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【小説】『人生ラーメン』| 第4話 決別の防波堤

彼女との時間が、うまくいかなくなっていた。
春の連休、釣り竿を持って海へ向かった。
魚は釣れても、心は晴れなかった——。

———

2001年3月下旬の連休。
高速も混み、人々が出かけるとき、僕は思い立って釣りに行った。家で清美と2人より、皆で過ごす方が気も紛れると思ったのもある。

世間では珍しいと思うが、僕はいとこと仲がいい。清美の紹介で、いとこは真希という彼女と付き合っている。

いとこは2つ下で雄司という。雄司は小さなときに父親と決別した。母1人子1人の環境故に、兄弟同然に育てられたことがきっかけで、いつもそばにいるようになった。その雄司と清美と清美の親友の真希、4人と出かける。

雄司と共通の趣味である釣り。
場所は大阪の泉南にある箱作の防波堤。そこから投げ釣りをして、キスを狙う。私は釣れない釣りも好きなので、楽しみにしているが、清美と真希は最初から乗り気ではない。

——前日の夜にしたメールでも、

「えー、釣り? 日焼けするし? 」

「日焼けとかええやん。健康的で」

「真希ちゃんも絶対嫌がる、日焼けは」

「分かった、じゃあパラソル持って行こう! 」
「そもそも釣りって、ダブルデートで行く? 普通」

「雄司もその気やし、2時間くらいいいんちがうん? 」

「2時間!? 焦げるよ、早く切り上げて、せめて」

最近、付き合いたてのときとは違い、やたらといつも自分を通してくるようになった。

素晴らしい快晴の春の海に訪れた。案の定降り注ぐ太陽の光を避けるため、2人の女性は釣り開始早々に避難していた。近くのコンビニへ。清美は相変わらず携帯で、頻繁にメールをしていた。

広い海は僕の心を解放してくれる。
寄せては返す波を見ながら、雄司に話した。

「なぁ、雄司」

「俺もう、無理やわ」

「無理って何が? 」

「清美」

「えー、気まずい気まずい」
「俺、清美ちゃんの紹介で真希と付き合ったんやで」

「気まずすぎる」

「今日、明日どうとか分からんけど」
「覚えといて……ごめんな」

「分かった……覚えとく」
「あっ、なんかかかった! 」

雄司の竿がしなる。
合わせもバッチリ。
リールを巻くこと、しばらくすると、

「おー、キスやわ。小さいな」
「15センチってとこやな、さすがオレ」

と自画自賛の雄司。

「お、俺もきた」

小さいコチがかかった。コチは背中にとげがある気をつけて、針を外す。ただ、味は白身で美味しい。迷わず、クーラーボックスに入れた。

そうする間に時間が過ぎた。
こうやって釣って、海をみて、雄司とたわいのない話をする時間は最高のひと時だ。
また、雄司の竿がしなる。

「あっ、オコゼ」

「雄司、それ触ったらあかんぞ」

「分かってる、あっ」

釣り上がったオコゼが雄司の手元で最後の抵抗で弾けるように跳ねた。そして、背鰭の部分が雄司の手に触れてしまった。

「大丈夫か? 雄司」

「今は、大丈夫」

「……終わろか。今日は」

「……うん。なんかごめん」

コンビニへ清美と真希を迎えに行った。

「終わった? 」と清美が言う。

「うん、終わった」
「雄司が、オコゼにやられた」

「えっ、大丈夫? 」

と、2人は心配そうにした。

「だから、釣りとか、ねぇ、真希ちゃん」

「うん……」

「とにかく、帰ろ」
自宅へと帰る。雄司は手が痛いせいか、そのまま真希を送っていった。

「あー、雄司さんかわいそう」と清美が言う。

「……今日は帰って」

「何で、何でそんなんいうの? 」

「釣り行っても何もやらんと、コンビニで時間潰し」

「海にみんなで行ってるのに別行動」
「その上、ずっとメール」
「誰としゃべってる? 」 
「ハートマークばっかり送られてきて……」

はっ、となった。いらないことまで言ってることに気づいた。

「……とにかく、今日は帰ってくれ」

真っ赤な顔した清美は、口元が震えていた。

「もう、いい。……帰る」

扉が勢いよく閉まる音がした。当時、半同棲していた家のマンションから清美が走って帰った。後には2DKの部屋がやたら広く感じられた。部屋の中からは、清美の香水の匂いが薄っすら香っていた。

私は、部屋の隅に置いておいたクーラーボックスから魚を取り出して、捨てようかどうか考えた。時刻はまだ昼の2時。日曜日なので、実家に持って行って母親に調理してもらおうか? とも思った。

———人生ラーメン開いてるかな?

ふと、頭の中にそんなセリフがよぎった。
日曜日は定休日。開いてなかったらそれはそれ。無理なら実家に持って行こう、と頭の中で保険をかけた。クーラーボックスを持って近いのに、車で人生ラーメンに向かった。

昼の2時過ぎ、もちろん人生ラーメンの暖簾は出てない。当たり前か、と思ったら、中に人影があった。
おっちゃんだ。私は迷わず、格子戸を開けた。中からおっちゃんがぶっきらぼうに、

「今日は定休日。また、明日来て」と、吐くタバコの煙の中、テレビを見ながら言った。

「おっちゃん。こんにちは」

「何やあんたか。どうしたんや? 」
「なんかあったんか? 」
「顔色悪いな。フラれたか? 」と、喋り出した。

「まあ、座り」

と、おもむろに、冷えたジョッキを持ってビールサーバーに注ぎに行った。

「ほい、奢ったるわ」と、一杯もらった。

「車で来てるから、困るわ。おっちゃん」

「置いておいでぇな」

と言うので、2分とかからない駐車場まで、置きにいって、改めてビールをもらった。冷えたビールが最高に美味い。ジョッキを冷やしてくれているから、冷たいまま飲める。

「おっちゃん、魚捌ける? 」

「あんた、わしを誰やと思てる? 」
「ホテルで料理長やったこともあるんや」
「でけん料理はない」

と、胸を張るおっちゃんが、何か面白かった。

「じゃあ、これをなんかして」

少し酔った勢いで、思い切って言った。

「こんまい魚やな。どうする? これ」

「おっちゃん無理? 」

「できんでかぁ、でけるよ! 」

「さすが、おっちゃん」と、おっちゃんをおだてて、包丁を持ち出し、捌き始めた。

「しかし、ちいこいのー」

👉第5話「失恋の味」

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