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いつか観た映画·庵野秀明総監督、樋口真嗣監督『シン·ゴジラ』(2016年)

「シン・ゴジラ」は奥が深すぎて語るのもなかなか憚られるのだが。

ゴジラの誕生を予言した孤高の科学者・牧五郎は、映画のなかでは登場しないのだが、一瞬だけ、顔写真が映る。その顔写真が、岡本喜八監督である。
これも有名な話らしいが、庵野監督は岡本喜八監督をリスペクトしているという。そう言われてみると、「日本のいちばん長い日」と「激動の昭和史 沖縄決戦」の要素が入っていることは、映画を見ればわかる。

興味深いのは、総理大臣の描き方だ。
最初に登場する総理大臣(大杉漣)は、どちらかというと「日本沈没」の総理大臣(丹波哲郎)のイメージに近い。
御用学者のレクチャーを受ける場面や、ヘリコプターに乗って避難する場面などは、「日本沈没」に類似の場面があり、「日本沈没」に登場する総理大臣像を彷彿とさせる。
だが、大杉扮する総理は、あっさりとゴジラに殺されてしまう。
で、総理臨時代理に就任したのが、閣僚の中で生き残った農林大臣(平泉成)。
派閥の順送り人事で大臣になったという老獪な政治家で、有能なのか無能なのか、腹で何を考えているのか、わからない。
この面倒な難局に誰も引き受け手がなく、みんなに押しつけられた形で、総理臨時代理になった。
で、のらりくらりと難局をのりきり、事態が収拾した後、内閣が総辞職する。
このあたりの展開は、「日本のいちばん長い日」の鈴木貫太郎総理(笠智衆)をかなり意識している描き方である。
「シン・ゴジラ」はかつての東宝映画へのオマージュにもなっているのだ。エンドクレジットに伊福部昭の音楽を使っているのもゴジラ愛に満ちている。

話はここで終わらない。いま私は別の意味で『シン·ゴジラ』を再評価している。
いま全国で話題になっているのは、「熊の被害」である。ある県では、不用意に外に出ないように注意を呼びかけているようだ。この被害は相当深刻である。住宅地にもふつうに現れる。熊の被害が起きていない県でも、小学生に「熊鈴」をつけて警戒しているところがあるという。
さらに九州では、これまで熊自体の存在が確認されていなかったものが、熊の目撃情報が寄せられるようになった。どうやら熊は、関門海峡を泳いで渡ったのではないかと推測されている。
いま述べたことは、私の聞きかじり情報なので、不確かな部分もあろうかと思われる。しかし僕が最も驚いたのは、熊の駆除のために自衛隊の出動を要請した県があるという事実である。政府も熊被害の対策に本格的に乗り出したようだ。
まさにこれは『シン・ゴジラ』そのものの展開ではないか!
東京湾に突如現れた巨大不明生物が、東京に上陸し、そこでとんでもない被害をもたらす。最初、その巨大不明生物が何かわからないまま、首相官邸で会議を重ね、自衛隊を出動させて巨大不明生物を駆除するかどうか、延々と議論をする。
特撮シーンのすごさもさることながら、私が好きなのは、巨大不明生物を前にして政府があたふたする場面である。なるほどこの国での意志決定というのはこんなふうになされているのか、というのがよくわかる。
そして現在の熊被害に対する政府や自治体の対応は、まさにこの場面を想起させるのである。私はこのことに気づき、いま全国で問題になっている熊被害対策は、まるで『シン・ゴジラ』の世界そのものではないか!という思いを強くした。
私自身は、現在の熊被害対策が『シン・ゴジラ』で予言されているような気になり、やっぱり『シン・ゴジラ』はスゲえ傑作だ、とあらためて思ったのだが、あとで調べてみると、熊被害対策と『シン・ゴジラ』がシンクロするという言説は、とっくにいろいろな人が言っていたことがわかった。たしかに、誰もが考えつきそうなことである。

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