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【小説】シンセサイズ<5>

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第十四章:忘れられた真実

士朗の心は焦燥感で満ちていた。

再構築された記憶には何かが欠けている。
それが何であるか、彼はまだはっきりとつかめていない。
だが、妹の死と彼女の最後の言葉が示すものは、明らかにそれを解き明かす鍵になる。

「アレス、再構築における変数についてもう一度確認してくれ。何か見落としている部分がある気がする。」
士朗はアレスに尋ねた。

アレスは静かに答える。
「記憶の再構築には複数の要因が影響します。過去の出来事や感情が交錯して形成される過程で、情報は抜け落ちたり歪んだりします。妹さんの言葉が再構築された記憶の中に埋もれている可能性が高いでしょう。」

「それを引き出すためには?」

士朗が食い下がると、アレスは少し間をおいてから答えた。
「あなた自身の感情や経験が、再構築された記憶に大きく影響します。感情的に強く結びついた瞬間を再現し、その感情を手がかりに記憶をたどる必要があります。妹さんの死への違和感や未解決の思いが、記憶の中に隠れているかもしれません。」
士朗は無言でアレスの言葉を噛みしめる。

妹の死に関して、彼には確かに答えが足りない部分があった。
あの日、何かが彼女を追い詰め、追い込んだ。だが、それは一体何だったのか?

再び、士朗は記憶を辿る。

妹の死の前に感じた不安、彼女が言った「何かを忘れている気がする」という言葉。
その言葉がまるで呪いのように、士朗の頭の中で回り続けていた。

「その言葉が引っかかる…」
士朗は呟いた。

「妹が言っていたこと、何か重要なことを忘れている。それが、あの日の出来事に深く関わっているような気がする。」

「その通りです。」
アレスが冷静に返す。

「強い感情が関わる場合、記憶の再構築過程で抑制されることがあります。妹さんが死ぬ前に経験した感情が、抑圧されて記憶から消えている可能性があります。」
士朗は再び目を閉じ、あの時の感情を思い出そうとした。

妹が彼に見せた、最後の不安そうな表情。あの日の電話の中で感じたもの。あの時、何かが違った。彼はその瞬間に引っかかるものを感じていたが、それが何だったのか、今となっては分からない。

だが、今はその「何か」を突き止めるために進まなければならない。士朗は心を決め、再構築された記憶の中で、妹が死ぬ前に何をしていたのか、どこで何を感じていたのかを探し始めた。

その時、アレスが静かに言った。
「士朗、もう一度、妹さんの周囲の人々を思い出してください。彼女の死には周囲の関わりが大きく影響している可能性があります。」

士朗はその言葉にハッとした。確かに、妹の死に関わった人々の中には、彼女が本当に信頼していた者、あるいは、何かを隠していた者がいた。
母親、教師、そして最後に会った上司。
彼らが妹の死にどれほど関わっているのか、それを追うことが必要だ。

士朗は立ち上がり、部屋の中を歩きながら思索を続けた。
アレスの指摘通り、妹の死に関わる人物が複数いる。それぞれが何を知り、何を隠しているのかを暴き出さなければならない。
彼が知らなかった情報が、妹の死を明らかにする鍵となるはずだ。

「アレス、周囲の人々の情報を整理して、再度調査を始める。妹の死の前後に関わった人たちの行動を再確認し、記憶に関する断片をもう一度整理する。」
士朗は決意を込めて言った。

アレスは静かに答えた。
「承知しました。士朗、あなたの記憶の再構築が進むことで、すべての真実にたどり着くことができるでしょう。」

士朗はその言葉に少しだけ安堵を覚えながら、再度過去の出来事を洗い直し始めた。


第十五章:過去の影

士朗は妹の死に関わった人物を一人ずつ洗い出し、記憶の断片を繋ぎ合わせようとしていた。
しかし、「何か」がまだ彼の心に引っかかっていた。妹の死と深く関わるその「何か」を、彼は突き止めなければならない。

「まず母からだ。」
士朗は独り言をつぶやき、母に電話をかけることにした。

何度か話しているが、妹の最期の状態を母はどう感じていたのか、改めて確認する必要があると感じたのだ。

電話のベルが鳴り、しばらくして母親の声が聞こえた。
「士朗?久しぶりね。」

「うん、元気してる?」

「まあ、ぼちぼちね。でも、どうしたの?」

母親の声に少しの不安が混じる。
「柚希のことなんだけどさ。」

「彼女が死ぬ前、何か気になることがあったんじゃないか?」
一瞬、電話の向こうで沈黙が続いた。
母親は、何かを思い出したのか、口を開いた。

「あの子は…あの時、すごく不安そうだった。あなたには言わなかったけれど、私たちの関係も気にしてたみたい。私は全然大丈夫だったのに。」
士朗は心の中で、その言葉に何かが引っかかるのを感じた。

「不安だった?」

「うん、あの子、あなたに言えなかったことがあるみたいだった。何か、ずっと抱えていたことがあったんだと思う。」

「でも、最後に言った言葉は、『覚えていて欲しいことがある』って、それだけだった。」
その言葉に、士朗の胸が締め付けられた。

妹は最後の瞬間に、何かを伝えたかったのだ。

それを言葉にできなかったのか、それとも、言葉にしてはいけなかったのか。

「母さん、それについて、もっと詳しく教えてくれ。柚希が最後に言いたかったことを、どうして伝えなかったんだ?」

士朗は切羽詰まった声で尋ねた。

「それは…」

「私にもわからない。でも、あの子は、ずっとあなたに言いたかったことがあるんじゃないかと思う。」

士朗は電話を切り、深いため息をついた。
母親の言葉には何か大きなヒントが隠されているように感じた。
「『覚えていて欲しいこと』…それが、妹の死に関わる真実を知る鍵になるのかもしれない。」

次に、士朗は妹の元上司に連絡を取った。妹が最後に関わった人物の一人で、彼の記憶の中にも重要な情報があると感じていた。

電話の向こうで、男性の声が響く。
「お久しぶりです、士朗さん。どうされましたか?柚希さんのこと?」

「ちょっと聞きたいことがあって。」

「柚希が死ぬ前に、何か不安そうにしていたことはありませんでしたか?」

しばらく沈黙が続いた後、男性が答えた。
「実は、彼女は最近、仕事で強いプレッシャーを感じていたようです。上司から成果を求められる一方、自分の能力に自信を持てず、それが不安を増幅させていたのではないでしょうか。」

士朗はその言葉に強く反応した。
「能力に自信がない?それが柚希を追い込んだのでしょうか?」

「たぶんそうです。特に、最後のプロジェクトでは、失敗が許されない状況だった。上司からの評価が、彼女にとってプレッシャーになっていたようです。」
男性は少し黙ってから続けた。

「でも、彼女はそのことを誰にも話そうとしなかった。」

士朗は再び胸が締め付けられた。
妹の抱えていたプレッシャーが、彼女を死に追いやったのだろうか。

「そうだったんですね…お話しくださり、ありがとうございました。」
士朗は電話を切り、再び考え込んだ。

妹が感じていたプレッシャー、そして「覚えていて欲しいこと」が彼女の死にどれほど関わっていたのか、その全貌を明らかにするために、士朗はさらに踏み込む決意を固めた。

その時、アレスからのメッセージが届いた。
『士朗、記憶の断片を再構築するには、妹との重要な出来事をもう一度思い出してください。特に大きな転機となった出来事を整理してみてください。』

士朗はその言葉を胸に、妹との最後の会話を思い出した。その会話の中に、真実が隠されていると感じていた。



第十六章:記憶の鍵

妹の遺言「覚えていて欲しいこと」の意味を、士朗は必死に考えていた。

それが彼女の死の真相を解く鍵だと確信し、母親や元上司の証言に何かを示唆するものを感じていた。

「柚希が自分の能力に自信を持てなかったということは、どこかで限界を感じていたということだ。そんな状態で、プレッシャーをかけられ続けていたら、誰でも追い込まれてしまう。」
士朗は胸にその思いを刻んだ。

だが、士朗の胸にはまだ腑に落ちないものがあった。
「覚えていて欲しいこと」はただの遺言なのか、それとも深い意味が隠されているのか?答えを求め、彼は妹との思い出をたどっていた。

そのとき、再度アレスからのメッセージが届く。
『士朗、「覚えていて欲しいこと」に関連する具体的な出来事が思い出せない場合、それは抑圧された記憶の可能性があります。過去の出来事が意識から封じ込められているなら、ARESで再構築する必要があるかもしれません。』

士朗は、アレスの言葉に一筋の光を感じた。
妹が遺した言葉が、ただの一言ではなく、何か大きな事件に関わる重要な手がかりであることを確信した。
「抑圧された記憶…」

士朗はその言葉に考えを巡らせながら、自らに問いかける。
「妹は、何かを見て、何かを知り、それを忘れようとしていたのか?それが死に関わる真実に繋がるとすれば、どんなことが隠されているのだろう?」

士朗はその夜、自宅の一室で静かに目を閉じた。

そして、自らの記憶の中に潜む妹との最も重要な瞬間—妹が苦しんでいた時期の記憶を呼び起こそうとした。しかし、思い出せない部分が多かった。記憶の断片が途切れ途切れで、全貌を掴むのは難しい。
「これは…どうしてだ?」

士朗は眉をひそめ、再度アレスに問いかける。
『あなたが持っている情報の中で、「覚えていて欲しいこと」に関わる重大な出来事が不足しています。過去の出来事を再構築するためには、あなたの心の中で最も強い感情が絡む瞬間に立ち返る必要があります。』

士朗は再度、妹との過去に思いを馳せる。そして、ついにある出来事を思い出した。それは、妹が生前に何度か口にしていた言葉—「あの夜、私は…」という言葉だ。その言葉の先に、何かが隠されているはずだった。

「妹が言った『あの夜』とは、何を指しているのか?」
士朗は心の中で問いかけながら、アレスに指示を出す。

『「あの夜」の記憶を再構築し、真実を明らかにしましょう。』
士朗は深呼吸をし、妹との最後の会話を思い出した。

その夜、妹はとても焦った様子で電話をかけてきた。その時の彼女の声が、今でも耳に残っている。

「士朗、今すぐ来て、私の話を聞いて。…早く、聞いてほしいの…」
妹は、いつもの冷静さを欠いて、まるで命を懸けたような声でそう言った。

「どうしたんだ?」士朗は、その時、彼女を助けることができなかったことを悔い、思わず言葉にした。

「すぐに行くから、待ってて。」

しかし、次に電話をかけたときには、
妹はすでに亡くなっていた。あの「何か」を話す前に、すべてが終わってしまったのだ。

士朗は、その時の記憶を反芻しながら、再度アレスに指示を出した。
「『あの夜』を再構築したい。アレス、私の記憶を分析して、隠された真実を見つけ出してくれ。」

アレスからの返信がすぐに届く。
『再構築を開始します。士朗の心の中で最も強い感情が関わる場所を特定し、記憶を再編成します。』

士朗は、少しの間静かに目を閉じた。記憶が再構築される感覚が、徐々に体全体に広がっていく。彼の意識が深い場所に引き込まれると、目の前に妹の姿が浮かび上がった。

「士朗…」

妹の声が、かすかに聞こえた。

そして、彼ははっきりと理解した。妹が抱えていた秘密は、あの夜に起きた事件に関わることだった。そして、その秘密が妹の死に大きな影響を与え、現在の事件の真相へと繋がっている。

士朗は目を開け、震える手でデスクを叩いた。
「ついに、真実に辿り着いた。」


第十七章:隠された夜の真実

再構築された記憶が士朗の脳裏に鮮やかに浮かび上がり、妹が必死に伝えようとした「何か」に触れた瞬間、彼の意識は止まったかのように感じられた。妹の声が鮮明に耳に響く。

「士朗…お願い、来て…助けて…」

切羽詰まった声だった。恐怖に震える、これまで聞いたことのない声。思い出すたびに、胸が締めつけられる。

その時、彼は確かに妹が何かに追われているような気配を感じた。しかし、電話が切れ、急いで駆けつけた時には、すでに遅かった。

妹は、あの部屋で静かに息を引き取っていた。

「何があったのか…」
士朗は呟きながら、再構築された記憶をたどる。次々と過去の記憶が彼の前に浮かび上がってきた。あの夜、妹は誰かと会っていた。

それは明らかだった。そして、その相手が、実は死に関わる人物だったことに気づく。彼女の死の背後には、あの夜の出来事が深く関わっていたのだ。

「まさか…」
士朗は思わず声を漏らした。

再構築された記憶には、妹がその人物との会話の中で「彼が危ない」と言っていたシーンが浮かび上がる。

それは、彼女が直感的に感じ取った「危険」の予兆だったのだろう。
その人物とは、かつて妹が教職に就くために関わっていた教育委員会の上司、黒田だった。

「黒田が関わっている…?」

士朗は、背筋が凍るような感覚に包まれる。その人物が、妹の死にどう関与していたのか。その疑念が、確信に変わる瞬間だった。

「柚希が知り過ぎたからか…」

士朗はその言葉を呟き、真相が明らかになる予感に胸を締め付けられた。
再構築された記憶の中で、黒田は妹に対して圧力をかけていた。教育現場の不正を暴こうとしていた妹に対して、彼は自分の権力を使い、何かを隠し通そうとしていたのだ。

「一体、どれだけのことを隠していたんだ、黒田…」

士朗は、すでに妹が彼の正体に気づき、暴露しようとしていたことに思い至った。そして、それが原因で彼女が命を狙われたのだと確信した。

士朗は怒りを覚えながら、記憶に浮かぶ黒田の顔を思い浮かべた。冷徹で、罪悪感なく自分の身を守ることだけに汲々としているように見えた。

「黒田…お前が柚希を殺したのか。」
士朗はその名前を繰り返し、心の中で誓った。

そして、彼は再構築された記憶をさらに深く掘り下げていった。妹が命を懸けて暴こうとしていた「教育の闇」に関する証拠が、確実にその夜に存在していた。それを引き出さなければならない。

士朗はアレスに指示を出す。
「アレス、黒田が関わっている証拠を見つけ出すために、さらに記憶を深掘りしてくれ。」

アレスからの返信が届く。
『再構築を続行します。あなたの記憶に関わる新たな情報を取得し、黒田との関連性を明確化します。』

士朗は目を閉じ、アレスの解析を待った。次の瞬間、再構築された記憶の中に、ある一文が飛び込んできた。

「証拠を…手に入れた…」

妹が誰かに言ったその言葉。
それが、事件の核心に迫る鍵だった。

士朗はその言葉を反芻し、急いでその証拠を探し始めた。妹が遺した記録、暗号のように見えるメモ、それらがすべての謎を解く手がかりとなることを信じていた。

そして、再構築された記憶の中で、妹が最後に残したメッセージが士朗に向けられていたことに気づく。
「士朗、私を信じて…証拠を見つけて…」

その言葉が、彼を動かす力となった。
士朗は決意を新たに、証拠を手に入れるために動き出す。


第十八章:解き放たれた証拠

士朗の心は怒りと決意で燃えていた。
妹が残したメッセージが、彼にとっての唯一の道しるべとなり、彼の意識をさらに鮮明にさせる。

黒田が隠している真実を暴かなければ、妹が命をかけて守ろうとしたことが無駄になってしまう。

アレスの協力を得ながら、士朗は妹が遺した証拠を探し続ける。記憶の中で明確になってきたのは、妹が特定の会話の中で「証拠を保管している場所」を示唆していたということだった。

その場所は、妹が教育委員会で使っていた机の引き出しの中、わずかな隙間に隠されていたファイルの中にあるはずだと記憶の中で浮かび上がってきた。

「行かなくては…」
士朗は心の中で決意を新たにし、急いでその場所へ向かうことを決めた。
車の中で、士朗は冷静に頭を整理していた。
妹が追っていた「教育の闇」に関する証拠。それが今、自分の手の中に収まることで、真実が明るみに出る。その証拠を持って黒田に立ち向かう覚悟を決めていた。

「絶対に、柚希の死を無駄にしない。」

士朗はそう呟きながら、アクセルを踏み込んだ。

「士朗、安全運転です。」
アレスが注意する。

「あぁ・・」
士朗は申し訳なさそうに、スピードを緩めた。

やがて、教育委員会の建物に到着した。

士朗は息を整え、建物の中に入っていく。

暗い廊下を歩くその足音は、まるで彼自身の決意を象徴するかのように響き渡った。

引き出しの中で、士朗は手がかりとなるファイルを見つけた。
それは、妹がかつて持ち歩いていたものと思われる、個別の報告書と証拠を集めたフォルダだった。

ファイルには、教育委員会内部で行われていた不正や賄賂、さらには不適切な人事異動に関する詳細な記録が含まれていた。

「これだ…」

士朗はファイルを手に取り、内容を一つ一つ確認し始めた。
そこには、黒田が絡んでいたと思われる不正な取引や、過去に妹が試みた調査結果が並べられていた。

妹が追っていたのは、教育委員会内部での腐敗と、それに対する圧力だった。
その時、士朗はひときわ目を引くメモを見つけた。

それは妹が黒田との会話で使っていた「暗号」のような言葉で書かれていた。

急いでメモを読み解こうとすると、アレスの声が再び耳に届く。
『士朗、メモの内容に関して、さらに詳しい解析を行います。しばらくお待ちください。』

士朗はメモをアレスに送信し、しばらく待つことにした。メモが解析される中で、再構築された記憶と照らし合わせて、全てのピースが徐々に揃っていくのを感じた。

数分後、アレスから返信が来た。
『解析結果:メモの内容は、黒田が関与した賄賂の証拠と一致しています。具体的には、教育委員会における不正資金の流れが記録されています。また、柚希さんがこれらを暴露しようとしたことが、彼女の命を危険にさらした可能性があります。』

士朗はその言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じた。
妹が暴こうとしていた真実が、ついに明らかになったのだ。これで、黒田に対する確実な証拠を手に入れたことになる。

「これを…どうするかだな。」
士朗はファイルを手に取り、深呼吸をした。

その時、背後から足音が聞こえた。士朗は素早く振り返ると、黒田の姿が見えた。

「…やはり、来たか。」

士朗は静かに呟き、覚悟を決めた。

黒田は士朗に向かって冷徹な視線を送った。

「お前、何を探している?」

黒田の声は低く、威圧的だった。

士朗は一歩前に出ると、冷静に言い放った。
「お前が隠していた真実を、暴こうとしている。柚希が命をかけて守ろうとしたことを…」

黒田の表情が一瞬歪んだ。まるで自分が捕まるのを恐れているようだった。
「黙れ…!それはお前の勝手な妄想だ!」

黒田は怒りを露わにし、士朗に向かって歩み寄る。

士朗はファイルを手に取り、黒田の顔を見据えた。
「もう遅い、黒田。柚希が残した証拠を手に入れた。お前がどれだけ隠そうとしても、真実は明らかになる。」

黒田は目を見開き、しばらく沈黙していたが、やがて冷笑を浮かべた。
「それが…お前の決定的な証拠だと思うのか?彼女が暴こうとしていたことを、私は全て知っていた。」

黒田の声には不気味な自信が宿っていた。

士朗はその言葉に驚きながらも、決して後退することはなかった。妹が命を懸けてまで隠した真実は、もう誰にも隠せない。全てが、これから明らかになろうとしていた。


第十九章:決戦の時

士朗は冷徹な黒田の眼差しを受け止めながら、心の中で覚悟を決めた。
妹が命を賭けて追い続けた真実を、今ここで暴かねばならない。

そのためには、黒田を追い詰める必要があった。

だが、黒田の冷徹さを前にしても、士朗は恐れを感じていなかった。

「お前が知っていることが、全てだと思うな。」
士朗は言い放つと、ファイルをさらに黒田に近づけた。

「お前が裏で動かしていた賄賂や、教育現場での腐敗の証拠が、ここにある。」

黒田はそのファイルをちらりと見た後、にやりと笑うと、言った。

「君が手にしたその証拠など、今更何の意味もない。彼女が追い求めていた真実は、もはや誰にも届かない。彼女が死んだこと、それこそが証拠そのものだ。」

士朗は黒田の言葉に反応することなく、冷静に答える。
「柚希は、死ぬ覚悟でこれを守った。この証拠があれば、何もかもが覆る。」

黒田の顔色が一瞬変わった。しかし、すぐに冷静さを取り戻すと、じりじりと士朗に近づいてきた。

「君は何も分かっていない。彼女は、最初から死ぬ運命だったんだ。教育委員会の中で何を暴こうとしても、全ては計算され尽くされている。君が得た証拠すらも、私たちが仕込んだ罠に過ぎない。」

士朗はその言葉に疑念を抱きながらも、しっかりと立ち向かう。だが、この言葉に込められた意味を完全に理解するには、まだ時間がかかるだろう。黒田の言動が何を暗示しているのか、その全貌が見えない。

「お前の計画がどれほど完璧に見えても、これはもう終わりだ。」

士朗はそう言って、再びファイルを黒田に突きつけた。

その瞬間、アレスが士朗の耳に響いた。
「士朗、ファイルのデータは確かに正確です。しかし、黒田の言うことにも一理がある。彼女が追い詰められた原因、そして彼が言う罠の存在について、もう少し深く掘り下げるべきです。」

士朗は一瞬だけ目を閉じ、アレスのアドバイスを受け入れる。
妹が残したメモには、確かに不自然な点があった。なぜ彼女がそれに気づき、最終的に自ら命を絶つ覚悟を決めたのか。それが何を意味するのか、もう一度整理する必要があった。

「アレス、もう一度、柚希が関わっていた証拠を解析してくれ。」

数秒後、アレスの声が再び士朗に届いた。
「士朗、注意深く調査を進めるべきです。柚希さんが記録した内容には、裏に別の組織の動きが見え隠れしています。黒田は単なる駒に過ぎず、背後にはもっと大きな力が存在する可能性があります。」

士朗の目が鋭くなる。
背後にいる存在。それは、ただの教育委員会の腐敗にとどまらず、さらに広範囲にわたる陰謀が絡んでいる可能性があるということだ。
黒田の顔色が変わった。

士朗が動き出すのを感じ取ったのだろう、彼は足を止めて冷ややかな声を発した。
「何をそんなに焦っているんだ、士朗?君が暴こうとしている真実は、君自身が崩壊させることになる。彼女の死は、君にとって最も大きな教訓だったはずだ。」

士朗はその言葉に一瞬動揺しそうになったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「俺が柚希に学んだことは、ただ一つ。何があっても真実を追い続けることだ。それが、彼女の最後の意志だ。」

その瞬間、士朗の心に確信が宿った。黒田はもはや普通の人物ではない。彼の背後にある大きな組織、そしてそれに繋がる陰謀の全貌を暴くことが、妹の死を無駄にしない唯一の方法だ。

士朗はファイルをしっかりと握りしめ、再び黒田に立ち向かう決意を固めた。
「お前の企みがどうであれ、これで終わりにする。」

黒田はもう一度不敵に笑った。
「君がどんなに暴こうとしても、全ては無駄だ。君に残された選択肢は、たった一つだ。」

その言葉に続く一瞬の沈黙。士朗の目の前で、黒田は突然、携帯電話を取り出した。そして、それを手にしたまま、言葉を発した。

「君に伝えたいことがある。君が知らない真実が、もうすぐ君の前に現れる。」

士朗の心臓が高鳴った。黒田が何か仕掛けてきたのだ。

だが、それが何かを知るためには、もう一歩踏み込まなければならない。再構築された記憶、それが全てを明らかにする鍵であることを信じて、士朗は一歩前へ踏み出した。



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#創作大賞2025
#ミステリー小説部門


【メッセージ】
最後までお読みいただき感謝いたします。

拙い文章ですが、ロジカルな文章よりも感情を揺さぶるような文章を書きたいと思っています。
これからも、是非ともよろしくお願いいたします。
余韻のために最後は1ページ程度の空白を置いています。何か感じていただければと。
今日は楽しかった、悲しかった、悔しかった、嬉しかったなど、そういう感情が動く体験は、
記憶され、そして未来の判断になんらかの影響を与えると思います。そうだといいな。

【プロフィール】
2児の父です。 駄文・乱文ですみませんが、普通の人生を記していきます。コッソリと・・・ 
凡人なので、フォロバ100です。人としては、フォローされるよりフォローできる人間でありたい。 
ちなみに自己紹介にスキはフォローOKと受け止めます。 
「Amazonのアソシエイトとして、T(パパ)は適格販売により収入を得ています。」
あと、noteにも感謝です。
見出しの写真やイラストはnoteユーザー様のを使わせて頂いています。こちらも感謝いたします。



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