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【企画SS#片想い文芸部】色(白と黒)

(約2,000字)

「白黒つけてやろうじゃないか、と」
「そんな喧嘩腰な態度で行くんですか!?」
「だって合理性がないですから。受け入れられない、と明確に突っぱねるしかありません」
 上席者の剣幕に、引けていた腰がさらに引ける。これでは協議なのか喧嘩なのかわからない。
「でもでもでも向こうは部長まで出してくると……」
 対してこっちは管理職と担当者だ。いくらこの人が当部のスーパーエースでも、職階差はどうしようもないのでは。相談ならともかく、喧嘩……もとい、ハードな協議をしに行こうとしているのに。
「カウンターをどうするかは相手の判断です。当部としては、受け入れられないという現状意見が変わらない、つまり協議に発展の可能性がない以上、エスカレーションの必要はありません」
 むしろ、と不敵な笑みが唇に咲く。
 星が宿ったような瞳に、軽く目眩がした。
 ワーカホリックめ。

「相手が早々に副将を出してくるのは好都合です。ここを突破すれば残るは大将のみ。いえ、大将戦を要しない可能性もあります」
 いざ勝負、と言わんばかりの覇気に、はっきりと目眩がした。

 ワーカホリックめ。


 そんな経緯で乗り込んだ、他部協議の後。
 自部署に戻る途中、「ちょっと休憩しましょうか」と言われて喫茶スペースに寄る。この人から休憩に誘うなんて珍しい。
 木戸さんは明らかにご機嫌だった。

「勝っちゃいましたね……」
「え、ご不満ですか?」
「いえ。最初あんなにピリピリしてたのに、意外とあっさり呑んでくれたなぁ、と」
 カフェオレを飲み飲み、先ほどの協議を振り返る。
 明らかに戦闘態勢だった他部だが、木戸さんの説明を聞いていくうちに先方部長の態度が徐々に軟化し、最終的には納得してもらうことができた。
 信じられない。あんなに警戒していたのに。

「まず、先方の部長がそもそも話のわかる方だというのがありますよね」
 木戸さんは楽しそうに応える。
 白黒つける、と不敵に笑っていた戦闘態勢とのギャップがすごい。
「自部署の負担増となれば、警戒するのは当然です。実務ラインからはネガティブな報告を受けていたでしょうし。けれど直接話を聞くことで、施策の意義に納得できた。真っ当なご判断をしていただけて喜ばしい限り」
「なるほど……部長ともなると協議相手としてはより厳しいと思っていましたが、そうじゃないこともあるんですね」
「もちろん施策の意義次第でしょうし、政策判断が入る分、逆に手強いこともありますが……今回は呑んでくれるだろうと思っていました」
「さすがでございます」
 わたしの賛辞に、木戸さんはふふ、とおかしそうに笑った。

「他人事のように言いますね。これは間宮さんの成果ですよ」
「え?」
 なんのことだ。協議中、わたしは一言もしゃべっていない。
 いや、一言くらいはしゃべった、けれど。
「あれが決め手でしたよ」
「ええ?まさか」

 協議の佳境。
 先方部長の「この検証データはどうやって集めたのか」という質問に、わたしが作業担当者として答えたのだ。木戸さんに、目で促されて。
 3年分の個別案件データをすべて目視で確認し、内容毎に分類した、と。

 あれが決め手?
 まさか。

「本当です。3年分のデータを目視で確認した、と言われたら、まずは引きます」
「ええ……指示したくせに」
 どれだけ残業したと思ってるんだ。心外だぞ!
 わたしの不満を知ってか知らずか、木戸さんは淡々と続ける。

「そして『こいつらまじか』という感想の後にあるのは、検証結果への信頼、結果が示す施策の合理性、そして何より、当部の本気度です。……作業担当者の言葉は、その点重みが違いますからね。データについての質問に、
すべて明確に答えられるのは間宮さんしかいません。あの場で、『この検証結果は間違いない』と思わせることができた。それが勝因です」

 格上の他部部長にも臆さず主張する強い瞳が、真っ直ぐにわたしを映して微笑む。
「間宮さんとだからこそ、勝てた協議ですよ」

 手のなかでカフェオレの缶が揺れる。ぽちゃん、と重たい水音が響く。
 これは仕事の話だと、いつもどおり、必死に自分に言い聞かせる。
 そんな心境を知ってか知らずか、木戸さんはすっと目線を外して足元を見た。

 いつも前を見ている瞳。強くて不敵で、臆さず進み続ける瞳。
 仕事に、恋をしている瞳。
 その瞳は、きっとわたしを、映すことは……

「楽しいですね」
「……え?」
 視線は合わせないままで、木戸さんはやわらかく微笑んでいる。
 手のなかで、またカフェオレの缶が揺れる。
「……こうして、また一緒に、同じものを目指すのは」
 楽しいですね。

 なんて答えればいいかわからない。

 楽しい。
 嬉しい。
 こうして一緒に、同じものを目指せるのは。
 誰よりも近くで。

 
 そう答えたらどうなるのだろう。
 この人は、どんな表情をするのだろう?

 
 ……でも今はまだ、もう少し。
 白黒つけずに、呑み込んでいたい。 


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こちらの企画に参加させていただきます↓
よろしくお願いいたします。
#片想い文芸部
#色

前回の「赤」に続き、今回は「白と黒」でいってみました。
昔のCMであった、
♪カフェオーレが飲みたいの
 強いコーヒーもいいけど
 やさしいミルクもステキなの
 白黒つけないカフェオーレ♪
が好きだったのを思い出し、そのイメージで。

もっと明確に木戸さんvs香山さんに持って行けるかなと思いましたが……
こういうところも、間宮さんらしいということで。

前回のこの人たち↓
香山さんターンが続いていたので、今回は木戸マネ頑張りました!

これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)

いつも楽しく参加させていただいてます、
ありがとうございます!


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