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AIで提案書作成はどう変わるか|「資料を作る仕事」から、「提案を設計する仕事」へ変わり始めている

ここまで、「仮説思考」から「経営分析」へと見てきました。しかし実務では、仮説や分析だけでは終わりません。それらを提案としてまとめ、関係者に伝え、理解してもらい、意思決定や実行につなげる必要があります。そのときに必要になるのが、提案書です。

提案書というと、資料を作る仕事に見えるかもしれません。しかし実際には、提案書作成の本質は、文章を書くことだけではありません。

何を課題と見るか。
どの仮説を採用するか。
相手にどの判断を促すか。
どの順番で伝えるか。
こうした設計があって、はじめて提案書は意味を持ちます。

私はこれまで、融資や投資を受けるために、数えきれないほど事業計画書を作ってきました。銀行、証券会社、投資家に向けて事業の考え方を説明し、意思決定を促すという意味では、それらも提案書の一種だと言えます。

現在は、生成AIによって、構成案、要約、文章の下書き、表の整理、図解のたたき台などを作りやすくなっています。そのため、「AIで提案書作成が楽になった」と感じる人も増えています。

ただし、ここで見るべきなのは、提案書作成が楽になることだけではありません。AI時代の提案書作成では、AIが資料作成や整理を支援し、人間は「何を提案するか」を設計する比重が高まります。

今回は、AIによって提案書作成がどう変わり、人間側にどのような役割が残るのかを整理してみます。

提案書作成の大半は文章を書くことではない

提案書作成というと、文章を書く仕事のように見えることがあります。しかし実際には、文章を書くのは最後の工程に近い作業です。その前には、さまざまな準備があります。

たとえば、次のような工程です。
・情報収集
・ヒアリング
・課題整理
・仮説構築
・構成設計
・比較
・論点整理
・ストーリー化

これらを経て、ようやく提案書の形になります。つまり、提案書作成とは、単に文章を書く仕事ではありません。課題、仮説、選択肢、判断材料を整理し、相手の意思決定につながる形へ組み立てる仕事です。

ここに、AIが入り始めています。生成AIが最初に強みを発揮したのは、たたき台作成です。

提案構成案を出す。
タイトル案を出す。
要点を整理する。
課題を箇条書きにする。
説明文の下書きを作る。

以前は、人間が白紙から考え、構成を作り、文章を書き始める必要がありました。しかし現在は、まずAIにたたき台を出してもらうことができます。この変化によって、人間は白紙の前で止まる時間を減らしやすくなりました。

AIは下準備を支援し、人間は提案の中身を考える

提案書作成では、調査や整理にも多くの時間がかかります。
自社の状況を整理する。
競合を比較する。
市場の変化を確認する。
過去事例を調べる。
顧客や関係者の情報をまとめる。

こうした作業は、提案を考える前の下準備です。しかし、この下準備が重いと、資料を整えるだけで限られた時間を使い切ってしまう可能性があります。生成AIは、こうした調査や整理を支援できます。

情報を要約する。
比較軸を並べる。
論点候補を出す。
過去の資料を整理する。
提案の構成案を作る。

その分、人間は、資料を整える時間よりも、何を提案すべきかを考える時間により多くあてることができます。

相手にとって何が課題なのか。
どの仮説を採用すべきか。
どの打ち手が現実的なのか。
何を優先して伝えるべきか。

提案書作成は、資料作成そのものから、提案の中身の設計にかかる比重が高まっています。

提案書作成は、AIと進める知的業務プロセスになる

提案書作成は、単発の文章生成ではありません。情報を集め、要約し、課題を抽出し、仮説を整理し、提案構成へ落とし込む一連の知的業務プロセスです。

たとえば、提案書作成は次のような流れで進みます。
情報収集→要約→課題抽出→仮説整理→提案構成の作成→比較表の作成→発表資料のたたき台作成

このように見ると、提案書作成はAIと分担しやすい仕事だとわかります。
① AIが調査する。
② AIが整理する。
③ 人間が確認し、軌道修正する。
④ AIが再構成する。
⑤ 人間が判断する。

このような往復を重ねながら、提案の形を整えていくことができます。提案書は、人間が一人で最初から最後まで作るものというより、AIとの共同編集によって作るものへ移り始めています。

ただし、共同編集だからといって、人間の役割が小さくなるわけではありません。むしろ、AIが材料を出すほど、人間には、何を採用し、何を捨て、どの順番で伝えるかを判断する必要がでてきます。

良い提案は、相手の判断基準に合わせて組み立てられる

生成AIは、整った資料を作ることが得意です。
読みやすい文章。
きれいな構成。
わかりやすい表。
それらしいストーリー。

こうした資料は、以前より作りやすくなっています。しかし、整っていることと、相手の意思決定を動かすことは別です。

たとえば、資金調達を目的とした事業計画書を考えてみます。
銀行に提出する事業計画書と、証券会社やVCに提示する事業計画書では、重視される点が異なります。

銀行は、融資を確実に回収できるかを見ます。一方、証券会社や投資家は、その事業が将来、売却やIPOにつながる可能性を重視します。ベースとなる数字や事業計画は同じでも、相手の判断基準が違えば、提案の組み立て方も変わります。ここに、提案書作成の難しさがあります。

AIは、整った資料を作ることはできます。しかし、誰に対して、何を、どの順番で、どの強さで伝えるべきかを判断するには、相手の立場や判断基準を理解する必要があります。

良い提案は、自動では生まれません。AIによって、整った提案書は作りやすくなります。しかし、整っているだけの提案書も増えていくはずです。だからこそ、人間には、本当の課題を見極め、相手の判断基準に合わせて、提案の筋道を組み立てることが求められます。

人間は提案書作成者から「提案設計者」へ

AIが、下書き、要約、比較、構成案を支援するようになると、人間側には別の役割が残ります。
・問いを立てる
・仮説を選ぶ
・優先順位を決める
・伝える順番を組み立てる
・意思決定につなげる

つまり人間は、提案書を作成する人から、提案の方向性を決める人へ役割を移していきます。ここでいう提案設計者とは、資料を整える人ではなく、相手にどの判断を促すかを考え、提案の筋道を組み立てる人です。

ここまでの「仮説思考」「経営分析」「提案書作成」の流れを整理すると、次のようになります。

「仮説思考」「経営分析」「提案書作成」における人間の役割

この3つは、別々の話ではありません。

仮説を立てる。
分析で論点を絞る。
提案として相手に伝える。

この一連の流れの中で、AIは候補を出し、整理し、資料化を支援します。一方で人間は、何を選び、どう意味づけ、どの判断につなげるかを担います。AI時代の提案書作成では、資料を作る力だけでなく、提案全体を構成する力が問われるようになります。

提案の中心には仮説がある

提案書作成で特に大切なのは、仮説です。単に資料を整えるだけでは、良い提案にはなりません。

その提案が、どの課題に対するものなのか。
なぜその課題が起きていると考えるのか。
どの打ち手が現実的なのか。
なぜ今それを実行すべきなのか。

こうした仮説がなければ、提案書は情報の寄せ集めになってしまいます。
AI時代には、文章の下書きや構成案は作りやすくなります。だからこそ、人間には、きれいな資料を作る力だけではなく、何を提案すべきかを考える力がより重要になります。

本当の課題を見抜く力。
仮説を組み立てる力。
相手の判断基準を理解する力。
実行につながる提案へ落とし込む力。

これらが、AI時代の提案書作成で価値を持つようになります。

実務家メモ

提案書作成の本質は、資料をきれいに整えることではなく、相手の意思決定につながる提案の筋道を立てることである。

これまでは、情報を集め、構成を考え、文章にまとめる作業そのものに多くの時間がかかっていました。しかしAI時代には、整理、要約、比較、構成案、下書きの多くをAIが支援するようになります。その分、人間には、何を提案するか、どの仮説を採用するか、相手をどの判断へ導くかを考える力が求められます。

人間の重心は、提案書を書く人から、提案を設計する人へ移り始めています。


提案書作成では、AIはすでに資料作成の補助を超え、調査・整理・構成づくりまで支援する存在になりつつあります。
では、AIにさらに仕事を任せるようになると、人間の役割はどう変わるのでしょうか。

次回は、「AIを“部下化”すると何が起きるか」をテーマに、AIへ仕事を任せる時代のマネジメントについて考えてみます。


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