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【企画SS#片想い文芸部】色(赤)

(約2,000字)

 色で言うなら絶対赤だ。

「差異として許容できない以上、いずれかに統一するしかありません」
「でも、当社とは顧客サービスの内容が違います。こちらの規程に合わせろと言うのは乱暴では」
 意見するわたしに、木戸さんの瞳がキラリと光った。
「こちらに合わせろ、とは言っていませんよ」
「……え?」

 進行しているのは、グループ各社の規程からローカルルールを排除し、記載を統一するというプロジェクトだ。当然、規程をベースにした業務プロセスも変更される。
 同じ方向を向いているはずのグループ内で、サービスや商品の提供方法、管理方法が違うのはおかしい。グループガバナンスの観点から統一されるべきである、というのが、プロジェクトの趣旨。
 目指すものはわかる。
 けれど、別会社である以上、業務の目的自体が違うはずだ。
 規程改定に伴う業務プロセスの変更は、現場に多大な影響を及ぼす。それがどんな内容でも、必ず強硬な反発が起こる。変化自体がストレスだから。
 業務目的の違う会社に合わせろと言われるなら、なおさら。

 だから、統一がマストな部分と、各社の業務上の差異として許容される部分の見極めが大切。
 最初はそういう話だったはず、なのだが。

 キラキラと輝くその人の瞳に、わたしのなかでアラームが赤く鳴り響く。

 赤は、危険。

「この部分は統一がマストなんですよね?」
「そうですね。差異を許容する合理性が見当たりません」
「でも、当社の規程に合わせろと要求するわけではない」
「はい。そもそも」
 木戸さんの瞳が真っ直ぐにわたしを射る。
 明るい日差しが差し込むミーティングスペース。
 身を乗り出した木戸さんの瞳に、自分の顔が映っている。
「当社に合わせるべきだという主張に、合理性はありますか?」
「ご……合理性……?」
「中核企業……一番規模が大きいから、は理由になりません。あくまで顧客サービスの提供に向け、どこの、どの実務が最適か。その検証が第一です。検証の結果、当社のプロセスが最適であれば、そう説明して同意を得ればいい」
「それはそう、ですが」
 それはつまり。
「……検証の実施と、その結果次第では当社サイドが規程を変更する可能性がある、と……」
 わたしの言葉に、木戸さんは満面の笑みを浮かべた。
「話が早くて助かります」


 ワーカホリックめ。
「規程を合わせるだけでも大変なのに!」
「木戸さんらしいよなぁ」
 隣で上司が楽しそうに笑う。
「わかりますよ?木戸さんのおっしゃることはもっともです。でもまずは最低限の部分を統一して、残りはいったん差異を許容して、将来的にじっくり交渉するって方法もあるじゃないですか!」
「俺もそっち派」
「ですよね?!」
 調子づいたわたしは、上司相手に荒ぶり続ける。
「確かに『中核企業だから』は理由になりませんけど!でも現場の影響範囲って意味では、規模って無視できないと思うし!」
「うんうん」
「一気に統一できたほうがいいですけど!でも規程はこれだけじゃないし!……って、え?もしや、他の規程でも同じように検証を……?」
「ありえる〜」
「笑い事じゃないんですが!?」

 キラキラと輝く瞳。
 仕事に恋をしている瞳。
 こちらまで惹き込んでやまない、瞳。

 色で言えば、あの人は赤。燃えるような赤。
 赤は、情熱。 

 ワーカホリックめ。


「残業地獄……」
 脱力するわたしに、上司はふふ、と笑って、散乱する資料を手に取った。

 真っ赤に線やコメントが入った資料。
 あの人との、仕事の資料。

 ……ワーカホリックめ。


「でもひとりじゃないでしょ」
 静かな声。一瞬、意味がわからない。
 瞬きをするわたしに、上司はちらりと視線を寄越す。
「一緒にやるでしょ、木戸さんは」
 そういう人だよね、と呟く声は静かで、視線は資料に向けられている。
 なのに、ぎゅっと心臓を掴まれたような気がした。
「いつも背中見せてさ。部下より後ろに下がったりしない。一番最初に切り込んで、一番大変なとこ仕留めてくるよね」
 そういう人、だよね。
 視線は資料に向けられているのに、心を見透かされている気がする。
 答えられないでいると、不意に上司がこちらを見た。
「かっこいいよね、木戸さん」

 アラームが鳴る。
 赤いアラーム。

 赤は、

「憧れるのわかるなぁ。俺が部下でもそうなると思うよ」
「あ……憧れ、って……」
 かっこいい、って。

 頬が熱い。
 上司の視線が痛い。

 それ以上何も言えないわたしに、上司はでも、と唇を引き上げた。
「ついて来いって引っ張るだけじゃなくて、後ろで支えて信じて待つ、って形もあるからさ」
 
 アラームが鳴る。
 これはマネジメントの話。
 上司としての接し方、の話。

「……覚えといてね?」

 
 赤は危険。
 赤は、止まれ。


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こちらの企画に参加させていただきます↓
よろしくお願いいたします。
#片想い文芸部
#色

業務プロセスの検証にワクワクが止まらない、らしい。
ワーカホリックめ!

前回のこの人たち↓
香山さんが追い上げてますよ、木戸マネ。

これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)

いつも楽しく参加させていただいてます、
ありがとうございます!


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