高血圧の薬にはどんな種類がある? 薬剤師がわかりやすく解説する降圧薬の違いと選び方
「毎日飲んでいる血圧の薬。でも、なぜその薬なのかを説明できますか?」
はじめに
少し前のことです。薬局の窓口でいつも通りお薬の説明をしていると、ある患者さんがお薬の袋をじっと見て、こう言いました。
「先生、薬が増えてますよね。これ、前と違う薬が入ってるんですけど……何のために増えたんですか?」
処方箋を確認すると、これまでアムロジピン(ノルバスク®など)だけだったところに、アジルサルタン(アジルバ®)が追加になっていました。
「病状が悪化したんですか?」と続けて聞いてくださったので、
私は少し腰を落として説明することにしました。
「悪化したわけじゃないですよ。ただ、血圧の目標値まであと少し届いていないから、別の仕組みで働く薬をひとつ加えて、一緒に押さえていこう、ということだと思います」と。
その方は少し表情が和らぎ、「なんだ、そういうことか。薬が増えたから怖くなっちゃって」と言ってくださいました。
そして、もうひとつ忘れられない相談があります。
ある日、受付のところで別の患者さんのご家族が小声で話しかけてきました。
「うちの人、血圧の薬、最近飲んでないみたいで……『症状もないし、別にいいじゃないか』って言い張って。どう言えば分かってもらえますか?」
この言葉は薬局でよく聞きます。
高血圧は症状がない。だから、飲む理由が実感できない。
その気持ちはは正直なところ理解できないわけじゃありません。
ただ、「症状がないから大丈夫」というのは、高血圧に限っては、かなり危ない考え方です。
なぜ症状がないのに危険なのかについては、前回の記事で詳しく書きました。まだお読みでない方は、こちらも合わせてどうぞ。
📖 前回記事:高血圧を放置するとどうなる?症状がなくても怖い理由と治療の必要性を薬剤師が解説|Gon|薬剤師ライター
今回は「ではどんな薬を、なぜ飲むのか」という話をしていきます。
窓口でのやりとりの続きでもあり、ご家族からの相談への答えでもある内容です。
降圧薬には「主役が5種類」いる
まず大前提として、降圧薬はひとくくりで語れるほど単純ではありません。作用の仕組みがそれぞれ異なる薬が複数あって、患者さんの状態に合わせて選ばれています。
2025年8月に日本高血圧学会が発刊した最新ガイドライン(JSH2025)では、主要降圧薬として、長時間作用型Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬の5種類が第一選択として位置づけられました。
では、それぞれの薬が体の中で何をしているのか、順番に見ていきましょう。

① Ca拮抗薬(カルシウム拮抗薬)
代表的な薬:アムロジピン(ノルバスク®/アムロジン®)、ニフェジピン(アダラート®CR)、アゼルニジピン(カルブロック®)など
血管の筋肉が縮むには、カルシウムイオンが細胞の中に流れ込む必要があります。Ca拮抗薬はそのカルシウムの通り道をふさぐことで血管を広げ、血圧を下げます。
なかでもアムロジピンは、日本で最も広く処方されている降圧薬で、1日1回の服用で24時間にわたり安定した効果が続く長時間作用型の薬です。
「白くて小さい錠剤」の正体がアムロジピンだったというケースは、薬局でも珍しくありません。
副作用として出やすいのは、顔のほてりや足首あたりのむくみです。
血管が広がることで起きるもので、体が慣れるうちに落ち着くことも多いのですが、続く場合は遠慮なく相談してください。
またグレープフルーツジュースとの飲み合わせにも注意が必要な薬です。
② ARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)
代表的な薬:アジルサルタン(アジルバ®)、オルメサルタン(オルメテック®)、カンデサルタン(ブロプレス®)、テルミサルタン(ミカルディス®)など
体の中には「アンジオテンシンII」という、血管を収縮させて血圧を上げる物質があります。ARBはそのアンジオテンシンIIが受容体に結合するのをブロックすることで、血圧を下げます。
はじめにお話したケースで追加になったアジルサルタン(アジルバ®)は、このARBの中でも比較的新しい薬です。
他のARBと比べてAT1受容体への結合が強固なため、ARBの中で降圧作用が最も強いとされており、24時間にわたる効果の持続が期待できます。
アムロジピンだけでは目標血圧に届かないとき、異なる仕組みからもう一手加えるイメージで追加されることが多い薬です。
副作用は比較的少ないグループですが、腎機能が低下している方が使う場合は高カリウム血症や腎機能のさらなる悪化に注意が必要です。
また妊婦への投与は禁忌とされています。
③ ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
代表的な薬:エナラプリル(レニベース®)、リシノプリル(ロンゲス®)など
ARBと同じくアンジオテンシン系に作用する薬ですが、アプローチが少し異なります。ACE阻害薬はアンジオテンシンIIが作られる段階を阻害して血圧を下げるのですが、その過程でブラジキニンという物質も増やしてしまうため、副作用として空咳が出やすいという特徴があります。
近年は日本ではARBに置き換わってきており、処方頻度はかなり下がっています。ただ「最近なんか咳が続く」と来局された患者さんの薬を確認したらACE阻害薬だった、というケースは今でも経験します。
心当たりがある方は一度確認してみてください。
④ サイアザイド系利尿薬
代表的な薬:インダパミド(ナトリックス®)、トリクロルメチアジド(フルイトラン®)、ヒドロクロロチアジド(ダイクロトライド®)など
「利尿薬で血圧が下がるの?」と意外に思う方も多い薬です。
腎臓の遠位尿細管でナトリウムと水の再吸収を抑えることで尿量を増やし、体内の余分な塩分と水分を排出して血圧を下げます。
地味な印象を持たれがちですが、主な臨床試験ではACE阻害薬やCa拮抗薬と比較して心血管イベントの抑制効果が同等以上であり、プラセボとの比較では脳卒中リスクを36%減少させたという報告もある、エビデンスの確かな薬です。
注意が必要なのは副作用で、電解質異常(低カリウム血症・低ナトリウム血症)、高尿酸血症、耐糖能の悪化などが知られており、定期的な血液検査が推奨されます。
⑤ β遮断薬
代表的な薬:ビソプロロール(メインテート®)、カルベジロール(アーチスト®)など
交感神経の興奮を抑えることで、心臓の拍動を穏やかにして血圧を下げる薬です。狭心症や心不全を合併している方、脈が速めの方に特に適している印象があります。
喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある方には原則使いにくく、患者さんの状態に合わせた選択が重要です。
「なぜ薬が2種類、3種類と増えるのか」
薬が増えることを「病状が悪化した証拠」と感じる患者さんは少なくありませんが、実際はそうとは限りません。
JSH2025では、単剤で目標血圧に到達しない場合には、できるだけ早期に2剤・3剤へとステップアップする方針が明確に示されています。
1種類の薬を大量に飲むより、異なる仕組みの薬を少量ずつ組み合わせるほうが、副作用を抑えながら効果を引き出せることが多いからです。
単剤だけで降圧目標を達成できるのは全体の4割未満とされており、複数の薬を組み合わせること自体は、高血圧治療においてごく普通のことです。
はじめにお話した患者さんのケースも、「悪化」ではなく「目標に向けて戦略を整えた」結果だったわけです。
薬と一緒に続けてほしいこと
薬の話だけで終わるのも、薬剤師としては少し落ち着かないので、
最後に薬と並行して実践してほしいことを3点だけお伝えさせていただきます。
まず減塩から始める。
目標は1日6g未満ですが、いきなり完璧を目指す必要はありません。
ラーメンの汁を残すだけで約3g減らせます。
まず1つだけ、確実に続けられる工夫を見つけることが先です。
運動は有酸素+筋トレの組み合わせで。
JSH2025では、筋力トレーニングも血圧を下げる方法として新たに明記されました。毎日30分のウォーキングに加えて、軽いスクワットや壁押しを数分足すだけでも、積み重なれば変わってきます。
カリウムを摂れる食事を意識する。
野菜・果物・海藻などを増やすことは降圧に有効ですが、腎臓の機能が低下している方が過剰に摂取すると高カリウム血症のリスクがあります。
自己判断で急に増やすのは避けて、主治医や薬剤師に一言相談してから取り組んでください。
養生法については、次回の記事でもう少し丁寧に掘り下げていく予定です。
おわりに
自分が飲んでいる薬の名前とその仕組みをほんの少し知っておくことで、治療との向き合い方が変わることがあります。
「この薬は血管を広げてくれている」
「この薬は腎臓で塩分を出してくれている」
と分かると、飲み忘れたときの感覚も少し変わります。
何か副作用らしきものが出たとき、
「もしかしてこれって薬のせいでは?」と気づくきっかけにもなります。
高血圧は長年付き合っているお薬になります。
とても面倒で薬を飲むのが嫌になる気持ちもすごく分かります。
しかしその薬は、貴方や貴方の大切な家族との未来を守る役割を担っているものだと思って、どうか継続して内服していただきたいです。
そして、少しでも服用中の薬に疑問や不安があれば、お薬手帳を持って薬局に声をかけてください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
参考資料
日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」https://www.jpnsh.jp/guideline.html
CareNet「JSH2025プレスセミナー解説」https://www.carenet.com/news/general/carenet/61350
MSD Manuals「高血圧に対する薬剤」https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/
葛西よこやま内科「高血圧治療薬の選び方(2026年)」https://www.kasai-yokoyama.com/media/
