見出し画像

2026年上半期|マンガ:涙をこらえろ!

2026年上半期に体験したエンタメ作品の中で特に気に入ったものを個別で書いてみました。

上半期まとめはこちら

マンガでは涙をこらえろ!が一番グッときました。

読み終えて思うことは、ジョージ秋山は、予測不能な物語と圧倒的な表現力で頭をガツーンと殴られる衝撃をくれる。そんな存在だということです。


最初に要約を書いておきます。
後半に感想を書いていますので、ぜひご覧ください。

要約
『涙をこらえろ!』は、一冊の短編集としての満足感だけでなく、ジョージ秋山という作家を継続的に読み直す営みの新たな出発点となった作品でした。表題作では、罪を犯した人間が謝罪ではなく人生そのものを差し出して償おうとする姿が描かれ、「償いとは何か」「人は他者のためにどこまで自分を失えるのか」という問いを受け取りました。同時に、長年ジョージ秋山に惹かれ続けている理由も改めて浮かび上がってきます。それは、人間を極限状態に置いて存在そのものを問い直す視点、読者の予想を裏切る物語構成、そして大ゴマや沈黙によって感情を身体に直接届ける表現です。これらは現在取り組んでいる演劇、漫画朗読劇、ワークショップ、ZINE制作とも深く結びついています。今回の読書は、一作品の感想に留まらず、「ジョージ秋山から何を学び、自分の実践へどう翻訳していくか」という長期的な研究の入口として位置づけられるでしょう。

想定読者
・新しい漫画や表現に出会いたい人
・有名作品だけではなく、少し古い作品にも興味がある人
・漫画を娯楽だけでなく、表現として味わいたい人
・演劇や創作に携わり、他ジャンルから刺激を受けたい人


comic|マンガ

涙をこらえろ!
作:ジョージ秋山

ジョージ秋山との出会いは『アシュラ』

ジョージ秋山が大好きです。

一番初めに読んだのは、アシュラでした。

まだヴィレッジヴァンガードがサブカルチャー好きの聖地のような空気をまとっていた頃、店頭で何気なく手に取った一冊でした。

冒頭、何ページにもわたってギャギャギャギャという狂乱の音とセリフなしで一気に進む悲惨な景色の連発に頭をガツーンと殴られるほど衝撃を受けました。

その後全部を読んでいくと、母親に捨てられた孤独なアシュラが、飢餓の社会の中で人を殺しながら生き続ける物語。
「こ・・・こんな漫画があるんだ・・・・・・」と、本当に頭をガツーンと殴られたような衝撃を受けました。


読むたびに頭をガツーンと殴られる衝撃をくれる作家

その後、『銭ゲバ』『デロリンマン』『日本列島蝦蟇』『灰になる少年』など、見つけるたびに読み進めました。

読むたび読むたびにガツーンガツーンガッツーーンと頭を殴り続けられました。

鋭く切り裂くような絵柄。大胆に配置された大ゴマ。重なる含蓄のある言葉。どの作品にも、人間そのものを突きつけられるような迫力に痺れました。

傑作未刊行作品集には痺れました。
特に、『告白』を読んだ時の衝撃はすごかった。

作者自身が罪を告白するように物語が始まるのに、「あれは嘘です」と何度も前言を覆す。最後、これまで描いてきたマンガキャラクターたちと同じ画面の中に入り、「私は旅に出ます!」と飛び立つような姿に呆然としました。

でも、その予測不能さこそがジョージ秋山だった。
ジョージ秋山は、どの作品でも裏切り、驚き、エンターテインメント精神が溢れていて凄まじかった。読者を驚かせることを最後まで徹底して行う。そんなサービス精神とエンターテインメントへの執念を感じる漫画家だった。


電子書籍でコツコツジョージ秋山体験

その後もコツコツとジョージ秋山作品を集めていきました。
『ラブリンモンロー』全13巻も手に入れたし、『捨てがたき選集』も揃えてきた。『生きなさいキキ』、『弘法大師空海』、『捨てがたき人』も読んで揃ってきた。

それでも、全ての作品を集めるのはかなり難しい。

『浮浪雲』は巻数が多すぎるし、未読作品の多くはプレミア価格になっていた。「ここで一区切りかな」そんな気持ちになっていました。

本棚がいっぱいになり始めたことをきっかけに、電子書籍を試してみようと思いました。

自分はdアニメストアにサブスク登録しているのですが、そこで毎月電子書籍70%offクーポンが届くんです。なんとなく調べたら、ジョージ秋山の作品がありました!な・な・な・な・なんと!嬉しい!
「毎月一冊ずつ読みすすめれるじゃないかー!」

思いがけず、新しい楽しみ方が見つかりました。
最初に読んだのは『シャカの息子』。そして二冊目に選んだのが『涙をこらえろ!』だった。


『涙をこらえろ!』で改めて感じた、ジョージ秋山らしさ

『涙をこらえろ!』は四編を収録した短編集。

友情、裏切り、貧困、死。
青年漫画らしい題材が並びながら、それぞれがジョージ秋山らしい切れ味を持っている。なかでも表題作は特に印象に残った。

友人を事故で失明させてしまった男。彼は自分の声を潰し、正体を隠し、別人として友人を支え続ける。人生そのものを差し出して償おうとします。浪速節というか、人情感MAXなんだけど、ラストが切ない。お金の工面が間に合わず、金貸しを殺人して逮捕されパトカーに乗るその時、目が治った友人がその姿を見て「お前みたいな奴はほんとうにどうしようもない人間だ」と罵るんです。本当は友人の目が治るように医療へつなげたのは彼なのに。それを知らない友人は、事故で自分の目を見えなくした悪漢として思っているんです。彼は最後の最後まで、声を出すのを堪えます。声を出すと、友人に自分のしてきたことがバレてしまうからです。

読んでいて考えた。
人は本当に罪を償えるのだろうか。
償いとは相手のためなのか、それとも自分自身のためなのか。
彼は友人を救いたかったのか。それとも、自分を許したかったのか。

そしてラスト。
ジョージ秋山らしい大ゴマ!

鬼気迫る表情。言葉以上に、その顔がすべてを語ってしまう。
昔からジョージ秋山の大ゴマが好きだ。大きいから印象に残るのだけではなくて、漫画なのに、まるで人間そのものと向き合っているような圧力があります。


人間を極限まで描く力

ジョージ秋山に惹かれ続けている理由はずっと変わっていません。

人間を極限状態へ置くこと。
追い詰められた人間が何を選ぶのか。
そのことだけで善人・悪人を語るのではないこと。
そして、物語の行き先を読者に決して予測させないこと。

読みながら、「次はどうなるんだろう」ではなく、「この作者はいったいどこへ連れていくつもりなんだ」と思わされる。それはストーリーの巧さだけではなくって、作者自身の発想の自由さに触れているような感覚です。


ジョージ秋山を毎月一冊読む

『涙をこらえろ!』を読んだ一番の収穫は、「毎月ジョージ秋山を一冊読む」その楽しみ方が始まったことです。

一冊読むたびに、また頭をガツーンと殴られるかもしれない。
まったく違う方向へ裏切られるかもしれない。
そんなスリリングなマンガに出会えるのはとても嬉しい。

ジョージ秋山の漫画は、人間をきれいには描かない。
だからこそ、人間の複雑さや矛盾、弱さや強さが、そのままこちらへ返ってくる。もし「最近、何かに衝撃を受けていないな」と思っている人がいたら、一度ジョージ秋山の漫画を読んでみてほしい。どの作品があなたの頭をガツーンと殴るかは分からない。けれど、その一撃は、きっと長く身体に残ると思います。


いいなと思ったら応援しよう!