物語を描く、その理由──あいだ夏波×アリックス・ガラン 対談レポート
初めましての方も、
いつも読んでくださっている方も、
こんにちは。
数ある記事の中から、
お越しくださりありがとうございます。
前回の記事では、
数字がテーマの絵本をご紹介しました。
今回は、アンスティチュ・フランセ
(東京日仏学院)にて行われた、
二人の作家による対談の様子を
レポートします。
この記事はこんな方にお勧めです。
漫画、BD(バンド・デシネ)が大好きな方
フランス語・フランス語圏の文化に
興味がある方感情を揺さぶられる
読み応えのある作品をお探しの方
記事の最後には、
今週末(11月1日・2日)に開催される、
関連イベント(入場無料)のリンクも掲載しています。
ぜひ、最後までお付き合いくださいませ。

ご本人のinstagramでリポストいただき、
とても嬉しかったです…!
日本・フランス語圏の二人の作家
あいだ夏波
2001年、「マーガレット」(集英社)でデビュー。
2006年から2014年にかけて
同誌で連載された『スイッチガール!!』は、
日本だけでなくフランスでも大ヒットとなる。
2021年には「BE・LOVE」(講談社)で
『東大くんと元ギャルさん~格差婚ロワイヤル~』を発表。
2025年、『Le Bourge et la Cagole』として
フランス語版が刊行され、
同年3月には
ブリュッセル・ブックフェアでのサイン会も
盛況を博した。
アリックス・ガラン(Alix Garin)
1997年ベルギー生まれのバンド・デシネ作家。
これまでに発表した
2作のグラフィック・ノベルは
いずれも高く評価され、
2025年のアングレーム国際漫画祭では
フランステレビのオーディエンス賞を受賞。
卓越した詩情と、
力強く躍動感ある筆致で読者を惹きつける。
自己表現的な作風を得意とし、
これまで語られることの少なかったテーマにも
果敢に挑む姿勢で、
男性中心とされるコミック界において
将来を嘱望されている。
東京日仏学院
会場の東京日仏学院は
JR総武線「飯田橋駅」西口から徒歩約7分。

外堀沿いを歩き、
緩やかな坂道を進むと
入口の看板が見えてきます。


同学院の建築は、
日本のモダニズムを代表する坂倉準三氏と、
現代建築家の藤本壮介氏による設計。
その美しい構造は、
ドラマ『名建築で昼食を』にも登場しています。
建築や文化施設に興味のある方にも、
ぜひ一度訪れていただきたい場所です。
あいだ夏波×アリックス・ガラン 文学対談
2025年10月23日、
「枠を超えて生きる若者たち – 二人の作家が語る重圧の物語 あいだ夏波 & アリックス・ガラン 文学対談(Rencontre littéraire – Bulles en résistance : deux autrices racontent la jeunesse sous pression – AIDA Natsumi et Alix GARIN)」と題し、日欧のマンガ文化交流イベントの対談が開催されました。
イベントは二部構成。
はじめに、学院敷地内の書店
「パサージュ・リヴ・ゴーシュ」でで書籍のサイン会が行われ、
その後、定期的に仏語映画の上映などが行われるイベントスペース
「エスパス・イマージュ」へと移動し、対談がスタートしました。


司会を務められたのは、
リベラシオン紙の記者であり、
ラジオ・フランスの特派員でもある
西村カリンさん。
漫画家 じゃんぽ〜る西 氏の奥様と聞くと、
ピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。
思いがけず著名な方が司会をされていて、
とても驚きました。
日本の漫画の事情にも精通されており、
アーティストの本質に迫るような
質問が多かったのが印象的です。
インタビューの切り口も、
日本国内のトークイベントとは異なり、
作品と作家の内側に踏み込むような
示唆に富んだ内容でした。
対談は質疑応答の時間を含めで
約2時間半ほど。
日仏同時通訳で進行され、
その通訳の素晴らしにも感嘆しました。
要点のまとめ方や
表現の切り取り方が非常に的確で、
「noteを書く人にとっても勉強になる通訳」
という印象。
フランス語が分からなくても、
十分に楽しめる内容でした。
ここからは、
私が印象に残った部分を
ピックアップしてお届けします。
記事作成を急いだため、
おそらく
公開時点ではここでしか読めない内容に
なっていると思います。
ぜひ、作家たちの貴重な生の言葉と、
日本とフランス語圏の
表現文化の違いを感じながら
お楽しみください。
お二人の作品に対する姿勢
【私が受けたお二人の印象】
・アリックスさん:芸術家
・あいださん:職人
アリックスさんは、
常に自分の心に忠実であろうとし、
「自分は今、何を表現したいのか?」
という問いを大切にされていました。
アーティストでありながら、芸術家の中でも、
エスプリ(精神)を
身体で表現するダンサーのような存在
という印象を受けました。
一方のあいださんは、
何よりも
「読者が楽しんでくれること」
を最優先にされていました。
ご自身の考えや思想を
作品(漫画)に投影することは
あまり意識していないそうです。
それよりも、
自分の技術を
『人を楽しませるために最大限使う』
その姿勢には、
目的に向かって技を磨く
職人の気高さを感じました。
そんな異なる印象のお二人に
共通していたのは、
「他の人には作れないものを生み出す」
「自分にしかできない作品を創る」
という信念。
作品に込める想いや表現方法は違っても、
「自分らしく表現する」
という一点において、
深い共鳴があるように思いました。

アリックスさんのように、
自分の内面を掘り下げて表現する姿勢に
憧れながらも、
あいださんのように、
読者の喜びを第一に考える
「仕事人」としてのかっこよさにも
心惹かれます。
どちらの方向にも振り切れないとき、
自分の中の決意の曖昧さを痛感します。
そんな瞬間が、
創作を続ける理由のひとつなのかもしれません。
noteで発信されているみなさんは、
どちらの姿勢が自分に近いと感じるでしょうか。
それとも、どちらでもなく
「自分の流儀」で表現されていますか?
よろしければ、
ぜひコメントで教えてください。
日本とフランス語圏の違い
出版社・編集者との付き合い方
アリックスさんは今回の訪日で、
日本の漫画家たちと交流し、
仏語圏との違いを感じたそうです。
仏語圏では、
編集者は日本と同じく
作品を共に創り上げるパートナー
として存在します。
「ここがよい」
「ここは読者に伝わりにくい」
「この色がより効果的かもしれない」
といったアドバイスや
専門的な意見はありますが、
物語の核心部分や
作風に介入することはほとんどない
とのこと。
一方で、日本の漫画制作では、
編集者が客観的な立場から
作品づくりに深く関わるケースが
多いそうです。
あいださんも、
「もっと自由に描きたい」
と思ったことはあるそうですが、
どこまでやりたい表現が通るかは、
編集者との議論や相性による部分が
大きいと話されていました。
それは作品に良い影響を与えることもあれば、
時に制約となることもある。
その緊張感こそが、
日本の漫画に
多様なスタイルや物語性を
生み出す要因のひとつ
なのかもしれません。
編集者との
「バトル」のエピソードを語るときの、
あいださんの微笑ましい表情が印象的でした。
真剣さの中にユーモアを交え、
茶目っ気のある一面ものぞかせていました。
漫画家/BD作家の扱われ方と地位
アリックスさんの生まれ育ったベルギーでは、
BD(バンド・デシネ)作家は
アーティストとして扱われるのが一般的です。
一方、あいださんは、
『Le Bourge et la Cagole』(Akata, 2025年)
──自身の『東大くんと元ギャルさん~格差婚ロワイヤル~』(講談社)フランス語版──
の出版キャンペーンのため、
2025年3月にフランス・スイス・ベルギーを巡られたそうです。
その際、
漫画や作家に対するリスペクトの高さを
強く感じたと語っていました。
日本では、漫画はより
エンターテインメントとして親しまれており、
文化的な背景の違いが、
作家の扱われ方や作品の位置づけに
影響しているようです。
この「文化的視点の違い」は、
同じ表現でもアプローチの幅を広げる
きっかけになると感じました。
女性作家の地位
女性作家であることの立場についても、
質問がありました。
あいださんは、
日本の漫画業界では、
男女による扱いの差を意識したことは
ほとんどないと話されました。
表現の違いはあっても、
それは性別ではなく
個人の感性の違いによるものだと。
一方、アリックスさんは、
BD(グラフィック・ノベル)の分野では、
いまだに男性作家の方が
高く評価される傾向があると感じており、
女性作家の地位はまだ発展途上だと語りました。
日本では多くの女性漫画家が活躍しており、
男女差が比較的少ない業界かもしれません。
しかし、漫画が「芸術」ではなく
「娯楽」として位置づけられることが多い点は、
フランス語圏との大きな違いとして
印象に残りました。
それぞれの国が抱える課題が、
文化と表現のあり方を映す鏡のように
感じられた対談でした。

(おまけ)質疑応答
最後に質疑応答の時間があり、
幸運にも
お二人に質問できる機会をいただきました。
大変嬉しかったのはもちろんですが、
質疑のあと、
司会の西村カリンさんが笑顔を向けてくださった
(ような気がします)。
「もしや、いい質問ができたのでは…?」と、
帰り道にほくそ笑んだので、
記録として残しておきたいと思います。
あいだ夏波さんへの質問
あいださんは
『東大卒エリート男性×高卒元ギャル』
のように、
両極端な性質をもつキャラクターの化学反応を
描くのが好きだと話されていました。
ただ、
自分とは異なる性質をもつ人物の言動を
想像するのは、
とても難しい作業のように思います。
掛け合いとなると、なおさらです。
質問:
自分とまったく異なる性質をもつキャラクターの言動は、
どのように生み出しているのですか?
それとも感覚的に生まれるのか?
あいださんは「人間観察が趣味」で、
カフェなどでもつい人を見てしまうそう。
そのため、頭の中には
人格のストックが大量にあるのだとか。
その人格にキャラクターを当てはめると、
自然と頭の中で動きや会話が浮かんでくる。
つまり、感覚的な発想がベースになっているそうです。
さらに、
それぞれの人格を掛け合わせたときに、
想像の広がりがより大きくなる組み合わせこそが、
彼女のいう『化学反応の強い』
組み合わせとのこと。
物語を生み出すエネルギーの源を
垣間見た気がしました。
アリックス・ガランさんへの質問
アリックスさんの作品では、
「引き」のアングルが多く、
余白によって
登場人物の感情を描く構成が印象的です。
イラスト表現にこだわりがある一方で、
言葉の扱いにも関心があるのか気になりました。
質問:
登場人物のセリフやナレーションに、
こだわりはありますか?
アリックスさんはまず第一に、
「フランス語という美しい言語を愛し、
大切にしている」と明言されました。
このテーマについて語るときの
彼女の表情や声色は、
他の話題とは異なる熱がこもっていて、
言葉に対しての情熱とこだわりを感じました。
セリフについては、
当然ながら口語体(oral)ではあるものの、
そこに文学的で詩的な表現を取り入れることで、
言葉の美しさを通して
感情や物語を伝えたいのだと
熱く語られていました。
これまでのBD(バンド・デシネ)では、
ビジュアルが中心で、
ナレーションは軽視されがちだった。
けれど、これからは
『言葉の力』も作品を支える要素になる
そう力強く語る姿が印象的でした。
私は言語や
表現のニュアンスを考えることが好きなので、
その言葉には共感し、
アリックスさんの作品を読むのが
一層楽しみになりました。
同時に、作家がこうした想いを語る場や機会が、
もっと広がってほしいとも感じました。
ここまでお付き合いくださり、
ありがとうございました。
アンスティチュ・フランセが主催する
文学フェスティバル「フランス読書の秋」が、
11月末まで日本各地で開催されてます。
そして、11月1日・2日には
『東京・バンド・デシネ・フェスティバル2025』
が開催予定。
入場は無料ですが、
パネルディスカッションの観覧は
別途でチケットの購入が必要です。
冒頭でご紹介した司会の西村カリンさんや、
アリックス・ガランさんも
パネリストとして登場されるとのこと。
ご興味を持たれた方は、
ぜひ足を運んでみてくださいね。
この記事が、
読んでくださった方の
新しい作品との出会いや、
何かを考えるきっかけになっていたら
嬉しく思います。
次回の記事も、どうぞお楽しみに。
写真に写っている
アリックス・ガランさんの作品、
『Impénétrable』(不可解)。

こちらの記事のあらすじ紹介が、
とってもわかりやすかったです。
(お手に取って読んでもらいたいんですが、
BDはいかんせん、お値段が……!)
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