見出し画像

【連載S1-①】「指導」と「相談」を分けないと人は潰れる:プリセプター制度の構造的欠陥

【連載:対話という処方箋 S1】

1. 【連載S1-①】:「指導」と「相談」を分けないと人は潰れる:プリセプター制度の構造的欠陥
2. 【連載S1-②】:評価を捨てよ、枠の外へ出よう:「ナナメの関係」が組織を救う唯一の理由
 3. 【連載S1-③】「雑談」を対話へ変えよう:ナナメの関係が臨床(ACP)を研ぎ澄ます理由


あなたは、裁判官と弁護士を同時にできますか?

「最近の若手は、打たれ弱くて困る」
「指導するとすぐに泣くか、黙り込んでしまう」
「どう関わればいいのか正解がわからない」

もしあなたが、後輩指導(プリセプター)を任されてこんな風に悩んでいるなら、最初に言わせてください。
それは、あなたの指導力が不足しているからではありません。
あなたの優しさが足りないわけでも、後輩の根性がないわけでもありません。

単に、「システム(構造)」に無理があるのです。

今日は、多くの医療現場で起きている「教育の共倒れ」について、「タテの関係」という視点から診断していこうと思います。


プリセプターに課せられた「無理ゲー」の正体

多くの病院で採用されている「プリセプター制度」。
一人の先輩(プリセプター)が、特定の新入職者(プリセプティー)を担当し、業務指導から精神的なフォローまでを一手に引き受ける仕組みです。

素晴らしい制度ですが、ここには致命的なバグがあります。
それは、一人の人間に、相反する2つの役割を同時に求めているという点です。

役割A:タテの管理者(Judge)

  • ミッション: 業務が安全に遂行できるかチェックする。

  • 行動: 「このケアする前にここちゃんとアセスメントできていないよね」「まだ重症患者は任せられないな」。

  • 関係性: 上下関係。評価する側とされる側。

役割B:ナナメの支援者(Supporter)

  • ミッション: 精神的な不安を受け止め、環境に適応させる。

  • 行動: 「辛くない?」「実は私も新人の頃、同じミスしたよ」。

  • 関係性: 信頼関係。味方であり、安全基地。

二つの機能を整理するとこうなります。


お気づきでしょうか。
役割A(管理者)として「あなたの今の技術は60点です(不合格)」と厳しい評価を下したその口で、
役割B(支援者)として「何でも悩みがあったら言ってね(受容)」と微笑む。

これをされる後輩の立場になってみてください。
「評価者に弱みを見せたら、仕事ができないと思われるんじゃないか?」
そう警戒するのが、生存本能として当たり前ではないでしょうか。

つまり、プリセプター制度は、「私に本音(弱音)を吐きなさい。ただし、私はあなたの成績表をつけているけどね」という、強烈なダブルバインド(二重拘束)の構造になっているのです。


これが「組織の慢性疾患」である

経営学者の宇田川元一氏は、著書『組織が変わる』の中で、組織に蔓延する閉塞感を「組織の慢性疾患」と呼んでいます。

まさに、プリセプターの苦悩はこれに当てはまります。


  • 症状: プリセプターが疲弊し、プリセプティーが萎縮する。

  • 誤った治療: 「指導者研修」を増やしたり、「もっと対話しろ」と精神論を押し付ける。

個人のスキル不足だと誤診して「もっと頑張れ」と薬(研修)を投与しても、病状(構造的欠陥)は悪化する一方です。
なぜなら、問題は「人」ではなく「関係性の設計ミス」にあるからです。


「逃げ場」がないと、人は呼吸できない

タテの関係(指導ライン)は、組織の背骨であり、医療安全を守るために絶対に必要です。
しかし、背骨だけで体は動きません。筋肉や血管のような、柔軟な組織が必要です。

タテのラインで「指導」や「詰め」が発生したとき、その熱を逃がす「排気口」が同じライン上にしかなかったらどうなるでしょうか。
熱は逃げ場を失い、弱い方(新人)か、責任感の強い方(指導者)の心を焼き切ってしまいます。

だからこそ、私たちは「逃げ場(安全地帯)」を意図的に作る必要があります。
それも、指導ラインとは全く別の場所に。


次回予告

では、どうすればこの「無理ゲー」を攻略できるのでしょうか?
答えはシンプルです。役割を分ければいいのです。

「タテ(指導)」はあなたがやってください。
でも、「ナナメ(相談)」は、あなた以外の誰かに任せてしまいましょう。

次回は、この「ナナメの関係」という特効薬について、集中治療医である私が看護師さんのメンター(=ナナメの存在)として実践している1on1の話を交えて、具体的にお話しします。
評価権限を持たない「ただの隣人」だからこそできる、最強の組織ケアの話です。

Next Step:
【連載S1-②】:評価を捨てよ、枠の外へ出よう:「ナナメの関係」が組織を救う唯一の理由


いいなと思ったら応援しよう!