マネ×ゴト Vol.8 - 「経営を読む力」で自分を広げる
皆さんは、「経営」という言葉にどんな印象をお持ちでしょうか。
もしかすると、「自分には関係ない」「自分は現場の人間だから」「数字とかお金の話は苦手で……」というように、少し距離を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。私自身、いまでもそうです私自身も、かつてはそうでした。エンジニアとして、現場で手を動かし、成果を出すことに集中していた時期、経営やお金の話に対しては、恥ずかしながら、どこか他人事のような感覚があったのです。
しかし、あるとき「経営を知ること」は、自分の可能性を広げるための大きな鍵になるのだと気づきました。そしてそれは、決して「経営者になる」ためだけに必要なものではなく、いまいる場所で、いまの自分のままで、よりよく働くためのヒントでもあるのです。
現場だからこそ、経営を知らないと損をする
現場の仕事に打ち込んでいると、どうしても目の前の課題解決やプロジェクトの成功に意識が向きがちです。もちろん、それ自体は非常に大切なことですし、現場で成果を出すことなくして、組織の持続的な成長はありえません。
ですが、「現場の人間だから経営は関係ない」という考え方は、少しもったいないと思うのです。
読者の中に、転職活動をしたことがある方はいますでしょうか?
思い出してみてください。志望企業のホームページをくまなく読み、事業内容や経営理念、業績の動向などを一生懸命調べた経験はありませんか? それは、「その会社に自分がどう貢献できるか」を考えるための材料を集めるためだったはずです。
では、いま自分が働いている会社について、それと同じくらい熱心に調べたことがあるでしょうか? ホームページを読む、IR情報を見る、社内報を読む、社長の言葉を追う。これらはすべて、自分の仕事が会社全体のなかでどのような位置にあり、どのような意味を持っているのかを知る手がかりになります。そしてその理解があるからこそ、現場の仕事にも「打ち手の意図」や「事業としての価値」が結びついてくるのです。
正解探しではなく、「読んで仮説を持つ」ことが目的
「でもやっぱり、ビジネスの話って難しいですよね……」という声もあるかもしれません。
正直に言うと、私も経営に関する文書、特に数字やお金が絡む内容には苦手意識があります。新卒の頃は、勤務していた会社の決算説明資料を読んでも何が重要なのか・どこに注目すればよいのか、さっぱり分からなかったものでした。
それでも、「読んでみる」「自分なりに考えてみる」ことは決して無駄にはなりません。たとえば、社内で配布される中期経営計画や、部門方針のスライドを読んで、「この施策は自分のチームにどう関係しているのだろう?」「このKPIって、なぜこの数値を目指すんだろう?」と、自分なりの仮説を持ってみる。これだけでも、十分な一歩です。
重要なのは、完璧に理解することではなく、自分なりの問いを立て、仮説を持つことです。たとえ読み違いがあったとしても、その誤解が明らかになることで、より深い理解につながりますし、自分自身の成長にもつながります。
正解ではなく「仮説」を持ち寄る文化へ
経営には、正解があるようで、実はそうではないようなのです。なぜなら、それは未来に向けた判断だからです。未来に向けた判断である以上、必ずしも確実な答えがあるわけではなく、状況や環境の変化によって最適解は変わっていきます。
ですから、自分が立てた仮説が間違っていたときは、「間違えた!」と落ち込むのではなく、「仮説を作り直すチャンスがやってきた」と考えてみてはいかがでしょうか。
経営層の発信に触れたとき、「こういう方向性を目指しているのかもしれない」「この施策はこの背景から出てきたのかも」といった、自分なりの解釈をもっておくと、それをもとに周囲と意見交換をしたり、会議の場で視点を持ち寄ったりできるようになります。
ダメ出しされる必要はありません。「みんなちがって、みんないい」のです。自分の仮説が間違っていないとしても、他の人の仮説から気づきがあればよし。自分の仮説が違うかもと思えればしめたもの。そのように気づけるだけで、思考の解像度は確実に上がります。そしてその積み重ねが、現場での判断の質を高めることにもつながっていくのです。
イシューを握る力は「読む力」からはじまる
前回は、「イシューを握る」ことの大切さについて書きました。
物事の本質を見極め、解くべき課題を定める力、つまり「イシューを握る」力は、マネジメントにおいても、現場においても欠かせません。そして、その「イシューを握る」力の源になるのが、経営を読む力ではないかと思うのです。
経営の視点を取り入れることで、目の前の業務の背景が見えてきます。自分の仕事が、どんな課題の解決につながっているのか、どんな価値を生んでいるのかを知ることができれば、自然と自分のなかでの優先順位や判断基準も変わってきます。
みなさんもぜひ、苦手意識があっても構いませんので、まずは「読むこと」からはじめてみてください。そして、そこから立ち上がってくる自分なりの仮説を、大事にしてください。
最後に——読むことは変えることのはじまり
「経営を読む力」は、言い換えれば「変える力」のはじまりです。私たちが読んで考え、問いを立て、仮説を作り直す。それは決して受け身の姿勢ではなく、能動的に組織を動かしていく第一歩です。そして、それをひとりひとりが繰り返すことで、仕事の場も少しずつ、でも確実に変わっていくことができるのだと信じています。
この『マネ×ゴト』を通じて、皆さんが日々の仕事の中に、少しでも新しい視点を持ち込むきっかけとなれば、これほどうれしいことはありません。
次回もまた、仕事の本質を考える旅を、つづけていきたいと思います。

