まだ沈まないクジラの背で:9兆円の「失敗」を笑う前に
最近、「Metaのメタバースは9兆円の失敗」と書かれた記事を見た。
果たして、そうだろうか。
9兆円の「失敗」ではなく、「実験」
Metaが積み上げているReality Labsの赤字は確かに巨大だ。
しかし、それは消費ではなく、基盤投資の側面がある。
ハードの開発だけでなく、ARグラス、AI、通信技術、
そして現実と仮想をつなぐための新しい社会実験にも踏み込んでいる。
そこに流れているのは、短期の利益ではなく、
未来の生活様式そのものをどう設計するかという問いだ。
Metaが手放していないのは、利益ではなく「未来の位置取り」である。
これは、ITの歴史で見れば珍しい話ではない。
AWSが示した「赤字の意味」
思い出してほしい。
かつてAmazonがクラウド事業(AWS)を始めたときも、
「赤字の山」と揶揄された。
だが十数年後、AWSは世界のデジタルインフラそのものになった。
あの赤字は浪費ではなく、
「誰もまだ必要としていないものを先に用意する」という先行投資だったのだ。
Metaの歩みも、構造的にはそれと似ている。
すぐには花開かなくてもいいと、土壌を整えているのである。
ただし、決定的に違う点もある。
Amazonの収益基盤は物流とクラウドにあるのに対し、
Metaの中心は広告とSNSという「人のつながり」だ。
つまり、Metaは社会的な行動そのものを基盤に、
その上にVRとARという次の層を築こうとしている。
通信、AI、UI/UX、プラットフォームの規格化――
そのどれもが、次の時代の地層になる。
だからこそ、「9兆円の失敗」と断ずるのはまだ早い。
それは、「9兆円の観察実験」だ。
本当の立ち位置
Metaの決算を見れば、現実はもう少し違っている。
2025年4〜6月期、全体の売上は約475億ドル(約7兆円)。
利益も伸びている。
沈んではいない。むしろ、しなやかに呼吸している。
VRとARを担うReality Labsは確かに赤字だ。
45億ドル(約7,000億円)。
けれど、それは損失ではなく、未来への投資だ。
Metaの体幹は広告とSNSにある。
そこから得た莫大な収益を、まだ形にならない次の時代に注ぎ込んでいる。
つまりこれは「失敗」ではない。
試行であり、構築の過程だ。
むしろその体力をもって、競合の撤退を待ってすらいる。
伝聞の海に沈まないために
SNSやニュースでは、「Metaの9兆円が溶けた」といった、
キャッチーな言葉が飛び交う。
しかし、それらの多くは、誰かのまとめを又聞きした伝聞にすぎない。
実際には、Metaの公式IR(投資家向け情報)を読めば、
Reality Labsは赤字を抱えつつも、研究開発を続けていることがわかる。
ARグラス事業、AI連携、そして次世代通信技術への投資。
方向転換ではなく、長期の基盤整備に入っている。
つまり、9兆円を「失敗」と呼ぶより、
それを観察と構築のための費用と見るべきだ。
わたしたち利用者もまた、その実験の観察者であり、
同時にデータの提供者でもある。
だからこそ、噂ではなく現実を見ようとするまなざしを持ちたい。
それが、この街を守る一番確かな方法だと思う。
クジラの背に住む者たちへ
この世界――わたしたちのVRChat的日常は、
Metaだけでなく、いくつもの巨大なクジラたちの背の上に築かれている。
それは、ハードを作る企業、ネットワークを支える通信事業者、
そしてAIやプラットフォームを提供する無数の技術者たち。
そのすべてが、見えない海流のようにこの世界を支えている。
Metaは、その中でもとりわけ大きな一頭にすぎない。
だが、その動き一つで波が立ち、街が揺れる。
その背の上で、
わたしたちは踊り、創り、語り、時に傷つけ合う。
だが同時に、見られている。
滞在時間、行動、創作の傾向。
それらのすべてが、次の現実を形づくる観測データだ。
だからこそ、わたしたちが心地よく過ごせる世界を保つには、
少しだけ気を配ることが大事だと思う。
言葉の選び方やふるまい一つで、
この街の印象は大きく変わってしまう。
ここは自由な場所であると同時に、
誰かの家でもある。
ーーそのことを忘れずにいたい。
これは私的な見解です。
数値は2025年10月時点の公表値をもとにしています。
内容的にはこちらの記事の続きとなっています。よろしければ合わせて御覧ください。
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