門番レイン 第三話 呼ぶな
第三話 「呼ぶな」

レインは、机に肘をつかないように気をつけながら、資料を読んでいた。
紙は薄いのに、端だけやけにきっちりそろっている。
目が滑る。
『午前 担当官』
その行だけ、文字がうっすら薄かった。
レインは眉を寄せて、息を止める。
読めないから、目をこらす。
……元盗賊。
ギル……。
「え?」
盗賊?
薄い。
文字が薄すぎる。
いいのか、これ。
レインは反射で左右を見渡した。
だれもいない。
詰所は相変わらず、正しく片づきすぎている。
外で、鳥が鳴いた。
そのとき。
こん、こん。
戸の向こうから、声がした。
「入るぞー!」
レインは、反射で立ち上がった。
次の瞬間。
じゃら、じゃら。
金属がこすれる音が、戸のすき間から先に入ってきた。
「……はい。どなたですか」
「午前担当。元盗賊、ギルだ」
言うんだ、盗賊。
レインは背筋を伸ばした。
「私は三年目、レインです。よろしくお願いします。ギルさん」
ギルは、間髪を入れずに言った。
「俺の名前は呼ぶな。プレイン」
「……いや、レインです」
疑問と訂正が、同時に出た。
「……わかりました。では、なんと呼べば」
レインが言い切る前に、ギルがかぶせた。
「あの、その、でいい」
「いいのですか?」
「いい」
レインは小さくうなずきかけて、止まった。
「……なぜですか」
ギルは肩をすくめた。
「盗まれる」
「何が?」
「名前が」
「……名前が?」
ギルは、レインを見て言った。
「お前はプレインでいい」
「……レインです」
「あの、聞いていいですか?」
「なんだ」
「なぜ、戸の内側に張り紙が張ってあるんですか?」
元盗賊は考えるそぶりも見せずに答えた。
「外側だと、盗まれる」
「……何が?」
「名前と行動が」
レインは一瞬、息が詰まった。
名前は、さっき聞いた。
でも――行動?
外で鳥がチュンチュン鳴いた。
詰所の静けさだけが、きれいに残った。
レインは、もう一度たずねた。
「……行動まで、ですか」
元盗賊はうなずいた。
レインは、小さく言った。
「……元盗賊、だからな」
(もう、盗賊でいいよね。)
「あの、もう一つ聞いていいですか?」
「なんだ」
レインは一拍だけ置いてから、たずねた。
「……前任者は?」
盗賊は即答した。
「いない」
「……え?」
「お前が初めてだ」
言い切った直後、外で門が鳴った。
ギィ。
レインだけが反射で振り向いた。
その音が、さっきより近くに感じられた。
第四話 「初仕事」
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