【新人PT向け】痛みについて理学療法士が最初に考えるべきこと
「先生の日は楽なんだけどね」
新人の頃、私の痛みへの対応はシンプルでした。
「まずは、ほぐす。伸ばす。」
通所リハで担当していた慢性腰痛の利用者さんも、マッサージやストレッチをすると、その場では「楽になった」と喜んでくれました。
でも、次回来所時にはまた元通り。
ある日、その方にこう言われました。
「先生が触ってくれる日は楽なんだよね。」
本来ならうれしい言葉です。
でも私は、その瞬間ゾッとしました。
「私は痛みを取っているのではなく、その場だけ楽にしているだけではないか。」
転機になったのは、先輩の一言でした。
「その痛み、本当に筋肉の問題? どんな仕組みで痛いか考えてみた?」
このとき初めて、「どこが悪いか」ではなく**「どういう仕組みで痛いのか」**を考える大切さに気づきました。

痛みは3つに分類すると見えてくる

国際疼痛学会(IASP)は、痛みをメカニズムによって3つに分類しています。
タイプ特徴代表例侵害受容性疼痛組織損傷による痛み骨折・炎症・術後神経障害性疼痛神経そのものの障害坐骨神経痛・帯状疱疹後神経痛痛覚変調性疼痛神経系が過敏になった状態線維筋痛症・慢性一次性腰痛
同じ「腰痛」でも、どのタイプかによって介入は大きく変わります。
私が担当していた利用者さんも、今振り返ると痛覚変調性疼痛の要素が強かったのだと思います。
だから、触れば一時的に楽になる。
でも、根本は変わらなかったのです。
臨床でまず確認したい3つのポイント
痛みを完璧に分類する必要はありません。
まずは「どのタイプが強そうか」を考えるだけで十分です。
① 痛みはいつから続いているか
3か月以上続き、広い範囲に痛みがあるなら、痛覚変調性疼痛を疑います。
② 神経症状はあるか
しびれや感覚鈍麻が神経支配領域に一致するなら、神経障害性疼痛を考えます。
③ 過敏さはあるか
次のような症状があれば、中枢感作を疑います。
軽く触れただけで痛い(アロディニア)
刺激を止めても痛みが残る
同じ刺激を繰り返すほど痛みが強くなる(時間的加重)
必要に応じてCSI(Central Sensitization Inventory)を活用すると、経過も追いやすくなります。
私自身、新人時代はこれらを確認せず、いきなり触って評価していました。
「どのタイプだろう?」
その一問いれるだけで、介入は大きく変わります。
タイプごとに優先する介入は違う
侵害受容性疼痛

炎症をコントロールしながら、適切な運動負荷を与えて組織修復を促します。
このタイプでは、徒手療法や運動療法が効果を発揮しやすいでしょう。
神経障害性疼痛

神経だけでなく、脳内の運動・感覚マップも乱れています。
感覚再教育や運動イメージ(GMI)などを組み合わせながら、神経系の再学習を促します。
痛覚変調性疼痛

ここで最優先したいのは、
「触ること」ではなく「伝えること」です。
まずは疼痛神経科学教育(PNE)を行い、
「痛み=組織損傷」
ではなく、
「痛み=身体を守る警報」
という考え方を共有します。
そのうえで、低強度から運動療法を開始します。
運動には内因性鎮痛系(EIH)を働かせる効果がありますが、慢性痛では反応が弱いこともあるため、焦らず段階的に進めることが重要です。
患者さんにはこう説明しています

私はこんな言葉を使うことがあります。
「痛みは火災報知器のようなものです。火事が小さくても、センサーが敏感になれば大きく鳴り続けます。今はその報知器の感度を少しずつ落としていく段階なんですよ。」
「気のせい」ではなく、
"身体の仕組みが変わっている"
と伝えることで、多くの方が安心して運動に取り組めるようになります。
痛みは生活まで見て評価する

生活期で強く感じるのは、
痛みの評価はNRSだけでは足りない
ということです。
見るべきなのは、
何ができなくなったのか(活動)
何を諦めているのか(参加)
家族や環境はどう影響しているのか(環境因子)
例えば同じNRS5でも、
庭仕事を続けられる人と、
外出を諦めている人では、
介入のゴールは全く違います。
ICFの視点で評価すると、痛みへのアプローチも変わってきます。
実際の臨床では「混ざる」のが普通

現場では、痛みが一つのタイプだけというケースは少数です。
例えば変形性膝関節症では、
関節炎による侵害受容性疼痛
中枢感作による痛覚変調性疼痛
が同時に存在することも珍しくありません。
大切なのは分類することではなく、
「今、この人の生活を最も妨げている痛みは何か」
を考え続けることです。
明日から使える3つのポイント

1.NRSだけでなく、痛みの広がりをボディチャートで確認する。
2.「しびれ」「アロディニア」「時間的加重」を分けて評価する。
3.慢性の広範な痛みでは、触れる前にPNEを行うことを意識する。
まとめ|「どこが悪いか」より、「なぜ痛いのか」

痛みへの介入は、「原因探し」だけでは十分ではありません。
大切なのは、
「この痛みは、どんな仕組みで起きているのか?」
を考えることです。
私自身、以前は「ほぐすこと」がゴールになっていました。
しかし今は、触れる前にまず機序を考えます。
その一手間が、その場しのぎの痛み改善ではなく、患者さんが自分の力で生活を取り戻すリハビリにつながると感じています。
