Groovin' Fileが選ぶ、久保田利伸のアルバム4枚
今年6月、デビューシングル「失意のダウンタウン」のリリースから40年を迎えた久保田利伸。40年に渡るキャリアの中で多数の作品を発表してきた久保田だが、今回は、当メディアのメンバーが偏愛するアルバムと、各アルバムで特に聴いてほしい楽曲を紹介したい。
特定の時期の作品に集中したが、2000年代の国内R&Bが再注目されている今だからこそ、日米両方を活動拠点としていた当時の彼の作品もまた、聴き逃してはならないものばかりだ。
『Nothing But Your Love』 (2000)
Release Date:2000/6/28
(U.S. Album)
The Roots、Raphael Saadiq、Angie Stone、Soulshock & Karlinをはじめとした音楽家たちとの共作が並ぶ、USでの2ndアルバム。生の楽器やバンドサウンドを聴かせるものと、重くてドライな質感のトラックメイクが光るもの、正反対のようにも思える楽曲群が、どちらかに偏ることのないバランスでまとめられた1枚だ。また、久保田ならではのリズムやスキャットが際立つ曲に心が躍るのは、US盤でも変わらない。スロウな曲は殆ど無いが、グルーヴ感のある曲が続くことも、複数のプロデュース陣が入り混じる全13曲に統一感をもたらす為のエッセンスと言えるだろう。
「Shame」
ささやかな心の動きを表すかの如く、ギターが仄かに揺れるミディアムR&B。シンプルながらも聴き手の心に深く浸透するメロディを持ち、リリースから四半世紀を超えてもなお色褪せないのは、プロデューサーを務めたRaphael Saadiqや、彼を擁するTony! Toni! Toné!にも通じる部分だ。
「It's Over」
本作を形成する骨格の1つは、重心の低いタイトなビートと、耳にしっかりと残る歌の組み合わせだろう。自身の作詞曲では無い故かリズムやグルーヴの個性は控え目だが、憂いを断ち切るように歌う声とコーラスワークが、深い影を落とすようなビートと交錯し、アルバム終盤ながら本作を象徴する1曲となっている。
『As One』 (2000)
Release Date:2000/9/27
US盤『Nothing But Your Love』から僅か3か月後のリリースとなった、国内8枚目のフルアルバム。先のUS盤では他者によるプロデュースが大半だが、本作はほぼセルフ・プロデュースであり、全曲において自身が「Groove programming」(ProgrammingやDrum programmingという名称では無いことに注目したい)を手掛けていることも特徴だろう。随所でパーティーソングもあるが、ミディアムR&Bが中心の全13曲。グルーヴと翳りが共存する奥行きのあるサウンドに、耳馴染みの良いメロディと歌詞が融合し、最先端でありながらタイムレスな魅力を秘めた傑作だ。
「As One」
全編を通して絶妙なBPMとシンプルなリフ、少々抑え目な歌で焦らしつつ、ブリッジで見せる緩急を噛み締めるような1曲。中盤のポエトリーリーディングや、繰り返しの中でバンドが微かな動きを見せるエンディングを含め、静かなグルーヴが生み出す熱を体現するかのような歌とサウンドは、タイトルトラックに相応しい。
「Shooting Star」
しなやかなファルセットに乗せて歌われる、都市の煌めきから一歩離れた静かな夜の情景。ほぼ全ての作詞曲を自身で手掛ける本作だが、この曲の作詞は吉田美奈子によるもの。またファルセットと同時にこの曲を彩るストリングスは、フィラデルフィアでの録音。言わずもがな、Larry Goldの手によるアレンジだ。
『United Flow』 (2002)
Release Date:2002/4/10
全曲が米国内での制作だった前作とは違い、日米両方のスタジオで制作が進められた国内9枚目のフルアルバム。米国ではMos Def、日本では山田詠美など、以降の作品にも繋がる顔ぶれが名を連ねる。サウンド面では、比較的タイトに聴こえるトラックと、揺らぎや静けさや躍動感などをもたらす楽器の生音との調和に耳を傾けたい。特に「DO ME BABY」における松下誠のギター、柿崎洋一郎による「My Bad」でのRhodesピアノや「Because of U」でのMoogシンセサイザーなどが好例だろう。前作以上によりファンキーにもスロウにも踏み込みながら、同時に、当時の社会と向き合うメッセージも込めた意欲作だ。
「Respect(this & that) (Extended Funky Jam Version)」
ミディアム~スロウが多い本作の中では一際ファンキーなサウンドだが、そこに乗せて歌われるメッセージは、アルバムの中核をなす。2002年時点でニューヨークを主な活動拠点としていた久保田ならではの視点から書かれた1曲だが、そのテーマは次作となる『TIME TO SHARE』にも繋がっていくのである。
「MOONSTRUCK」
重く気怠いビートを軸に恋の終焉を描く曲だが、敢えておどけたように跳ねるピアノ、Felicia Grahamによる艶やかなコーラス、作詞を手掛けた松尾潔によるMtumeを思わせるボイスなど、時折現れる遊び心に注目したい。シンプルな構成のまま迎えるエンディングでは、低音のスキャットがほろ苦い後味を残す。
『TIME TO SHARE』 (2004)
Release Date:2004/9/21
(U.S. Album)
Carvin & IvanやMos Defなど、2ndとはまた違った布陣を迎えたUSの3rdだが、本作をよりネオソウルたらしめたのは、10曲中5曲に携わったAngie StoneとJonathan Richmondだろう。深みを増した久保田の声が、Angieのコーラスによって艶を帯び、聴き手の耳にそっと浸透していく。また、その声を引き立てるように、音数を必要以上に増やさず敢えて間を持たせたようなサウンドも本作特有のもの。終盤の「YAHEAT/MYBEAT ~ Interlude Part 2」には「Beats want breaks」という一節があるが、まさに本作の在り方を示すフレーズだ。
「Neva Satisfied」
Ali Shaheed Muhammadによるこのトラックは、ドランク・ビートの影響下とも言えるもの。中盤のギターソロやその後のブレイク部分に顕著だが、歌を含めた各パートが一瞬でもずれると崩れるであろうバランスの上に成り立つグルーヴは、2004年当時、本作で最も鮮烈な印象を与えたに違いない。
「It's Time」
本作の中心とも言える、Angie StoneとJonathan Richmondとの共作。前述の「Neva Satisfied」ほどでは無いが、少々揺らぎのあるビートやエレピの音は本作らしいものだ。少ない音数の上でしっかりと聴かせる歌には、ラブソングの域を超えたメッセージが込められていると言っても良い。
なお、当メディアでは、昨年から今年にかけてリリースされたアルバム、『THE BADDEST Ⅳ & Timeless Hits』と『THE BADDEST ~Son of R&B~』からのセレクト企画も実施。本記事と併せて読んで頂きたい。
aoi
91年生まれ。関西在住。常に聴きたい音楽が山積みになっているのが悩み。
Mellow, Funky, Groovy な音楽が好き。Mellow, Funky, Groovy 以外の音楽も好き。
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ちなみに私が久保田利伸という音楽家に本格的に興味を持ったきっかけは、当時聴き始めた「PLANET FLAVA!」で流れた、『Nothing But Your Love』収録の「I Just Can't Get Enough」だった。
ネオソウル~オルタナティヴR&Bと呼ばれるものと、Today's R&B的なサウンド、この二軸が同作の根幹と言えるのだろうが、Soulshock & Karlinが手掛ける「I Just Can't Get Enough」は後者に該当する。現在の自分であれば迷わず前者に惹かれるが、こうした好みの変遷の傍らに在り続けたのが『Nothing But Your Love』という、正反対の二軸を見事にブレンドした類稀な作品だ。
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