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マネ×ゴト Vol.29──情報処理安全確保支援士がITパスポート試験を受けて分かったこと

情報システム部門で働いていると、「ITのことなら分かる人」として扱われることは少なくありません。特に「情報処理安全確保支援士という国家資格を持っている」となれば、「IT全般のことを広く・深く理解している」という前提で会話が進むことも多々あります。もちろん、専門性という意味では誇れる部分もあります。しかし、事業会社で日々仕事をしていると、徐々に「自分が当然だと思っていることは、必ずしも他の人にとっての『当然』ではない」ということに気づくようになりました。

そして、この「前提の違い」こそが、コミュニケーションの断絶や、意思決定の遅れや、トラブルの種になりうるのだと実感しています。

では、このズレをどう埋めればいいのか。その一つの答えとして、私はITパスポート試験を受験するという、ある意味では「初心に帰る」アプローチを選びました。


なぜ情報処理安全確保支援士がITパスポートを受けるのか

話の発端は、事業会社の情報システム部門にいる中で、「自分は幸いにも基本的なITの考え方をかなり身につけており、それによって仕事が助かっている」という自覚が強まってきたことでした。同時に、その前提が、「外」では通じない場面も増えてきました。

「当たり前だと思っていたことが、当たり前ではない。」当たり前過ぎる一文ですが、それを痛感する機会は意外と多いものです。

お客様や、共に働く人と話していても、「なぜそれが問題なのか」「なぜその対策が必要なのか」の理解の前提が少しずつ異なる。こうした細かなズレが積み重なることで、どこかで「仕事の不具合」が生まれる。

ここに、私は違和感を抱いていました。そして、この違和感を埋めるためには、「専門性を深める」だけでは不十分、そして、「基礎の基礎」を、もう一度きちんと自分の身体で理解し、必要とあらば目線を下げて話をできるようになることが必要だと直感したのです。

そこで私は、ITパスポート試験を受けてみることにしました。いわば、「ITを使う側の発想」を自分自身で体感するための実験でした。

受験を決めてからのプロセス

受験を決めたのは9月ごろ。申し込んだのは10月。そして受験したのは昨日のことです。

「h12oさんならノールックで受かるでしょ」

そう何人かに言われました。確かに、情報処理安全確保支援士を持っているというだけで、ITパスポートは簡単なのではないか、というイメージを抱かれるのは理解できます。

しかし、私は「受かるため」に受験したわけではありませんでした。むしろ、受かることは副次的で、本質的な目的は、「理解の質を確認するため」です。

そのためにも、できる限りの勉強をする必要がありました。

特に、ストラテジ系が足を引っ張ることは、勉強を始める前から確信していました。支援士試験では、セキュリティ領域やテクノロジ系に属することがらは深く問われますが、ストラテジ分野はそこまで問われるわけではありません。経営や会計、業務理解を横断的に問うITパスポートとは性質が異なります。本来であればそれはITパスポートレベルで理解できているものであり,
いまから思えば、ITパスポートを受験してから情報処理安全確保支援士を受験するのが正しかったのでしょう。逆になったのは、情報処理安全確保支援士の受験もそこまでキャリアに対して計画的ではなかったから、です。

ITパスポートの試験仕様と実際の感触

ITパスポートはCBT方式で試験が行われます。

  • 出題数:100問

  • 試験時間:2時間

  • 出題範囲:ストラテジ系・マネジメント系・テクノロジ系

  • 合格基準:総合評価点600点以上(1000点満点)・各分野300点以上(1000点満点)

1問が何点なのかは公開されていませんが、大まかに「正答率ベースの点数」と考えて差し支えないようです。

結果

CBT方式なので、採点結果はすぐ出ます。試験終了後すぐに表示された結果は、以下の通りでした。

  • 総合評価点:790点

  • ストラテジ系:635点

  • マネジメント系:870点

  • テクノロジ系:895点

合格というだけなら十分に合格です。しかし、私は結果を見て真っ先に、
「ストラテジ系が低い……」
と感じました。

マネジメント系もテクノロジ系も9割には届かず、総合的に見ても「もう一段階の理解が必要だ」と思わされる内容でした。

ストラテジ系が示した課題と、ITパスポートの「広さ」

ITパスポートの特徴は、とにかく出題範囲が広いことです。支援士試験は「深さ」が必要ですが、ITパスポートは「広さ」が必要です。

そして、この「広さ」こそが、エキスパート職として働くうえで盲点になりうる部分でもあります。専門職として日々過ごしていると、自分の専門性に引っ張られてしまい、ジェネラルな知識のアップデートが追いつかなくなることがあります。

しかし、事業会社で働く以上、広い知識は不可欠です。なぜなら、意思決定の文脈が「専門性」だけで構成されていることはほとんどないからです。

経営は、常に複数の要素のバランスで成り立っています。そのバランスを読み解くには、ストラテジ系の知識が欠かせません。結果として私は、
「支援士だけでは不足だ」
「ストラテジ系の理解はもっと深めなければいけない」
「ITパスポートは、その入口として非常に有効だ」
と強く感じました。

ITパスポートは、本当に“入門者向け”なのか?

問題を解いてみて驚いたのは、「入門者向け」というイメージとは裏腹に、ひとつひとつの問題の難易度がイメージに比べて高いことでした。もちろん、支援士のように全範囲で6割取らなければならないわけではなく、各分野3割を満たせば合格するという意味では、支援士よりは易しい試験です。ですが、「3割易しい」という程度であり、本質的にはしっかり理解していないと正答に辿り着けません。

正直、私は受験直前に「落ちたらどうしよう」と本気で考えていました。だからこそ、合格したときはホッとしましたし、ほっと同時に「もっと理解しないといけない」という課題も突きつけられました。

来年もう一度受験する理由

今回合格はしたものの、
ストラテジ系が相対的に低かった
マネジメント系・テクノロジ系も9割を超えられなかった
という結果を踏まえて、1年後にもう一度受験することに決めました。

ITパスポートは、出題範囲が非常に広く、ヤマを張ってもまず当たりません。それに加えて、社会の動きに応じて内容が頻繁にアップデートされているため、過去問を機械的に解くだけでは得点は伸びない試験です。

「ITの仕事をしていれば合格はできるが、8割は難しい。」

これが私の実感です。だからこそ、エキスパート職としての矜持として、「8割は必ず取る」というラインを自分に課したいと考えました。来年は、「合格は当たり前として、すべて8割以上」を目指します。

ITパスポートの出題に感じた「トレンド」の強さ

今回感じた特徴のひとつが、ITパスポートの問題にはトレンドがかなり反映されるということです。

試験問題について書くことは難しいのですが、AIに関する設問、それもただ使ってみただけのレベルでは解けないものがありました。過去問や、ましてやAIが生成した問題をやみくもに解いても、本質的な対策にはなりにくいと感じました。

それよりも重要なのは、「過去問と自分の業務を結びつけて考えること」です。

知識を知識として覚えるのではなく、「現場でどう使うか?」を考えながら学ぶ。これが、理解を深める唯一の方法だと感じています。

専門性だけで仕事はできない

今回の受験を通じて改めて感じたのは、
「専門性だけで仕事ができる人は、決して多くない」
ということです。

むしろ、ビジネスの現場では、
広い視野
基礎的な理解
他者の前提に合わせて話せる力
といったスキルのほうが価値を持つことが多いのではないでしょうか?

ITパスポートは、こうしたジェネラルな知識体系を扱っています。だからこそ、この試験を「軽視してはいけない」と強く思いました。ITの仕事をしているからこそ、基礎をおろそかにしてはいけない。むしろ、基礎をおろそかにしない姿勢こそが、専門性を支えてくれるとすら感じています。

ITパスポートを受けて「見えるようになった世界」

今回、ITパスポートを受けてよかったことは「得点」ではありません。むしろ、「視野が広がったこと」です。
経営の視点とITのつながり
マネジメントのリアル
テクノロジの基礎と応用
事業会社が日々行っている判断の構造
ITが組織にもたらす価値の「翻訳」の必要性
これらは、支援士の勉強だけでは身につかないものでした。

支援士を「深さの資格」と呼ぶならば、ITパスポートは「広さの資格」。この両方を意図して学んだとき、私は自分の中で「ITを見る視野」が少し変わったように思います。

「マネジメント×仕事」としての学び

「マネ×ゴト」シリーズでは、仕事を前に進めるために必要な考え方を扱ってきました。今回のITパスポート受験は、まさにその本質に触れ直す機会でもありました。

それは、
前提を合わせることの重要性
ジェネラルな理解を軽視しないこと
専門性と基礎は常に往復する必要があること
という、普遍的なテーマです。私は今回の受験を通じて、これらの重要性を改めて実感しました。

そして同時に、
「自分自身が『わかったつもり』になっていたこと」(ありますよそりゃ、どうしても)
「基礎を確認しないまま専門に走っていたこと」(があること)
にも気づきました。この気づきは、今後のキャリアにおいて、大きな資産になると感じています。

おわりに

ITパスポートを受験する・受験したと周りに話すと、「どうして?」と聞かれることが多いです。しかし、私は今回、逆だと思いました。

専門家こそ、基礎を学び直す必要があるのです。そして、基礎を学び直す姿勢は、強さを裏付けることになります。

ITパスポートの学びは、私にとって「初心に帰る」だけではなく、「基礎をアップデートし続ける」というプロフェッショナルとしての姿勢を体感したものとなりました。

これから1年間、私はもう一度基礎を磨き、来年は「8割以上」のラインを越えたいと考えています。そしてその過程を、またこの「マネ×ゴト」で報告したいと思います。

今回の結論はひとつです。

専門家こそ、ジェネラルをおろそかにしない。

これは、情報システム部門で働くすべての人に共通するテーマではないかと感じています。


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