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【企画SS#片想い文芸部】魔法

(約2,000字)

 魔法マジックじゃない、論理ロジックだ。
 某古典的名作ミステリにおける名探偵のセリフ、らしい。快刀乱麻の論理ロジックで真相が明らかになる様は、あたかも魔法で世界が変わるようなのだろう。未読なのでイメージでしかないけれど。
 では果たしてこの状況は、魔法マジックなのか論理ロジックなのか。

 12時を迎えたシンデレラのように、魔法が解けて、世界が変わる。
 目の前のロジックモンスターの一言で。

「係替え、ですか?」
 そう呟く自分の声が、少し遠くに聞こえる気がした。水の中で聞く音のように。
「はい。急な話ですが、来月から香山さんのチームに配属となります」
「香山さんの、チーム」
 状況を理解し切れない私に、上司は淡々と説明を続ける。
「香山さんとお仕事をされたことは?」
「ありません。データの共有くらいで」
「なるほど。フランクな方ですし、いろんなチームをご経験されているので、今後のキャリアの相談などはしやすいと思います」
「はい……」
「未経験業務なので最初は大変だと思いますが、キャリアアップを考えると間違いなく武器になるので」
 そこでようやく、上司は言葉を切った。
「すみません、驚かれましたよね」
「はい」
 素直に答えた私に、彼は眉を下げて微笑わらう。
「ですよね。実は私も、先週部長から聞かされたばかりなのですが。引継ぎ等のスケジュールを考えると、早めにお伝えしたほうがいいかなと」
 それはわかる。
 いつ言われても驚くだろうし、組織だから、係替えはもちろん、転出だって当たり前。だからそれ自体は仕方ない。
 わたしが受け止め切れないのは。
「後任には、松下さんのチームから伊藤さんが配属されます。部内でぐるっと、中堅層を回すイメージですね。多能化により、各人の能力はもちろん、部としての人員強化も……」
「あの」
 上司の言葉を遮るなんて失礼なのはわかっている。
 でもわたしが聞きたいのは、そんなことじゃない。
「木戸さんは、」
「はい?」
 目の前の端正な顔はいつもと変わらない。
 淡々とした、会議資料の打ち合わせのような態度で、彼はわたしに告げている。
 部下であるわたしを手放すと。
 一ヶ月後には、わたしたちは上司部下の関係ではなくなると。
「私が、なんでしょう」
 その問いかけがあまりに静かで、表情がいつもどおりで、喉まで出かかった言葉がすぅっと溶けて消えていく。
 訊くまでもない。
「いえ、なんでもありません」
 この人にとってはなんでもないことなのだ。
 配置転換で部下が変わることなんて。
 この関係が、終わってしまうことなんて。

 少なくとも、部下としては。必要とされている、なんて。
 そう思っていたのは、わたしだけだった。

「来月からよろしく」
 にっこりと笑う顔はどこかイタズラげだ。ノーネクタイに腕まくり、長い手足を持て余すようなゆったりとした動作。
 何もかもが、上司とは違う。
「今ちょっといい?係替えのことで」
 香山さんの言葉にちらりと上司を窺うと、無言で「どうぞ」と目線を送ってきた。
 そんな態度を寂しいと思ってしまうのは、おこがましいとは思うけれど。

「係替え、びっくりした?」
 フランクに訊いてくる様子は、上司というより先輩みたいだ。
「びっくり、しました」
「だよねぇ、俺もびっくりした。まさか間宮さんもらえるなんて」
「いえわたしなんて別に」
「けんそん。木戸さん、いっつも褒めてるよ」
 ぐ、と喉の奥が詰まる。
「俺ほんとびっくりしてさ。何回も木戸さんに聞いちゃった。ほんとにいいんですか、って」
 木戸さんと間宮さん、息ぴったりだったから。
 そんな言葉に、どくんと跳ねる鼓動が痛い。
 その魔法がかかっていたのは、わたしだけだ。
「係替えにOKしてますから、わたしがいなくても全然影響ないってことです。期待外れかもしれませんよ?」
 挑発するようなわたしの言葉に、香山さんはおかしそうに相好を崩した。
 よく笑う人だ。
 本当に、何もかもが、あの人とは違う。
 そんなことを考えていると、不意に真っ直ぐな視線とぶつかった。
「俺もいちおう管理職だから、木戸さんの考え、わかるつもりだけど……絶対手放したくなかったと思うよ、間宮さんのこと」
「え?」
 なんでそんなこと。
 戸惑うわたしに、香山さんは優しく微笑む。
「いいんですか、って訊いた時の、木戸さんの答え。『間宮さんのキャリアアップのためですから』……だってさ」
 影響ないなんて思ってないよ、絶対。そう、宥めるように言う声はやわらかい。
「意外といろいろ考えてんだ、上司って。大事な部下ほど、手放したくないって気持ちと、成長させてやりたいって気持ちの、板挟み」
 香山さんが笑う。瞳を優しく光らせて。
「間宮さんのためにって。苦渋の決断、だと思うけど」
 これは論理ロジックじゃない。
 香山さんの個人的な意見でしかない。
 
 なのに、世界は見え方を変えてしまう。
 まるで魔法にかかったように。

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#片想い文芸部
#魔法

まさかの展開!?
どうなる木戸マネ!!

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