと動いていた時計が、ある時、ピタリと止まってしまう様に、漫画制作の勢いが止まってしまう事があります・・・・・・。

1976年、マツさん( 広島出身、当時21歳 )がジョージ秋山先生に師事しました。遅刻男の私がやって来る2年ほど前です。

腰まである長髪、破れたジーンズにサンダル。 くわえタバコにしゃがれ声の広島弁・・・・・・( 私が入社した頃には坊主頭になっていました )

背景処理のスペシャリストならケイさん( 神戸出身、‘76年当時23歳 )。アシスタントのイケ面ホスト№1のガンさん( 東京出身、‘76年当時26歳 )。 

そして、秋山プロの名物男と言える存在がこのマツさんです。

マツさんは初め、ジョージ先生に一週間は先輩たちの仕事を見てるだけで良いからと言われたそうです・・・・・・ ( 私の時と同じです! ) 

そして・・・・・・
本当に見ているだけで過ごしました・・・・・・ 
いや、それどころか・・・・退屈のあまり横になって寝ていたのです・・・・・。 

先輩たちが黙々と仕事をしているその脇で、ゴロゴロ横になって漫画雑誌を読んだり、グ~グ~寝たり・・・・・・・
そして、ついに一週間が経とうとしている時・・・・・・

イイ気分で寝ていたマツさんの、腰のあたりを誰かがつま先で蹴りました・・・・ マツさんが横になったまま、あわてて振り返ると・・・・・
先生が上から見下ろしている・・・・・・
「 おめぃ~・・・ 何やってんだぁ・・・? 」
「 はぁ・・・ 寝てましたぁ・・・・・ 」
「 寝てましたじゃね~だろぉっ! バカヤロウッ!ここは、戦場と同じなんだぞぉっ! 」
‥‥と、一喝される・・・・・・。 
マツさんの心臓が凍りついた一瞬です。

こうしてマツさんは、アシスタントの初歩・・・・・・・
ベタ塗りと、先輩が描いた原稿のホワイト仕上げ・・・・が始まりました。 

実にこの日から6ヶ月間も毎日毎日、「 ベタマン 」( 墨ベタ専門 )をやらされるはめになったのです・・・・

そして、すぐ漫画家になれるものと思い込んでいたマツさんはこの日から数年間、自分の漫画を描かなくなります・・・・。 

『 漫画なんて、何時でもすぐ描けるけぇ・・・・ 』 

その気持ちこそが実は深い落とし穴だった事に、この頃はまだ気が付いていませんでした・・・・・・・。

 
 


マツさんと仕事帰りに寄った目白通りのカフェです。《2005年撮影》


             その20
  
    
私は、以前から疑問に思っていた事を質問しました。
「 秋山プロに入る前はあれほど漫画を描いていたのに、どうして入ったとたんに描けなくなったんですか? 」
「 先生に『 描くなっ! 』って言われたんじゃ・・・ 」
「 えっ!? 」

2005年12月8日、目白通りの或るカフェでマツさん( 最後まで秋山プロに在籍 )は30年前を思い出しながら語ってくれました・・・・・

『 描くなっ! 』と言う言葉は、『 もっと勉強しろ 』という意味だったようです。 しかし、マツさん( 1976年昭和51年、当時21歳 )は本当に描かなかったのです。

その後7年間も・・・・・・。

マツさんは、21歳から28歳までの7年間を回想する様に目を細めた。
「 あの頃は酒の味も覚えた頃だし、女もおったしのぉそっちにイッてしまったのぉ・・・・・・でも、本は結構読んだの‥‥それに映画もよく見たのぉ・・・・ 」

そんなマツさんも、あっという間に7年がたち、30歳を前にして焦り出します・・・・。 

私もなぜか30歳を目前にした頃に最も多く漫画を描きました。 
マツさんは週に一本の短編作品を描く事を自分に課します。 

しかし、三週目の作品でつまずいてしまいます・・・・・・。
それっきり、道を見失った旅人の様に漫画制作から遠ざかっていってしまいました・・・・・・。 

マツさんは秋山プロに入ってから30年になりますが、初めに先生から『 描くなッ! 』と言われてからその後、先生から『 描け 』とは言われませんでした・・・・。

「 先生は『 描くなっ! 』と言ってから30年間一度も『 描け 』とは言わんかったのぉ‥‥」
「 本当ですか? 一度も? 」
「 ん・・・・・・でも、この間( 一ヶ月ほど前 )一緒に朝まで酒を飲んだ時『 描け 』って言ったんじゃ・・・・・今頃、言われてもなぁ・・・・・ もう描けんぞ・・・・・ 」
 
この時、マツさんは50歳になっていた。 私は笑うしかなかった。
「 30年前に言ってくれりゃ‥‥ ガンガン描けたんじゃがの‥‥‥‥もう、描けん・・・・・ 」
 
 
 
 
 「その21」より‥‥
 スタッフの仕事ぶりと、小池の恋愛‥‥あっけないものでした‥‥

有料部分は、単行本11ページ分です。コーヒーやおやつなどを楽しみながら、ごゆっくりどうぞ!

 
 

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