電磁力、強い力、弱い力――量子論が扱う三つの力
副題: 量子から見る宇宙の骨格
前回記事「量子論とは何か」はコチラ👇
序章|見えない力の編み目
宇宙のあらゆる物質は、四つの基本的な相互作用で結ばれている。
重力 電磁力 強い力 弱い力
そのうち重力だけは相対性理論の支配下にあるが、
残りの三つは量子論によって精密に記述される力だ。
それらを支えるのは「場」の概念である。
「場」に関しては以下の記事をご覧下さい。
力とは“何かが引き合う”ことではなく、
粒子同士が量子の場を介して情報をやり取りすることにほかならない。
光子が電磁力を、WとZボソンが弱い力を、グルーオンが強い力を媒介する。
つまり、力とは粒子の会話であり、宇宙はその通信網によって成り立っている。
「世界の四つの力」に関しては以下の記事を参照して下さい。
第Ⅰ章|電磁力――光を操る力
1. 電気と磁気は同じ現象
電磁力は、電子や陽子などの電荷をもつ粒子のあいだで働く。
一方がマイナス、もう一方がプラスなら引き合い、同じ符号なら反発する。
19世紀、マクスウェルは電気と磁気を統一し、
それらが波として伝わることを示した。
その波が――光である。
2. 量子電磁力学(QED)
20世紀に入ると、この電磁力も量子化された。
電磁場の量子が光子(フォトン)であり、
電子はフォトンを交換しながら相互作用する。
電子同士はフォトンを投げ合って“押し返し合う”ように感じる。
この仕組みを数式で記述したのが量子電磁力学(Quantum Electrodynamics, QED)である。
QEDは観測史上もっとも正確な理論であり、
実験と理論の誤差は10億分の1以下
それほどまでに自然は量子の言葉で正確に語られている。
3. 光は波であり粒である
フォトンは質量をもたないため、光速で飛ぶ。
そのため時間も空間も「同時」に存在しているかのように振る舞う。
電磁力の量子論は、波と粒の二重性の実例でもある。
第Ⅱ章|弱い力――変化をもたらす力
1. 弱いのに、宇宙を動かす
弱い力(弱い相互作用)は、その名のとおり非常に短距離でしか働かない。
陽子や中性子の内部で粒子を別の種類に変える力である。
たとえば、
中性子が陽子に変わるときに電子とニュートリノを放出する。
これがベータ崩壊だ。
この現象がなければ、太陽は輝かない。
なぜなら、太陽のエネルギー源である核融合反応では、
水素がヘリウムに変わる過程に弱い力が介在しているからだ。
2. 媒介する粒子はW・Zボソン
弱い力を伝えるのは、WボソンとZボソン。
これらは非常に重く、光速で飛べない。
そのため力が遠くまで届かない。
電磁力の光子が“軽くて長距離”なのに対し、
弱い力のボソンは“重くて短距離”
この質量の違いを説明するのが、後に登場するヒッグス機構である。
3. 電磁力との統一
20世紀後半、理論物理学者グラショウ、ワインバーグ、サラムは、
電磁力と弱い力をひとつの枠組みで説明できることを示した。
これが電弱統一理論(Electroweak Theory)
高エネルギー状態では、光子とW・Zボソンの区別がなくなり、
同じ場の振動としてふるまう。
宇宙誕生の初期、ビッグバン直後の高温状態では、
この二つの力は区別されていなかったと考えられている。
第Ⅲ章|強い力――宇宙を束ねる力
1. 原子核を結ぶ「接着剤」
強い力(強い相互作用)は、原子核を構成する陽子・中性子を結びつけている。
もしこの力がなければ、プラス同士の陽子は電磁反発で弾け飛び、
原子核は存在できない。
この力は陽子や中性子内部のクォーク同士を束ねるものであり、
グルーオンという粒子が媒介する。
グルーオン(gluon)は、英語の“glue=接着剤”に由来する。
2. 量子色力学(QCD)
強い力の理論は、量子色力学(Quantum Chromodynamics, QCD)と呼ばれる。
クォークは“色荷”という性質をもち、三種類(赤・青・緑)に分かれる。
グルーオンはその色を交換しながらクォークを束縛する。
この結びつきは非常に強く、
エネルギーを注いでもクォークを単独で取り出すことはできない。
これを閉じ込め(confinement)という。
逆に、距離が極めて近い場合には力が弱まる。
これを漸近的自由(asymptotic freedom)と呼ぶ。
強い力は距離によって逆転する、奇妙な性質をもっている。
3. 宇宙の熱と強い力
ビッグバン直後、温度が10¹²Kを超える状態では、
クォークとグルーオンは自由に動き回っていた。
これをクォーク・グルーオン・プラズマという。
宇宙が冷えるにつれて、それらは結合し、
陽子や中性子といった“物質の骨格”を形成した。
つまり、強い力は宇宙を冷却によって固めた張力だった。
第Ⅳ章|ヒッグス機構――質量を与える場
三つの力を統一的に理解するには、もう一つの登場人物が必要になる。
それがヒッグス場(Higgs field)だ。
ヒッグス場は宇宙全体を満たす見えない粘性のようなもので、
粒子がそこを通過するときに“抵抗”を受けて質量を得る。
光子はこの場と相互作用しないため質量ゼロ、
W・Zボソンは強く相互作用するため質量をもつ。
2012年、CERNのLHC実験によってヒッグス粒子が発見された。
それは「質量とは何か」という問いに対する量子的な答えであり、
同時に電弱統一理論の確証でもあった。
「質量とは何か」については以下の記事をご覧ください。
第Ⅴ章|標準模型という完成図
電磁力、弱い力、強い力――この三つを統合した理論体系が、標準模型(Standard Model)である。
その構造は、見事なまでに整っている。
• 物質を構成するフェルミ粒子(クォークとレプトン)
• 力を媒介するボソン(光子、グルーオン、W・Zボソン、ヒッグス)
• そして、すべてを支える量子場
標準模型は、ほぼすべての実験結果を説明してきた。
LHCやBelleなどの加速器実験でも、標準模型の予言は小数点以下10桁レベルで一致している。
つまり、人類史上もっとも成功した理論である。
だが、重力を含められないという大きな限界を抱える。
標準模型は「ゲージ理論」であり、3つの力を次のように表す:
SU(3)_C ×SU(2)_L × U(1)_Y
しかし重力は「曲がる時空」という幾何的構造で記述されている。
ゲージ理論の枠外にあるため、そこに組み込めない。
つまり重力とは「非常に弱い力」で、「常に引力」であり、「正負に打ち消し合わない」ため、「距離が離れても全体効果として残る」という性質を持っている。
それは、星のような質量の大きい世界では強い影響力があるものの、粒子のような質量の小さい世界では無視できるほど影響が少ないということでもある。
これはまさに、重力だけが他の3つの力と対称性が違うことだ。
他の3つの力は「+−」の電荷や色荷があり、
近距離で強く、遠距離で打ち消し合う。
重力だけは単極的(monopole)で、「引くだけ」
だから、
• 星・銀河・宇宙スケールでは支配的
• 原子・素粒子スケールではほぼ無視できる
という両極端のふるまいを見せる。
まとめると、
標準模型は、局所的に働く
重力は、全体的に働く
つまり、重力とは「観測しにくさ」と「他とは違う性質」を併せ持っているのだ。
これは、標準模型が描くのは「場」の上の世界であり、
重力が描くのは「場」そのものの形であると言える。
重力については以下の記事をご覧ください。
標準模型に、重力を加えることは出来てはいないが、さまざまなアプローチが取られている。
そのうちの一つが重力の量子化である。
「量子化」とは、「力の最小作用単位を決めること」
その力が弱ければ弱いほど、よりミクロの現象を見なければならない。
そこで、「場」が必要になってくる。
「場」については以下をご覧下さい。👇
この重力の量子化については「量子重力理論」や「超弦理論」が説明しようとしている。
超弦理論に関しては以下の記事をご覧下さい。👇
ここまでの三つの力は、量子論が描く宇宙の内側で交わっている。
終章|力の織り目としての宇宙
電磁力は世界を照らす。
弱い力は世界を変える。
強い力は世界を支える。
それらはすべて、量子の場という見えない布の上で振動している。
光子、グルーオン、W・Zボソン
これらは宇宙の糸を編む“結び目”のような存在だ。
つまり、宇宙は力によって結ばれ、
その力は粒子という形を借りた波の干渉である。
私たちは、量子の織物の上に立つ影にすぎない。
だが、その布のパターンを理解することで、
人類は“存在”そのものの設計図をのぞき始めている。
いいなと思ったら応援しよう!
応援よろしくお願いします!いただいたチップは研究費用に回します。