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浮かばれない人とはどんな人か



副題
許すことと
利用されることの境界線について

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はじめに

浮かばれないという言葉は、死者にだけ使われるものではない

人は生きているうちから、浮かばれなくなることがある

そこにいる
話すこともできる
自分の考えも持っている

それでも、相手の事情を理解することを優先し、自分の痛みを後回しにし続ければ、その人の存在は関係の中で少しずつ沈んでいく

相手の気持ちは説明される
相手の行為には理由が与えられる
相手の未熟さには背景が見つけられる

けれど、自分が傷ついたという事実だけが、どこにも置かれない

浮かばれない人とは、誰にも理解されない人ではない

他者を理解することによって、自分が理解される場所を失った人である


浮かばれない人がいる

悪いことをしたわけではない

むしろ
ちゃんとしてきた人である

相手を悪者にしない

仕返しをしない

事情を考える

怒りだけで関係を終わらせない

自分にも責任がなかったかを考える

相手の未熟さまで理解しようとする

そういう人ほど
なぜか浮かばれないことがある

なぜなのか

それは
優しいからではない

誠実だからでもない

本当の問題は
その優しさが
相手にとって免罪符になってしまうことにある

許してくれる

責めてこない

仕返ししてこない

最終的には理解してくれる

この人なら大丈夫

そう思われた瞬間
誠実さは信頼ではなく
利用可能性として読まれてしまうことがある

浮かばれない人とは
弱い人ではない

相手の責任まで
自分の理解で処理してしまう人である


第一章
浮かばれない人は仕返しをしない


浮かばれない人は
たいてい仕返しをしない

傷ついたとしても
相手を壊しに行かない

怒りを持っても
それを相手の人生に投げ返さない

本当は言えることがある

あの時こうだった

あなたはこうした

私はこう傷ついた

それなのに
言わないことがある

言えば相手が苦しむから

言えば関係が崩れるから

言えば自分まで醜くなる気がするから

そうやって
自分の中で処理する

これは美徳でもある

けれど
同時に危うさでもある

なぜなら
仕返しされない相手は
自分の行為の重さに気づかないことがあるからだ

痛みが返ってこない

代償が見えない

関係が表面上は壊れない

すると相手は
自分が何をしたのかを
深く考えないまま進んでしまう

そして浮かばれない人だけが
その場に残る

自分の傷と
相手の事情と
終わらなかった問いを抱えたまま
静かに立ち尽くすことになる


第二章
許される人は
ときに人を雑に扱う


許すことは美しい

けれど
許されることに慣れた人は
ときに人を雑に扱う

どうせ許してくれる

どうせ怒らない

どうせ理解してくれる

どうせ最後には
自分を悪者にしない

そう思われたとき
許しは相手の成長につながらない

むしろ
相手の未熟さを保存してしまう

ここで間違えてはいけない

許すことが悪いのではない

問題は
許すことと
元の位置に戻すことを
同じものにしてしまうことだ

許してもいい

けれど
同じ距離に戻さなくていい

理解してもいい

けれど
同じ信頼を渡さなくていい

怒りを手放してもいい

けれど
相手の責任まで消さなくていい

ここを分けられない人は
いつまでも浮かばれない

なぜなら
相手は許されたことだけを受け取り
自分の行為によって失われた信頼を
見ないままになるからだ


第三章
一貫性は信頼にもなり
攻略可能性にもなる


一貫している人は信頼される

昨日と言っていることが違わない

感情で態度を変えない

相手によって扱いを変えない

筋を通す

そういう人は
成熟した相手から見れば
安心できる人である

けれど
未成熟な相手から見れば
攻略しやすい人にもなる

この人はこういう時
こう考える

この人は最終的に理解する

この人は相手を悪者にしない

この人は感情的に潰しに来ない

この人は自分の事情まで考えてくれる

そこまで読まれると
一貫性は信頼ではなく
都合のいい予測可能性になる

人は
予測できるものを信頼する

しかし同時に
予測できるものを利用する

だから
一貫している人ほど
境界線を持たなければならない

一貫性とは
何をされても同じ態度でいることではない

一貫性とは
自分の基準を曲げないことだ

許す時も
距離を置く時も

助ける時も
もう助けない時も

その基準が同じ場所から出ているなら
それは一貫している

浮かばれない人は
一貫して優しすぎる

これから必要なのは
一貫して境界線を持つことなのだと思う


第四章
理解することと
背負うことは違う


浮かばれない人は
相手を理解しようとする

なぜ黙っていたのか

なぜ謝ったのか

なぜ逃げたのか

なぜあの時
あんな言い方をしたのか

その背景を考える

家庭環境かもしれない

余裕がなかったのかもしれない

怖かったのかもしれない

悪意ではなかったのかもしれない

そこまで見ることは
大切である

人を悪者にしないためには
背景を見る必要がある

けれど
背景を見ることと
責任を消すことは違う

事情があった

だから仕方ない

ここまで行くと
理解は相手の免罪符になる

本当はこうである

事情はあった

けれど
その行為によって傷ついた人もいた

悪意ではなかった

けれど
結果として相手を曖昧な場所に置いた

怖かったのかもしれない

けれど
怖かったことは
説明責任を消す理由にはならない

このように
背景と責任を同時に見る必要がある

理解する

でも背負わない

事情を見る

でも代償は消さない

悪者にしない

でも信頼の階級は下げる

この分離ができた時
人はようやく浮かばれ始める


第五章
信頼には階級がある


信頼は
あるかないかだけではない

信頼には階級がある

挨拶できる信頼

仕事を任せられる信頼

短い雑談ができる信頼

弱音を見せられる信頼

秘密を預けられる信頼

人生の近くに置ける信頼

一度傷つけられたからといって
すべてを断つ必要はない

けれど
すべてを元に戻す必要もない

相手を許したとしても
信頼の階級は下げていい

これができない人は
許すか
絶縁するか
その二択になってしまう

しかし
人間関係は本来
もっと細かく調整できる

この人とは仕事だけ

この人とは挨拶まで

この人とは雑談まで

この人とは深い話はしない

この人とはもう二人きりでは会わない

この人には期待しない

この人の幸せは願うが
自分の人生には入れない

それでいい

悪者にしないことと
近くに置くことは別である

祝福することと
信用することも別である

許すことと
再接続することも別である

ここを分けることが
浮かばれない人に必要な技術なのだと思う


第六章
優しさが免罪符に変わる時


優しさは
相手を救うことがある

けれど
優しさは
相手を甘やかすこともある

本当は
相手が自分で焼かれるべき罪悪感がある

本当は
相手が自分で引き受けるべき後悔がある

本当は
相手が自分で向き合うべき沈黙がある

それを
こちらが理解で冷ましてしまうことがある

大丈夫

仕方なかった

あなたもつらかったよね

悪意じゃなかったんだよね

そう言うことで
相手は救われるかもしれない

けれど
それが早すぎると
相手は自分のしたことの意味に
届かないままになる

だから
優しさには温度管理が必要である

すぐ冷やしてはいけない罪悪感がある

すぐ許してはいけない沈黙がある

すぐ美談にしてはいけない違和感がある

相手を焼き尽くす必要はない

けれど
相手が自分で感じるべき熱まで
こちらが奪ってはいけない

優しい人が浮かばれないのは
優しいからではない

優しさに境界線がないとき
その優しさが
他人の免罪符にされるからである


第七章
許すけれど戻さない


これから必要なのは
冷たさではない

仕返しでもない

人を悪者にすることでもない

必要なのは
許すことと
戻すことを分けることである

許すけれど
元の位置には戻さない

理解するけれど
相手の責任は相手に置く

仕返しはしないけれど
代償は消さない

悪者にはしないけれど
信頼の階級は下げる

祝福はするけれど
違和感は残す

もう怒っていない

でも
もう同じようには扱わない

これでいい

この態度は冷たいのではない

むしろ
かなり誠実である

なぜなら
現実を曲げていないからだ

相手を憎しみに閉じ込めていない

けれど
自分の傷もなかったことにしていない

相手の事情を見ている

けれど
自分の境界線も消していない

ここに
新しい誠実がある

以前の誠実は
相手を傷つけないためのものだった

これからの誠実は
相手を傷つけず
自分も曖昧な場所に置かせないためのものになる


終章
浮かばれるために必要なのは
優しさを捨てることではない


浮かばれない人は
弱い人ではない

むしろ
かなり強い人である

怒りに飲まれない

相手を悪者にしない

仕返しをしない

自分の責任も見る

それは簡単なことではない

けれど
その強さが
自分を縛ることもある

相手を理解しすぎることで
相手の責任まで処理してしまう

許しすぎることで
相手に代償を感じさせない

一貫しすぎることで
攻略可能な人になってしまう

だから
浮かばれるために必要なのは
優しさを捨てることではない

優しさに境界線を持たせることである

人を悪者にしなくていい

でも
信頼の階級は下げていい

仕返ししなくていい

でも
代償を消さなくていい

理解していい

でも
背負わなくていい

許していい

でも
戻さなくていい

そうやって
ようやく人は
自分の優しさによって
自分を沈めずに済む

浮かばれない人とは
誰かを深く理解しようとするあまり
自分の痛みの置き場所を失った人である

そして
浮かばれる人とは
その理解を捨てずに
自分の境界線を取り戻した人なのだと思う


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