門番レイン 第二話 資料の読み込み

 第二話 「資料の読み込み」

門が見えた。

村にしては、やけにしっかりした門だ。

木と石が、きちんと組まれている。

角が立っている。

でも、誰もいない。

……え?

俺、働くんだよね?

レインは門の前で、いちおう立ち止まった。

風だけが抜ける。


(攻められない。攻めようともしない門番。)


頭の中で文字がよみがえった。

レインは門をくぐる。

中は、ふつうの村に見えた。


人が、ぽつり、ぽつりと見えて、どこかでかすかに子どもの笑い声がする。

のどかだなあ。

その「ふつう」の中に、門だけが固い。

(門が仕事なんだな。)

とりあえず、詰所はあるのか。


門の横に、小さな建物があった。

目立たない。
でも窓がきれいで、戸がきちんと閉まっている。

レインは戸の前で息を吸った。


こん、こん。

返事がない。

もう一回。

こん、こん。

……ない。

「入ります」

戸は、意外と軽かった。

すっと開く。

中は整理されていた。

机の位置も、椅子の向きも、棚の並びも。

なんとなく、全部が正しい。

それが、逆に落ち着かない。

誰もいない。
なのに部屋が、きっちり整いすぎている。

視線が、勝手に椅子へ落ちた。

「ここに座れ」と言われている気がした。

レインが戸を閉めかけたとき、内側の張り紙に気づいた。

外からは見えない位置だ。


『ノックしてから入れ』


「……今したわ」


その下に、もう一枚。


『ようこそ 三年目レイン君

 机の上の資料を読んでおくように

 そのうちに担当官がきます』


レインは目を瞬いた。


……え?

何これ?


机の端に、薄い束が置かれていた。

一枚目だけ、角がそろっている。


『作法(要点)』

・イントロが鳴ったら、手を挙げる=許可

・手で拒否を表す=停止

・人を笑うな。現象を扱え


レインは、指で一行ずつ押さえた。


(手。挙げる=許可。拒否=停止。)


やってみたくなる。

でも、やるのは違う。

これは、読み込みだ。


次の紙に、今日の流れが書いてある。


『本日の流れ(予定)』

・午前 村内巡回(気を配れ)

・午後 門前待機(引き継ぎあり)

・夕刻 記録提出(机の箱へ)


さらに、その下。


『公開契約』

□ OFF

□ ON


ONに丸。

丸のきれいさに、また腹が立った。

束のいちばん下に、もう一枚。


『解除は自由』

『ただし、慌てて使うな』


……なんだそれ。


レインは喉の奥で、ため息を折りたたんだ。


すぐ外で、門が一度だけ鳴った。

ギィ。

レインは顔を上げた。

「え?」

 第三話 「呼ぶな」
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