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Missing - 第九章「link」【創作大賞2026ミステリー小説部門応募作】

前の話


がん?
 言葉としてはちゃんと聞き取れた。
 だけど、意味はわからない。
 お医者さんも、パパもママも「大丈夫だよ」って笑顔で言ってくれている。
 だけど、なんとなく嘘をついてる気がする。
 今日は病院のベッドで寝る。
 家の布団よりも硬い。
 全然寝られないけど、ママがそばにいるからいつの間にか寝ていた。
 
 それが入院した時の最初の記憶。
 それから、夜中に体調が悪くなって何度も目が覚めてしまったり、気分の悪さに加えて暗いことへの恐怖や、漠然と良くない予想が浮かんだりしてしまうことによる不安に一人病室で泣いたことも覚えている。
 そんな日々が続いていた。
 
 「ねえ、いつまた学校に行けるの?」「サッカーしたい!」
 そんなことを言って周囲の大人を困らせていたのも微かに記憶にある。
 みんな、「大丈夫だよ、」「すぐだよ」などと言うが、全員が作り笑いだということは子供ながらに感じていたので、全く不安は拭えなかった。
 日に日に不安は増していき、どんどん元気がなくなって来たある日、錦は森川美麗と出会う。
 その頃は少し体調も良く、出歩くことが許可されていた。
 とはいえ気分は最底辺のどん底にいた。
 誰も頼れない。
 せめて外に出たいと看護師の人に伝え、点滴をつけたまま中庭に連れて行ってもらった。
 病院の中には自分と同じような薄い水色の服を来た老若男女様々な人が居た。
 流石に走り回るのは禁止だし、そもそも疲弊しきっていてそんな元気はなかったので、看護師の人と一緒にベンチに座って空を眺めていた。
すると、一人の女の子が錦の方へやって来て声をかけてきたのだ。
 「君、はじめまして?」
 錦が空から声のする方に視線を変えると、錦よりも年上と思われる少女がいた。
 少女は他の人とは違い、同じ服を着ておらず、私服だった。
 「あ、美麗ちゃん、こんにちはー」看護師の人がそういう。
 これが錦と森川美麗の出会いだった。
 「こちらは、深見錦くん、最近来たんだよ」看護師の人がそう説明する。
 「そうなんだ。私、森川美麗。よろしくね」
 美麗はそう言って手を差し出してきた。
 「……よろしく……」
 久しぶりの同年代の子との接触であったが、錦は様々なことに疲弊しきって元気はなかった。
 「元気無いのね、この子はどうしたの?」美麗が看護師に聞く。
 「そうねえ、ちょっと体調が悪くて、ようやく外に出られたのよ」そう言いながら看護師は錦の方を向く。
 錦は無言のまま頷くことしかできなかった。
 「そっか、早く良くなるといいね!」
 森川美麗はみんなが口をそろえる評価と同じように、ただ純粋に明るくそう言った。
「じゃあ、また今度ね!」 
 美麗はそう言ってどこかへ走っていった。
 後ろ姿を眺めながら、元気であることが羨ましく思えて、少し、泣いた。
 看護師が錦を落ち着かせ、病室まで戻ってくると、なんとそこに美麗がいた。
 「あ!美麗ちゃん、ここでなにやってるの!?」看護師がとても驚いている。
 「外で遊べないなら中で遊ぼうと思って」
 何か問題でも?といった感じで美麗はそう言った。
 「そりゃ外は無理だけど……」 
 看護師が錦の方を向く。
 「体調、大丈夫?」
 「うん」
 錦は不思議とそう答えていた。全く元気ではないのに。
 「じゃあ、なにか遊ぼうよ」
 彼女はそう言った。
 「……」
 錦はなにも答えなかったが、看護師はこれを好都合と捉えたようだ。
 「じゃあ、私一瞬だけものを取りに行ってくるから、美麗ちゃん、ちょっと見ててもらえる?」
 「はーい!」
 「なにかあったらすぐにナースコールしてね?」
 「わかってます!」
 そう言って看護師はどこかへ行った。
 「じゃあ、遊びましょ」
 「遊ぶっていってもなにをするの?」
 「なにが好きなの?てか何歳?」
 「サッカーが好き。7歳」久々に好きなもののであるサッカーをいう言葉を口に出し、思わず少しだけ口角が上がる。
 「サッカーか、流石にここじゃできないしね、サッカーやってるの?」
 「うん」
 そして錦が窓近くの机を指さす。
 そこには少し前にチームのみんながくれた寄せ書き入りのサッカーボールが置かれている。
 彼女はそれを見て「え、なにこれ……いいな……」と呟いた。
 「サッカー、やりたいの?」錦は不意にそう聞いていた。
 「……。うん。ちょっとね」
 「なんでやらないの?」
 「お父さんが禁止してるの。身にならないこと、ためにならないことはするなって。それにケガすると他の習い事に支障が出るからって……」
 当時の錦にその言葉の真意は全く分からなかった。
 「でもやりたいんでしょ?」
 ただ単純に、そうすればいいのに、と思っていた。
 「え……?」
 「サッカー」
 「うん。そりゃ。私も皆みたいに全力で運動したい」
 「じゃあ、もう一回お父さんに言ってみなよ」
 「なんで?」
 「やりたいんでしょ?」
 錦はこの時明確になにかを説明できていなかったが、心の中から湧き上がる感情によって、口からは声が出ていた。
 すると、錦の言葉を聞いた美麗がハッとしたような顔になった。
 「そっか」
 そして、「じゃ、また今度来るね」と言って部屋を出ていった。
 錦は、美麗が向けた横顔に涙が浮いていることに気付いた。
 
 それから、度々美麗と病院内で会うことがあった。
 主に土日どちらかの昼頃、コンコンッと突然ドアがノックされ「錦くん!いる?」と部屋に入ってきたり、中庭で空を眺めていると、その上に覆いかぶさるように「やっ!」と言ってきたりすることがあった。
 錦は次第にノックが聞こえたら嬉しくなるようになっていた。
他にもそれぐらいの時期から森川美麗はカメラを持つようになり、錦も何度か写真を撮られることがあった。
 パシャッ
 ある日、シャッターが切られる音がして振り返ると美麗がいたのだ。
 「カメラ?」
 「うん!いいでしょ?」
 「どうしたの?」
 「錦に言われた通り、思い切ってお父さんに言ってみたの。サッカーやりたいって」
 「すごい!」
 「でも、流石にもう中学生だし今からって理屈っぽく言われちゃってさ」
 「できなかったの?」
 「まあね、でも、代わりに二番目にやりたかったカメラを買ってもらえたの!」
 「そっか!よかったね!」
 「錦のおかげだよ!ありがとう!」
 そんなことがあった。
 パシャッ
 最早これが二人出会いのチャイムのようであった。 
 ある日、点滴の取れた錦が中庭のベンチで空を見ていると、彼女に聞かれた。
 「まーた空見てる。楽しい?」
 「うん。色が好き。曇もいいよ。形が違うから」
 「ふーん」
 パシャッ
 そして美麗は空の写真を撮った。
 「確かに青いのはいいね」
 「そっちもいいね、カメラ。羨ましい」
 おそらくこの時の錦はカメラを構える彼女が良い感じだとという意味で言ったはずだ。
 「錦も撮ってみる?」だが意図は伝わらず、カメラを借りて撮ったこともあった。
 パシャッ
 錦は試しに彼女を画角に入れてみた。
 「なかなかいい写真とるじゃん」
 「ありがと、カメラ、楽しいかも」
 「いつか写真家とかになったら?」
 「えー、でもサッカー選手が良いな」
 「いつかよ、いつか」
 そして美麗は再び錦の写真を撮り、その後は少しの間二人で空を眺めた。
 また少しして、院内でたまたま美麗と会った。
 「姉ちゃん、今日はピアノ終わったの?」
 この頃錦は美麗の意向によって美麗のことを「お姉ちゃん」と呼んでいた。弟が欲しかったそうなのだ。
 「ピアノは今日はもういいの、それより、サッカーやっていいことになった!習い事じゃないけど、彼氏がサッカーやっててそれなら一緒にやっていいってことになったの!」
 「いいなあ!僕も早くサッカーしたいよ……」
 「遊び程度だけど、元気になったら私の彼氏と三人でやろうよ!」
 「えーでもカレシと三人で平気?僕怒られない?」
 「大丈夫だいじょうぶ!私が良いって言ったら大丈夫なの!」
 「よかったー」
 その日、美麗に彼氏がいることを初めて知った錦は部屋で一人、悲しい気分になった。
 今思えばもうすでにこの時に恋をしていたんだと思う。
 
 そんな感じで錦と美麗はどんどん仲が良くなり、美麗と話している時は錦も明るくなれた。
 今日も錦が空を眺めていると美麗がやってくる。
 「また眺めてる」
 「今日の空は今日しかないもん」
 「なんか深いこと言うのね」
 「ん?」
 おそらく錦にそこまで深い意図はなかったはずだ。
 だが、これは森川美麗にとても刺さったらしい。
 「今日という日は今日しかない!そうね!」
 彼女は立ち上がってそう言った。
 「どうしたの?」
 「なんかそんな言葉があった気がするだけ!迷ったら動かないとね、ありがと、錦!」
 「わからないけど、よかった」
 
 そんなことが続いたある日、いつものように中庭のベンチで美麗と話していると、ふと美麗が悲しそうな顔になって呟いた。
 「錦、」
 「ん?」
 「相談、してもいい……?」
 「もちろん」
 「小学生の錦にこれ話すのちょっと躊躇うんだけど、錦にしか話せないの」
 「うん」
 「じつは、その……」
 「なに??」
 「お父さんが不倫してるのを見ちゃったの……」
 「ふりん?」
 「ああ、ええと、お父さんがお母さんを裏切ったってこと」
 「え、ほんと?」
 「うん……」
 森川美麗はたまたまお父さんのいる院長室にいったところ、父親が母親以外の女性と行為に及んでいるのを見てしまったそうなのだ。
 当時の錦は不倫なんて知らないが、今になればその真意がわかる。
 この時の彼女はとても悩んで、時間をかけたうえで錦に打ち明けたのだろう。
 「お父さんは厳格、立派で、凄い人だと思う、思ってたんだけど…」
 こんなことは母親には当然話せないし、彼女は普段から周りに心配かけまいと振る舞っているために周りの人間にも相談できなかった。
 錦には一度心を開いたことがある。
 だからこそ頼られたのだろう。
 「私、どうしたらいいんだろう……」
 そして美麗は泣き出してしまった。
 ただ、当然錦は状況もちゃんと理解できていないので的確なアドバイスは出来ない。
 ただただ、美麗が絶望し、悲しい気持ちでいっぱいなことだけわかった。
 思わず錦は美麗にハグをした。
 そして、美麗の悲しみが伝わったのか、錦も泣いてしまった。
 「大丈夫…大丈夫…」
 錦はそれを言うのが精一杯だった。
 美麗はその言葉を聞いてさらに涙が溢れてきた。
 二人してベンチで泣いていると近くにいた看護師が駆け寄って来て、心配した。
 その日は錦が看護師によって病室に連れて行かれたことで解散となった。
 
 次に美麗と会ったのは少し経った平日の夕方ごろ。
 大分体力も戻った錦が学校からの家庭用教材を解いていると、部屋がノックされて美麗が部屋に入ってきた。
 「あ、姉ちゃん」
 だが、錦は入って来た美麗の様子が前と同じように変なことにすぐに気づいた。
 「どうかしたの……?」
 「また錦に相談があって……」
 「なんでも聞くよ」
 「実は、今度修学旅行があるんだ」
 「いいなあ」
 「私たちの学校、修学旅行の噂があって」
 「なになに?」
 「修学旅行で泊ってる宿泊施設から二人で抜け出して二条城まで無言で歩くと、永遠に結ばれるっていう、恋のおまじない?」
 「おまじない?それがどうしたの?」
 「実は……」
 その後に話された内容は宇都宮から聞いたものと同じであった。
 違ったところは、美麗が自責の念に捕らわれていたというところだ。それもかなりの。
 自分のせいで宇都宮が離れてしまった。しかも、美麗は周りからの宇都宮への評価を直に聞いており、それ以上の接触は出来なくなっていた。
 美麗はこれらのことを噛み砕いて話してくれた。
 今思えば誰にも打ち明けられないことを錦に話すだけでもかなり救われていたのかもしれない。
 「それで、友達と仲直りしていったこと?」
 「そう。私の一番の親友」
 「なにを悩んでるの?」
 「え、いや、どうしようかなって」
 「え、やればいいじゃん。おまじない」
 「……」
 「仲直りしたいんでしょ?なにかしないともう仲直り出来ないかもしれないよ?」
 「……。そうだよね…。そうだよね…!」
 「今日見た雲の形は、もう見れないよ」
 「そうよね、うん。動かないと!」
 そして、美麗は部屋を後にする。
 出ていくとき、振り返って「本当にありがとう!錦!」と言った。
 振り返った顔は夕日でオレンジに染まっていたが、その笑顔はとてもかわいらしく、本物の笑顔だと錦は思った。
 記憶の中の最後の森川美麗はこの笑顔だった。
 
 その次の日から、体力も戻りつつあったこともあって、薬物療法が開始された。
 そして、その辛さとストレスで,それより以前の記憶を封印し、美麗のことも忘れた。
 錦の髪が白くなったあとすぐ、病室に女の子が遊びに来たが、錦は何も言えずにボーっと眺めることしかできなかった。彼女がなにを言ったのかも会覚えていない。そして、そこに来た看護師がその女の子、美麗を連れて行った。
 どこまでの事情を話したのか、錦にはわかりようはない。
 しかし、その後も何度か美麗は錦の部屋に遊びに来た。
 その時におぼろげだが、宇都宮と仲直りが出来たということも聞いていたように思う。
 だが、この頃はずっとぼーっとしてコミュニケーションもろくに取れていなかったはずだ。何回目かの来訪の時、彼女は涙を浮かべていた。
だが、それらも含めてすべてを忘れ、錦は遠い街に引っ越した。
 
 これが錦と美麗の間に起きたことの全て。
 確かに美麗と遊んでいることは特に誰にも話すことは無かったし、当時担当してくれていた看護師しかこの関係は知らなかったのだろう。
 
 過去に記憶が遡っていた錦が再び今に戻って来た。
 「そうか。やっぱり会ってたんだ」
 だが、まだ最後の1ピースが埋まらない。
 それなら、なぜ、俺の部屋で美麗は死んだのか?
 ただ思い当たることもあった。
 以前、宇都宮が言っていた「人生を変えてくれた人」それはきっと俺だ。
 周りに笑顔を振りまく、誰にでも完璧な森川美麗は心のうちになにか抱えていてもそれを表に出すことはできなかった。
 だが、錦には話したのだ。
 なぜ錦なのかはわからない。
 でも、錦にだけ打ち明けた。
 おそらく結果的に自分のやりたいこともでき、父親のことはわからないが宇都宮とも仲直りが出来た。
 ただ、錦が引っ越し会えなくなった。
 そして、成人して、錦が大学生になって、街中で見かけたんだ。
 だけど俺の方は記憶がない。
 それで……。
 
 まだ納得はいかない。
 考えてもどうしようもないので、宇都宮とツカサ、チヒロに「すべて思い出したから聞いて欲しい」と連絡を入れた。
 
 次の土曜、錦はツカサとチヒロと共に電車に乗っていた。
 話をする場所はどこがいいかと考えた結果、錦が「美麗の育った病院がいい」と言ったのだ。
 なので、三人は美麗の出身地であり錦の生まれ故郷に赴いた。
 電車から降りてバスに乗り換える。
 そのまま病院までは一本だ。
 病院のバス停に着くと宇都宮がおり、みんなで軽く挨拶を交わす。
 いよいよだ。
 解決するかはわからないが、核心には間違いなく一歩近づく。
 四人はそのまま院内の中庭へ向かった。
 「っ…」
 錦はさっきから頭痛が止まらない。
 思い出したとはいえ、まだ頭の奥底には辛いという感情が湧いているらしい。
 
 当時は患者にしか解放されていなかった場所が今は美麗が勤めていた病院と同じように地域住民にも広く利用されている憩いの場になっていた。
 そして、錦と美麗が出会った場所、そのベンチに向かう。
 錦はもうすべてを思い出していたので、様々なものが懐かしく感じられた。
 いい思い出は少ないが、その少しのいい思い出、すなわち美麗との思い出を懐かしむ。
 
 四人がベンチに腰掛け、真ん中で錦が話を始める。
 正直今にも意識を失ってしまいそうなほど脳が変な、なんというかふわふわした状態だ。でも、今、ここで話さなければならない。
 そして錦が口を開く。
 「あんまちゃんと話してなかったかもしれないけど、俺、昔病気した時に記憶喪失になったことがあるんだ」
 「え、そうだったの……」宇都宮には言ってなかったかもしれない。
 「小さい時だったから別に差し支えはなかったんだけど」
 「この前、美麗の撮ったアルバムを見返していたらこれを見つけたんだ。」
 錦は彼女が幼き日の錦を撮った写真を持ってきていた。
 「え、これ」「小さい時の錦……?」
 「そう。病気に罹ってこの病院に通院していた時の俺だ」
 三人は写真に目が釘付けになっている。
 「そして、この写真を撮られたのが、このベンチ」
 今は新しくなって昔のものとは違うが、場所は同じはずだ。
 「これを見て俺は全部思い出した」
 三人の視線が錦に行く。
 「俺はこの病院に通院していて、森川美麗と会って、話して、仲良くしていた」
 そこから錦は過去の自分の身に起きた病気の話、そして、この場所で美麗と出会ったこと。色々な話をしたこと。写真を撮り、打ち解け、美麗は錦に心の内を曝け出したことをすべて話した。。
 「え、そうだったんだ……」
 美麗の心の内を知った宇都宮はそう呟き、今にも泣きそうになっていた。
 「そんな相談、されたことない……」
 そう言う理由も含めて宇都宮は悲しんでいた。
 錦は話を続ける。
おそらく当時も好きなっていたのだと思うということ。
最後に話したのは宇都宮とのおまじないの話であったこと。
 話し終えると宇都宮はついに涙を流し始めた。
 「これが俺の無くしていた記憶の話だ。もちろん小さい時ってのもあって全部が全部ではないとは思う。」
 話し終えると、錦もいつの間にか涙目になっていた。
 「けれど、俺は、美麗と会っていた。心を交わしていたんだ。」
 少しの間沈黙が流れる。
 四人それぞれに思うことがあるはずだ。
 特に、錦と宇都宮は。
 ツカサとチヒロも客観的に見てなにか感じているものがあるのだろう。
 「あのおまじない、そうだったんだ……」
 宇都宮はあの一件の裏の話にまた涙する。
 「本当にありがとう。私と美麗の恩人だよ」
 涙声であまり聞き取れないが、宇都宮から大きな感謝をされた。
 だが、錦の無くしていた記憶は蘇ったものの、まだ彼女の自殺、その真意には届いていないように思う。
 「だけど、最後の核心にはまだ近づけていない」
 「そうだな」ここでも冷静なツカサだ。
 「……」チヒロは黙っている。
 「全部思い出しても尚、美麗が俺の部屋で死んだ理由がわからない」
 四人とも再び黙ってしまい、しばし考え込む。
 すると
 「あーーー!もう!無理だ!」チヒロが立ち上がって叫んだ。
 「おい、ここ病院だぞ」というツカサの突っ込みも空しく、チヒロはおかまいなしに続ける。
 「錦、ごめん。本当に」
 「どうしたんだ、チヒロ」
「僕もこれが終わったら死んじゃおうかな」 
 「おい、何言ってるんだ、どういうことだ」
 困惑気味に錦が聞く。
 
 「森川美麗の遺書、僕が盗んだ。」


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逆倉青海 ぐんぐんどんどん成長していつか誰かに届く小説を書きたいです・・・! そのために頑張ります!