門番レイン 第零話 配属希望調書

【あらすじ】

兵士三年目のレインは、命が惜しくて「攻められない門」の門番を選んだ。ところがその門には、仕事風景を吟遊詩人に歌われる「公開契約」が付いていた。目立ちたくないのに、勤務は歌にされ、村じゅうに広まっていく。

しかもその小さな恥や失敗は、なぜか村の空気を少しずつ変え、人々を前向きにしてしまう。元盗賊や魔道士、食堂の人々、そして妙に存在感のある村長に囲まれながら、レインはその不思議な門番仕事を続けるか、それともやめるかを迫られていく。笑いと居場所をめぐる、やさしい公開勤務ファンタジー。


第零話 配属希望調書

上官の机の上には、紙が積まれていた。

紙の角がそろいすぎていて、触ると指が切れそうだった。

人生初の三択は、
門だった。

「兵士三年目か」
「はい」
「門番は初めてだな」
「はい」

上官は視線を上げずに、一枚だけ滑らせてきた。

『門番 勤務先希望』

そこには、門が三つ並んでいた。


激戦区の門番。

治安が悪い門番。

攻められない。攻めようともしない門番。


レインは、三つ目を指でなぞった。
文字が薄いのに、そこだけ重い。

――攻められない。攻めようともしない門番。

(何なんだ、これは。)

(一体どういうことだ。)

(どう考えても、攻められない門番がいいじゃないか。)

「……これで」

門長――まるさんは小さくうなずいた。

「うむ。まあ、命が大事だからな」

そして、言った。

「この門だけ、オプションが付く」

レインは、いやな顔をした。
それでも紙を持ったまま、ページをめくった。


『公開契約(解除自由)』
□ OFF
□ ON

その下に、短く書いてある。

イントロが鳴ったら、手を挙げる=許可
手で拒否を表す=停止
人を笑うな。現象を扱え


レインは紙を持ったまま、六十秒考えた。

(わからん。)

「……この公開契約って、何ですか」

まるさんは平然と言った。

「タレント業というやつだ」
「は?」
「広報のやつが仕事を取ってきたらしいぞ」

さらに、紙が一枚足された。

『協賛:なんとか亭【ONの日のみ】 まかない一品』

まるさんはそこを指で叩いた。

「いいぞ。うまい飯がタダで食えるんだぞ」

まるさんは淡々と言った。

「兵の飯は出る。だが、うまい飯は出ない。だから、こういうのは強い」

レインは喉が鳴った。

公開される気まずさの横で、
喉が反応したのが少し恥ずかしい。

「……私は、人前で歌うんですか」
「いいや。お前はただ聞いてるだけだ」

まるさんは即答した。

「吟遊詩人が歌うのか……」
「そうだ」
「何を?」

まるさんは、当たり前みたいに言った。

「お前の仕事風景をさ」
「え?」

「人事部の資料によると、お前は適性がプラスAだ」

「え、そうなんですか?」

レインは思わず言った。

「何もない私が……」

まるさんは肩を動かさない。

「そうらしい」

レインは紙を見下ろした。

それだったら――

「……まあ、飯も食えるし。いいか」

レインは息を吸って、ゆっくり吐いた。

「……ONで」

まるさんは何も言わず、チェック欄に丸をつけた。

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