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アフター・ストーリー「真由美」

 
 ゴミ袋を抱えたまま、収集場の前で和男は立ち止まった。
 「あれ?ゴミ袋がひとつも出ていない・・」
 和男は気づいた。今日は日曜日、ごみ収集車が来るのは明日だった。
 
 「お父さん、どこに行ってたの?」
 「ごみを出しに行ったら、今日は日曜日だったよ」
 力無く笑う父に、真由美は鼻息を荒くする。
 「も~余計なことしなくていいの。そのごみ袋、どこの置いたの?」
 「駐車場の隅に」
 「だめよ~カラスがつつきに来るから段ボール箱で隠しておかないと」
 「すまんなあ・・」
 真由美は段ボールをかぶせながら思った。このままではいけない。そして、私自身もどうにかしなくちゃ・・。
 
 真由美は隠しておいたハガキを父の前に置いた。
 「行って来たら?卒業記念の写真展だって」
 ハガキには5人の卒業生の名前が記載され、その中に葉月の名前もあった。父は目を輝かせた。
 「いいのか?行っても」
 「お父さん宛ての案内状よ。葉月さんの成長を見届けて来たら?」
 そうは言ったものの、写真展に出かける父を見送ってから、真由美は急に心配になった。今日を境にまた、父のパパ活が復活するのではないか。バケットハットを深めにかぶりサングラスをかけた真由美は、父の後を追っていた。
 
 写真学校の展示室。各自10枚・計50枚の卒業写真展。卒業生の中から選ばれた5人らしい。親御さんや兄弟姉妹や友人達。それに写真好きな人達も集まって、写真展はにぎわっている。葉月の10枚は一番奥に展示され、その中のひときわ大きな最後の1枚が『恩人』だった。
 柱の影から見る父は、目頭を押さえている。娘の目から見る写真は、鼻を伸ばしてニヤついてる老いらくの恋真っ盛りの老人にしか見えなくもないのだが、父は感動して立ち尽くしていた。真由美が「やばいんじゃい?」と声を漏らすと、背後から声がかかった。
 「あの、失礼ですが、和男さんの娘さんではありませんか?」
 振り向くと、かわいい女性が立っていた。
 「そうですが・・、あなたは?」
 「私は、織作葉月と申します」
 「え? あなたが葉月さん?」
 真由美は驚いた。もっとチャラい子を想像していたが、若いのに凛とした上品な女性である。
 「今日は来てくださってありがとうございます。実は・・」
 葉月は、おもむろに分厚い封筒を差し出した。
 「これ、お父様にお返ししようと思ってたんですが、きっと受け取っていただけないと思うので・・」
 「あ、それもしかして、父が援助した入学費?」
 「はい。プロカメラマンのアシスタントのアルバイトで貯めたんです」
 真由美は自分が恥ずかしくなった。騙されてるっ!と会うことに反対した自分が間違っていたと反省した。しかし、葉月は告白する。
 「私、当時は甘ちゃんでした。このお爺ちゃんなら、お金を引き出せると思ってたんです。でも、娘さんに反対されたとは言え、もう会わないと宣告されて気づきました。私は間違ってる。でもどうしてもカメラを学びたい。だから入学費はいつか必ず返そうと頑張れたんです。私に恩人は、もう一人いるんです」
 なんということだろう。真由美はおそらく、父以上に感動していた。と同時に、会わない理由をすべて正直に葉月に話していた父が哀れでもあった。
 「もっとうまく立ち回ればよかったのに・・」

 「お父さん、違う違う。そこはおかゆのライン」
 真由美は、父に炊飯器や洗濯機の使い方、みそ汁の作り方など、イチから教え始めていた。父は戸惑いながらも、ひとり暮らしのノウハウを笑顔で学んでいる。葉月から受け取った学費のことは父には内緒だ。それを知れば、父にとって葉月との永遠の別れを意味することだろうから言えなかった。父にしても、あの日『恩人』の前で泣いたのは、それを覚悟してのことだろう。.さらに追い打ちをかけることはできなかった。真由美は葉月から受け取った学費に+αして、結婚相談所大手に登録した。
 「私、結婚するからね。身の回りのこと、ちゃんとできるようになっておかないとね」
 父は「そうか!」と嬉しそうだった。父と娘の生活が活気づいた。
 でも父は77歳。遅きに失している。だから、真由美の結婚条件は「婿入り可」が必須である。これも父には内緒だ。
 真由美は結婚と結婚するつもりはない。ちゃんと恋して、ちゃんと愛をゲットしてから。それが遅きに失するには、まだ早い。 

                           (おわり)
 

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