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東京、英国。寂しく鮮やかな喪失の物語【読書】花澤薫「すべて失われる者たち」

「喪失」をテーマにした短編集。
思い出の中にいる人、景色。語り手の心の中にだけ存在する「失われた」それらを、一つ一つ大切に再生するような物語。

前半の21編は、日本人が語り手。

「双子の姉」
子どもの頃、この物語に登場するような双子の姉妹に特別なロマンを感じていた。そっくりな容姿と服や持ち物、動きや思考までがシンクロする神秘性。
そんな子どもの頃の憧れを思い出し、鮮やかな描写に心惹かれた。
大人になり、失われていく絆と神秘性。
しかしなぜだかこの物語に普遍性を感じてしまう。きっと誰しも大人になると一人の人間として歩んで行き、子どもの頃の神秘性は失われていくものだから。

「アンダルシアの夜」
祖父の死と、その時テレビでみた「アンダルシアに憧れて」を歌う歌手の姿が頭から離れない。
会話や病室の記憶、歌手の赤い服。人生の重要な瞬間に、全く関係のない光景が共に焼きつくことがある。そんな心象風景が絵画のように、読む者にも鮮やかに浮かぶ。
身近な人の死をどう受け止めたらいいかわからない程幼い頃の「喪失の原風景」が、暗く鮮やかに描かれた物語。

「ロンドン・コーリング」
主人公の「僕」のロンドンへの旅が描かれる。
東京での失恋、ロンドンの街の景色、偶然見かけた妊娠している女性。
ユースホステルの夜、オアシスのミュージックビデオを見ながらの男との会話。
重奏的にそれらが重なり、「僕」の不安や絶望を象徴するような暗闇へ、読む者も誘われる。

「ここではないどこかに」
「自分の人生を生きていない」主人公の里菜。
一人ベッドで里菜が自分のこれまでを振り返る独白に、一人の人間の人生の重みを強く感じる。


後半部「ブルック・キーツについて」の後は、物語の語り手が日本人から英国人へ代わる。
文体は同じなのに、英国の空気のように乾いてドライブ感を増し、質感が明らかに変わっていて驚く。

「誰にも言わない」
陽気に騒ぐ四人の若者達の、それぞれ胸に秘めた秘密。青少年期特有のまばゆいほどの高揚感とままならない現実との対比が、心に突き刺さる。

「戻らない故郷」
ロンドンで編集者として活躍する主人公。「人生を謳歌するには狭すぎる」故郷で家族のために人生を費やす幼なじみ。たしかに存在するがもう会うことのないその人は、主人公にとっては「失われて」いる。聡明な幼なじみの記憶が切ない。

「大事な話があるの」
秘密の関係にある二人、互いに相手を思いながらも気持ちを図りかねる。同じ景色を見ているようで見ていない、男女の不思議。どんなに近づいても人と人との間には埋められない境界線があると感じる。


ネタバレになるので詳細は控えるが「ブルック・キーツについて」後の切り替えが、とても興味深い仕掛けとなっている。
「ネタバレ」という言葉をレビューで使う類いの作品とは思わなかったが、心地よく裏切られた。

短編集の場合気に入ったものを拾い読みする楽しみ方もあると思うが、これはぜひ、全編通して読んでみてほしい。


著者の花澤薫さんは、noteでも短編小説を公開されています。
(ここで紹介した作品もあります!)


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