マネ×ゴト Vol.23──前日に翌日を描く
「タスクの抜け漏れが多いな」と感じることが増えていました。
日々の業務は、会議やメール対応のような予定されたものばかりではなく、急に舞い込む割り込み依頼や、不意に降ってくる調査対応など、予期せぬものが少なくありません。そうしたものに追われているうちに、本来進めるべきことが後回しになってしまい、気づけば手をつけ忘れていた──ということが、正直に言うと続いていました。
思い切って、恥を忍んで同僚に相談してみました。自分なりに生産性の向上を工夫してきたつもりでしたが、どうも仕組みがうまく回っていないのではないかと思ったからです。
すると、返ってきた答えは拍子抜けするほどシンプルなものでした。
「タスク入力は大変だから、全部カレンダーに書いてしまうといい」
「前日のうちに翌日のカレンダーを眺めて、頭の中でシミュレーションしてみる」
私は、もっと綿密で複雑な仕組みを想定していました。GTDのようにすべてを洗い出して整理し、分類し、優先順位を付けて……というプロセスを繰り返すことを考えていたので、正直に言うと「それだけ?」と思いました。
しかし、せっかくなので試してみることにしました。きょうの終わりに、明日やる予定のタスクをカレンダーに書き込み、それを眺めながら、「明日の自分はこの順番で、こう動く」というイメージを描いてみたのです。
カレンダーでシミュレートするという発想
やってみると、意外なほど具体的にイメージできることに気づきました。
「この会議までに資料が必要だから、朝一番の30分はこのタスクに充てよう」
「午後の2時間は腰を据えて分析に集中したいから、他の小さな依頼は午前中に片付けよう」
などなど。
そんな具合に、翌日の自分がどの時間帯に何をしているかを、あらかじめ頭の中でリハーサルしていくのです。
すると、抜け漏れに気づきやすくなるだけでなく、「この時間の使い方では終わらないな」といった計画のほころびも見えてきます。事前にその修正ができるのは大きな意味があります。
ここで重要なのは、必ずしも細かい粒度で予定を詰め込む必要はない、という点です。むしろ、「ここは短時間で数件片付ける」「ここは腰を据えてやる」といった大枠を意識するだけでも十分に効果があります。
「心構え」と「計画」は違う
前回の記事で「心構えをしない」ことについて書きました。
気持ちを固めすぎると、かえって柔軟に動けなくなる、という話です。
しかし、計画はまた別です。心構えは心の姿勢であり、計画は行動の見取り図です。前者は気持ちの縛りになりがちですが、後者はむしろ自分を自由にします。
翌日をシミュレートしておくと、突発的な割り込みがあっても「この時間に組み替えればなんとかなる」と、落ち着いて対応できるようになります。つまり、計画は「自由度を高めるための準備」なのだと思います。
防災訓練とインシデント対応に学ぶ
この発想は、防災訓練やインシデント対応の計画に似ています。
一定以上の規模の建物では、消防訓練が義務付けられています。私が通っている教会でも実施が必要で、関係者で「非常時には誰が何をするか」を確認し合ったことがあります。驚いたのは、それが「実際に消火器を使って火を消す」ような劇的な訓練ではなくても、「非常口の位置を確認する」「マニュアルを読み合わせる」といった地道な確認だけでも立派な訓練になる、という点でした。
同じことはインシデント対応にも言えます。サイバーセキュリティの世界では、不測の事態の極みとも言えるインシデント対応においても、どの段階で何をするかを事前に定めています。まったく未知の状況に見えても、事前に「このフェーズで、誰が何を判断し、どんな行動を取るか」を決めておくことで、現場は驚くほど落ち着いて動けるのです。
つまり、「あらかじめ計画しておくこと」は、非常時においても平時においても、自分を助ける力になります。
「すべてを洗い出そう」としなくていい
ここで私がはっと気づいたことがあります。
これまで私は「すべてのタスクを漏れなく洗い出さないといけない」と思い込んでいました。しかし、それは現実には不可能です。状況は刻々と変化し、洗い出したそばから新しい課題が発生します。そのたびに「またゼロからやり直しか…」と感じていたのですが、それこそが疲弊の原因だったのかもしれません。
重要なのは、100%の網羅を目指すことではなく、「翌日の動きをざっくりとシミュレートしておくこと」。これだけで、かなりの安心感と見通しを得ることができます。
実践して見えた変化
実際に、前日の夜に翌日をシミュレートする時間を、きのう作ってみました。というわけできょうが初日なのですが、次のような変化を感じています。
朝のスタートが軽くなった
「今日はこれをやるんだ」という確信があるので、迷いが少なくなった
高まるといった効果も見られるようであればまずまずでしょう。
特に大きかったのは、「迷いが減った」という点です。タスクに取りかかろうとしたとき、「次に何をやろうか」と考える時間が減ったのです。これは一日の中で意外に大きな差を生みます。
習慣として根付くかどうか
もちろん、習慣として定着するかどうかは、これからの試行錯誤にかかっています。前日の夜にシミュレートするのを忘れてしまう日も出てくるでしょうし、書き込みが雑になってしまうこともありそうです。
それでも、「完璧にやろうとしなくてもよい」「ざっくりでいい」と考えることで、最初の一歩を踏み出せたことに手応えを感じています。はじめやすくつづけやすいというのは、一番の価値ではないでしょうか。
まとめ──「前日に翌日を洗い出す」という小さな工夫
今回の学びをまとめると、こうなります。
タスク管理は綿密さより「シンプルさ」が効く
前日に翌日をシミュレートすると、抜け漏れが減り、迷いも減る
計画は「縛り」ではなく「自由度を高める準備」である
防災訓練やインシデント対応と同じく、事前の確認が安心感につながる
100%の網羅を目指す必要はなく、ざっくりでも十分に意味がある
最初からうまくいくかどうかは関係ありません。重要なのは、「前日に翌日を描く」という小さな工夫を繰り返すこと。そこから見えてくるものが、必ずあると思います。
心構えをしないことで得られるのは、軽さと自由さです。その軽さが行動力を生み、その自由さが柔軟性を育みます。結果的に、それが最も実行力のある姿勢になるのではないかと、私は考えています。
私自身、まだ習慣化の途上ですが、すでにその効果を実感しています。今後、この習慣がどう根付いていくか、そしてどんな副産物が生まれるか。続きをまた書いてみたいと思います。
