漫画家アシスタント物語 第5章 〈3〉 最後の挑戦は殺人漫画!
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《画像上:1988年に制作、「ヤングジャンプ」の新人賞で佳作をいただいた「人殺しのメロディー」の一部。これが最後の賞取り作品になりました。》
< この5章〈3〉は、文庫本約18ページ分 >
その11
東京豊島区千早町にあった私の下宿は大家の加藤さん( 仮名 )所有の古い2階建て木造住宅でした。
明らかに傾いている、かなり古い建物で裏手にある4枚のガラス戸は木枠が腐っていて、木枠からガラス板が今にも落ちそうにグラグラしていました。
それでも広さ( 3畳、4畳半、8畳、各和室 )だけは充分ありましたので、いつも友人、知人が訪ねて来てくれました。
1988年、デビューから2作目に苦しんでいた頃の私の部屋には、時に漫画とは関係のない某宗教団体の幹部とかも‥‥ そして、漫画関係者、秋山プロスタッフ先輩のリョウさん( 仮名:内海遼一、岡山出身、34歳 )なども来てくれて、結構賑やかでした。
薄暗い4畳半の部屋でCD( 「 雨のドモ五郎 」の賞金で買ったCD )をかけ、漫画談義に華を咲かせます。缶コーヒー、缶紅茶、缶ココア‥‥。 そんな物をチビチビやりながら、気が付けば夜が明けている‥‥。 いつもそんな感じでした。
この間にどんな会話をしたかは、ほとんど憶えていません。いくら長時間しゃべっても中身が薄かったという事なのか、夢中で楽しんだので記憶が残らなかったのか、どちらなのかは分りませんが‥‥。
こうして次の漫画の話や日本の政治、世界の経済について話しながら徹夜するのですが、月に一度は夜明けを過ぎ、また夜となり、完全に24時間フルタイムで話し込んでいた事もありました。
この当時の会話には、友人のイラストレーターのオーさん( 仮名、大村亮、88年当時31歳 )も参加してくれました。 雑誌にカットなどを描いているオーさんと初めて会った時の印象は‥‥‥‥
「 絵描きバカ( 国立大学、数学課卒の彼には失礼ですが! ) 」
良い意味で、絵の事しか頭にない人物! 彼は、カバンに自分の作品(カット・イラスト)をいつも持ち歩いていて、私にも自己紹介よりさきに‥‥
「 これ、描いてます 」
‥‥と、原稿をどんどん差し出してくるのです( 私にセールスする様に )。 大阪からやって来たとの事で、さすがに関西人は自分を売り込むにも積極的なんだなぁ‥‥と、感心したものでした。
オーさんはカットとイラストの仕事でサラリーマンの平均賃金( バブル前期で年収550万ほどか )よりかなり稼いでいましたが、本当は漫画を描きたかった様です。 そこで、いつも漫画の話に時を忘れるわけです‥‥。
何時しか( 2,3年後 )2人共作で漫画を描く話になりました。 ダブル馬鹿がそろってコケるというおそまつなお話ですが‥‥。 その前に私の最後の投稿作品「 人殺しのメロディー 」について書いておきたいと思います。
「 壁 」で落ち込み、いくつかのコンテでも上手くいかず、人の噂話に‥‥
『 デビューしてから半年以内にモノにならない奴はダメ 』
などという言葉にドキリとしつつ、焦りまくっていた1988年( デビューして1年! )。
漫画制作には行き詰まり‥‥ その頃、本気で惚れていた女にはバッサリと斬られ( フラれ )‥‥ もう最後のどん詰まりで血ヘドの様な作品を描き上げます。
ヤングJ誌への最後の投稿作品「 人殺しのメロディー 」‥‥‥‥

その12
「 ヤングJ 」誌に投稿する最後の作品「 人殺しのメロディー 」は、何を描いたらよいのか分らぬままに手探りしながら無我夢中で制作しました。
目をつぶってケンカする様なものです。力任せに手を振り回す。 いくら力を込めても手応えがない。
気が付けばヘトヘトに疲れ切っている‥‥‥‥。
さて‥‥
この作品には、いつもより多めに写真資料を使いました。 いつもよりも背景画を精密リアルに描くためでした。苦しみもがくように、ガリガリと、ペンを走らせたわけです‥‥‥‥
作画中‥‥ 思い出深いのが、物語の中で登場する、有名なドイツの高級車の「 M・B 」です。
車体は勿論、車内の資料も欲しかったのですが‥‥ 私は自動車の免許は元より、自動車の知識も全然ありませんでしたから‥‥ ここは、取りあえず車のパンフレットでも手に入れるか‥‥と、お手軽に考えたわけです。( 図書館で調べるのは面倒だし、書店へ行けば金がかかる! )
そこで、あの有名な外車専門店「 〇ナセ 」へ電話します‥‥ ゴミ溜めの様な汚い部屋にパンツ一丁でアグラをかいて‥‥ 私は安タバコを一服。
「 104 」で調べた「 〇ナセ 」の電話番号へ‥‥ 私は‥‥
『 パンフレットが有料だったらどうスっかなぁ 』などと、考えつつ‥‥‥‥
「 あのぉ‥‥『 M・B 』のパンフレットか何かあったら、欲しいんですがぁ‥‥ 」
「 はい。ありがとうございます! 」
生まれて初めて聞くような‥‥ もの凄くていねいな中年男性の声でした!
「 ご購入のお客様でいらっしゃいますね。 早速、配車いたしますのでご試乗下さいませ~! 」
「 あ‥‥っ! ‥‥えっ? 」一瞬言葉に詰まる‥‥
「 ‥‥い‥‥いやぁ‥‥ そ‥‥そのぉ‥‥‥‥ 」
「 お客様、ご遠慮なさらないで下さい。 パンフレットよりも実際にご試乗いただきました方が‥‥ その良さをご実感いただけます! 」
「 あ~っ ああ~~っ ‥‥そ‥‥そうぉ‥‥ねぇ‥‥‥‥ 」
「 お客様の‥‥ ご住所はどちらになりますでしょう? 今すぐ、お車のご用意が出来ますが! 」
私は、この傾いて倒れそうなボロ下宿の前に、ピカピカの「M・B」が横付けされる悪夢を想像して、生きた心地がしなかった。
心底、血の気が引いていく思いだった‥‥‥‥!
住所など言えるはずない! 『 豊島区千早町1丁目〇番地の加藤さま方です 』‥‥なんて死んでも言えない!
「 や‥‥ やっぱりぃ~ バ‥‥パンフレットだけ送って下さい! 」
タバコを持つ手がブルブル震える。
「 かしこまりました 」
意外とすんなり例の如くていねいな返事が返ってきた。 私はホッとして‥‥ タバコをもう一口、吸おうとした瞬間‥‥
「 タイプはどの様なタイプをご希望ですか?」
私は車の事には、からきし無知だった。 確かに「 M・B 」には「 E 」だの「 C 」だのとタイプがある。 そして、700万円クラス、1500万円クラスと高級度が違う様だが‥‥ そんな事は知るよしもない貧乏一筋、預金ゼロで借金地獄の私であった。( 88年当時の私の税込み年収200万ちょっと! )
すでに全身、汗びっしょり‥‥ 額から汗が流れ落ちる‥‥‥‥
「 タ‥‥ タイプゥ~ ‥‥ん~~とぉ‥‥‥‥ 」
「 ‥‥‥‥ 」
「 と‥‥取りあえずぅ‥‥ うぅぅ‥‥ 何でも‥‥ つ~か‥‥ 色んなのが載ってる‥‥ 総合的な物が‥‥‥‥ 」
「 はい。かしこまりました! それでは‥‥郵送先でございますが‥‥ 」
バラバラに粉砕した頭が元に戻った様な気分‥‥。 もう、ど~にでもなれ‥‥ そんな気分で‥‥ とにかく、早口で自分の名前と住所を告げて、投げ捨てる様に受話器を置いた。
たかが「 電話一本 」。 されど「 電話一本 」である。
まったく世の中、甘くない。( ちなみに、豪華なパンフレットは無料だったのです! ありがたや、ありがたや! )
「その13」より‥‥
新人賞への挑戦に挫折する‥‥そんな敗残兵にお呼びがかかるか‥‥?

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漫画家アシスタント物語 第5章
ヤングジャンプでデビューしても楽はできない。 その先からが地獄のレース、だがそのコースは泥沼、迷路と迷走、遅延の地獄だった!
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