門番レイン 第四話 初仕事
第四話 「初仕事」

盗賊がさらっと言った。
「今日の巡回は終わらせてきた」
「え? はや! 私の仕事は?」
予定の紙には午前巡回と書いてあったはずだ。
(俺、働くんだよね?)
詰所の空気が、返事をしないまま整っている。
盗賊は答えず、あごで示した。
その沈黙が、命令みたいに重い。
「お前の机はそこだ」
角に、なんとなくもない机がある。
妙にきっちりしている。
「荷物整理しろ」
「わかりました」
従うしかない。
鞄を置く手が、妙に慎重になる。置いた音が、部屋に吸われた。
「二段目を気を付けろ」
「二段目?」
取っ手に指を伸ばしかけて、止めた。二段目、という言葉だけが残る。
レインは一段目に目を落とし、鞄の中身を少しずつ出して並べた。窓の光が、わずかにずれていく。
そろそろ昼前。
盗賊が短く言った。
「おい、引き継ぎいくぞ」
はい、と言う前に、体が先に立とうとした。
詰所を出ると、門はすぐそこだった。人はまばらだ。
マントをまとった細身の老人が、三角帽子で背筋を伸ばして立っている。
(……魔導師っぽいよな。たぶん、そうだろ。)
盗賊は右手の張り紙を掲げた。
紙の端まで、妙に整っている。
「引き継ぎだ、アル」
「うむ」
盗賊が柱の横の掲示板に紙を貼る。きっちりだ。
レインは一歩うしろで息を止めた。
「こっちは前に言ってた三年目、プレインだ」
「レインです」
アルは二人を順に見て、ゆっくりうなずいた。
「うむ。魔導師である」
(やっぱり。)
レインは、掲示板を覗き込んだ。
「一、拾う」
「二、近づく」
「三、今度は“置く”。投げるな」
「……置く」
(なんだこれ、意味わからん)
となりで盗賊が、腕を組んで堂々としている。レインのほうは、姿勢だけが固くなる。
「言ってみろ」
(何を?)
レインは掲示板の三行目だけを見て、あてずっぽうで口にした。
「今度は、置く。投げるな」
言ったあとで、息が止まった。
盗賊は顔色を変えない。
アルのほうへ視線だけを送る。
「どうだ、アル」
「うむ」
魔道士は少し溜めて、言った。
「スカ捨て、無害」
近くで門がギィと鳴った。
風が一瞬だけ止まった気がして、レインは反射で顔を上げる。
レインは六十秒考えた。
わからない。わからないまま、口の中だけが乾く。
「よし。引き継ぎ終わり。詰所に戻って日報だ」
(え? 仕事は? 日報に何を書く)
「あの、どうすれば……」
すかさず盗賊。
「スカ捨て、無害だ」
「……はい。わかりました」
(わからん。)
詰所に戻ったレインは、文字が曲がらないようにだけ気を付けて、日報に書いた。
「スカ捨て、無害」
十秒で。
第五話 「なんとか亭」
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