【お題SS#片想いのロジック】四季違い(季語とは違う季節の話)
(約2,000字)
「花火を見に行ったことがあって。向こうに、大きな自然公園があるじゃないですか」
「え、あそこお祭りやってるんだ?」
湯気の向こうで香山さんが目を見開く。
一番奥が香山さん。そして木戸さん、わたし。
なぜこの並びなのか。
「いえ、行ったのはクリスマスです。イルミネーションが綺麗だと聞いてたんですが、花火もあって……」
「クリスマス?」
「イルミネーション?」
ふたりの思わぬ大声に、こちらが驚いてしまった。
「誰と?」
「誰って……同期の白井さんですけど……」
「また白井さん!」
「なんですかまたって。失礼な!」
「いや、ほんとに仲良いから。プライベートでも会うんだ?」
「そうですね、珍しいです」
わたしと香山さんの会話に、挟まれた木戸さんが困ったようにおしぼりを握りしめている。
「席順変えませんか。わたしと香山さんが並んだほうが」
「そしたら間宮さんと木戸さんはしゃべらなそうじゃん」
「ならわたしが真ん中に……」
「……いや、女性を男ふたりで挟むのはなんかすごく抵抗感ある」
「……意外と紳士的ですよね」
「俺はいつでも紳士的だし頼れる上司のはずだけど?」
何を言う、悪い大人のくせに。そう考えて睨むわたしに、木戸さんがぷっと吹き出した。
「おふたり、本当に気が合うようですね」
「ええ……」
「待って、引くとこ?」
「私の部下だった頃より、表情も言動も明るく見えます」
「それは……上司がワーカホリックで、諌めるのもお支えするのも大変でしたから」
この人の部下だった頃。
仕事に夢中な姿を、一番近くで、毎日見ていた頃。
この人が追い求めるものにはなれなくても、せめて部下として、その背中を追っていけたら。
そう思っていた頃。
「それは、申し訳なかったです」
眉を下げられて心臓が跳ねる。
そんな表情は、ちょっと……
「嫌だったわけでは。むしろ……」
「むしろ?」
「……なんでも、ないです」
もの問いたげに首を傾げる木戸さんの向こう。香山さんが、ほんの少しだけ唇を引き上げた。
ズルい。
こんな時に、やさしい表情をするなんて。
「とりあえず、食べましょうか。木戸さん念願のおでん屋ですし」
香山さんが朗らかに言って、我々はおでんに箸をつけた。
「美味しかったですね。ごちそうさまでした」
「そうですね、楽しかったです」
「はは、原価計算もやけどもなくて何より」
並んで歩くふたりの上席者。
こうしてふたりの背中を見ながら歩く機会は、きっともうない。
そんなことを、ぼんやり思う。
長かった共同プロジェクトは終わって、後は現場対応だけ。
こんな時間は、終わってしまう。
「あ、あそこでしょ? 間宮さんが言ってたの」
香山さんの声に思考が途切れる。指さすのは、確かにおでん屋さんで話題にした場所だ。クリスマスに同期と花火を見た、自然公園。
「そうです」
美しい光景を思い出して、無意識に言葉がこぼれた。
「今年もやるかな、イルミネーション」
「……見に行きたいですか?」
「え?」
どういう意味だ。
視界の端で、香山さんがやれやれと肩を竦める。
「あ、俺ちょっと電車やばそう。お先に!」
「えっ、香山さん?」
爽やかな笑顔を残して、上司はあっさり去って行った。
取り残されて、ふたりで呆然と立ち尽くす。
「……行っちゃいましたね……」
「ほんとに、自由なんだから」
思わず恨みがましい言葉が出た。意図がわかるだけになおさら。
こんなの、困る。
「……プロジェクト、終わっちゃいましたね」
言ってから自分で呆れる。仕事のことばかりで色気がないと、この人との会話にいつもがっかりしていたのに。
結局わたしも、仕事以外でどう振る舞えばいいかわからない。
「実は、残念です」
「……残念?」
「木戸さんと仕事をする機会は、もうないかもしれませんから」
仕事に恋をしている瞳。
それがキラキラと眩しくて、どうしようもなく目を惹かれて、追加検証も、会議資料の修正も、他部との喧嘩みたいな協議も厳しい部内調整も、どんなことでも関わりたかった。
この人の仕事を、一番傍で見ていたかった。
「楽しかった、と言えるのかはわかりませんが。木戸さんに、ついて行きたかったです。……だから、プロジェクトが終わって残念です」
もう、この人の傍には……
「……人間関係は、職場だけではないと思います」
「………え?」
困ったような、照れたような、無防備な笑顔。
心臓が、大きく跳ねる。
「もし、私が踏み込み過ぎていたら……それがご不快なら、遠慮なくおっしゃってください。でも私は、間宮さんとこれまで以上の関係になれたら嬉しいです。……仕事でも、そうじゃなくても」
「仕事じゃ、なくても?」
暴れ回る心臓がうるさい。
全身が熱くて、息が苦しい。
惹かれてやまない強い瞳が、真っ直ぐにわたしを映している。
これは。
これは……
「……イルミネーションと花火。今年も、見に行きたいですか?」
どう、答えれば。
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こちらで募集したお題を使わせていただきました。
Temppさん、素敵なお題をありがとうございました!!
お題に沿えているのかどうか……
自信ないうえに木戸マネの思わぬ踏み込みに戸惑う作者。
え? 終わる? 終わるの? 終わりそうじゃない??
次回……限定復活中の本家で行くしかなくない……!?
前回のこの人たち↓
木戸マネの頑張り、推し語りに変換されて失敗編
おでん屋さんに行くことになったいきさつはこれ↓
これまでの話はこちらからどうぞ☆
TALESでも公開してます!このシリーズだけならそっちのほうが読みやすいかも。
ぜひぜひ覗いてやってください(*´∀`*)
note版はこちら↓
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