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イラン正規軍「通していい」vs革命防衛隊「焼き払う」。違うことを言う“二つの軍”の正体

「封鎖した」「してない」、どっちが本当?

3月7日、読売新聞が伝えたニュースは、なかなか衝撃的でした。イラン軍の報道官(アボルファズル・シェカルチー氏)が国営テレビで、「われわれはホルムズ海峡を封鎖しておらず、するつもりもない」と明言。さらに「海峡を通過したい船舶は航行が許される。ただし、米国とイスラエル関係の船は攻撃する」と付け加えたのです 。​

…え、ちょっと待って。

ほんの1週間前の3月2日には、別の組織が「封鎖した。通過しようとする船は炎上させる」と宣言していませんでしたっけ?​

そう、ここに「イランの二つの軍」という、このニュースの核心があります。一国の中で「封鎖した」と言う組織と「封鎖してない」と言う組織が同時に存在している──そのことが、世界中の船会社、石油市場、そして日本の私たちの生活に大きな影響を与えているのです。

今回は、この「二つのイラン軍」という視点を軸に、経済、歴史、未来予測まで、多角的にこのニュースを読み解いていきます。


視点①:「二つの軍」── そもそも何が違うの?

イラン正規軍(アルテシュ)と革命防衛隊(IRGC)の正体

イランには、実は軍隊が二系統あります 。

一つ目は「正規軍(アルテシュ)」。これはいわゆる国軍で、陸海空を備えた伝統的な軍隊。主な任務はイランの領土防衛です。指揮系統は政府・国防省を通じており、プロフェッショナルな軍人集団という性格が強い 。​

二つ目は「イスラム革命防衛隊(IRGC:Islamic Revolutionary Guard Corps)」。1979年のイラン革命の直後、ルーホッラー・ホメイニー師が創設した組織です。その目的は「革命の理念と体制を守ること」。つまり、外敵だけでなく、体制内部の「反革命的勢力」からもイスラム共和国を守るための親衛隊的な存在です 。

この二つの組織の決定的な違いは指揮系統にあります。

  • 正規軍:大統領・国防省を通じて政府の管轄下

  • 革命防衛隊:最高指導者(現在はハメネイ師の後継者?)に直結​

つまり、今回のニュースで「封鎖してない」と言ったのは正規軍の報道官で、「封鎖した、焼き払う」と言ったのは革命防衛隊の高官。両者は違う組織で、指揮系統が異なるため、こういう「矛盾した発言」が同時に出てくるわけです 。

革命防衛隊の圧倒的な「実力」

革命防衛隊は単なる軍事組織にとどまらず、独自の陸海空戦力・ミサイル部隊・特殊部隊(クドス部隊)・民兵組織(バシージ)を持ちます。さらに、建設・エネルギー・通信などイランの経済活動にも深く関与しており、その影響力は軍事を大きく超えています 。​

ホルムズ海峡を実際に「事実上封鎖」しているのも革命防衛隊の海軍。小型高速艇を多用した非対称戦術が得意で、2月28日以降、タンカーへのミサイル攻撃を複数回行っています 。

一方の正規軍は、海峡における「法的・外交的」な枠組みの発言を担う立場に近い。今回の軍報道官の「封鎖してない」発言も、この文脈で読むと「国際法上の責任を正規軍は問えない」とするイランの立場を守るための発言とも解釈できます 。

視点②:経済──世界経済の「咽喉部」で何が起きているか

ホルムズ海峡という「最重要動脈」

ホルムズ海峡は、幅が最も狭いところで約33kmしかない水道です。しかしここを、世界の原油消費量の約20%が通過しています 。サウジアラビア、イラク、UAE、クウェート、そしてイランが産出した石油を運ぶ唯一の出口です。​

Hormuz map.png — Kleptosquirrel / Wikimedia Commons, CC BY‑SA 3.0

2月28日の封鎖宣言以後、船舶の通航量は最大70%減少したとされ 、日本郵船は自社船舶にホルムズ海峡を通航しないよう指示 。日本のペルシャ湾内に取り残された船は43隻にのぼり、日本人船員も24人が足止めされました 。

原油価格は危機発生後に大きく上昇。アメリカのシンクタンクは「イランが湾岸諸国の石油施設を攻撃すれば、1バレル130ドルを超える」と試算しており 、実際に1バレル90ドルを突破したとの報告もあります 。これは2022年のロシアによるウクライナ侵略時と同等の水準で、日本国内では当時、ガソリン1リットルが補助金なしで200円超になっていました 。​​

「船籍次第」という新たな経済ゲーム

今回の軍報道官の発言で興味深いのは「米国とイスラエル関係の船は攻撃する」という部分。つまり、日本、欧州、そして——特に注目すべきは——中国の船は通過できる可能性が示されたのです 。​

実際、中国の海運大手・中国招商局集団(チャイナ・マーチャンツ・グループ)所有の超大型原油タンカーが3月1日にホルムズ海峡を通過したことが確認されています 。これはイランが事実上、中国やロシアには「通行証」を発行しているとも読め、西側諸国と中国・ロシア陣営の分断を利用した、いわば「船籍エコノミクス」が始まっていると言えます。​

日本の船会社にとっては、日本船籍の船が「米国・イスラエル関係」と見なされるかどうかが死活問題。現時点では不透明ですが、日本がどのポジションを取るかという政治的判断が、経済的な生命線に直結する状況です。

視点③:政治・外交──「態度の軟化」の裏にある政治ゲーム

ペゼシュキアン大統領の「停戦宣言」

3月7日、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は、近隣諸国(カタール、クウェート、バーレーンなど、米軍基地のある国々)への攻撃を中止すると発表しました 。これは2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃への報復として行ってきた攻撃を、ひとまず止める方針転換です。​

軍報道官の「封鎖してない」発言は、この大統領発表と同日。「近隣諸国との関係改善を試みる政策が反映されている可能性がある」と読売新聞も指摘しています 。​

つまり、政府・大統領サイドは「出口」を探し始めている。しかし…

革命防衛隊は「まだ戦う気」

ところが同じ3月7日、革命防衛隊の報道官は別の声明を出しています。「トランプ大統領が米軍によるタンカー護衛を検討すると表明したことへの対抗措置をとる構え」を示し、過去の機雷被害の事例を挙げて米国を威嚇したのです 。

この「政府は停戦ムード、革命防衛隊は継戦ムード」という乖離こそ、イラン政治の最大の特徴です。大統領は選挙で選ばれますが、最高指導者直属の革命防衛隊はその意向に縛られません。まさに「二つの軍、二つの政策」が同時進行している状態です。

国際的な文脈:中国とロシアの役割

中国外務省の毛寧報道官は3月6日の定例記者会見で、ホルムズ海峡を「国際的に開かれた航路」と位置づけ 、事実上イランによる封鎖を否定する立場を示しました。中国は最大のイラン原油の買い手であり、封鎖が長引くことは中国にとっても損失となります。​

こうした中国の動きが、イラン政府サイドの「軟化」を後押ししている可能性もあります。「中国を怒らせてはいけない」という経済的な現実が、革命防衛隊の強硬姿勢にブレーキをかける要因のひとつになっているかもしれません。

視点④:歴史──これは「初めて」じゃない

過去にも繰り返されてきた「封鎖威嚇」

イランがホルムズ海峡の封鎖を脅しの道具として使うのは、今回が初めてではありません 。1980年代のイラン・イラク戦争時には「タンカー戦争」と呼ばれる攻防があり、双方がお互いの石油輸出を妨害しました。​

2011〜2012年には、欧米の対イラン制裁強化に対抗する形で「ホルムズ封鎖」の脅しが何度も出ました。しかしその都度、実際の封鎖には至りませんでした。理由の一つは、封鎖すればイラン自身も石油輸出ができなくなり、自らの首を絞めるためです。

今回の違いは、米国とイスラエルによる直接攻撃(最高指導者の殺害を含む)というかつてない事態が発生したこと 。これにより革命防衛隊は「もはや抑止だけでは体制が守れない」と判断し、実際に攻撃に踏み切ったと見られます。​

「タンカー戦争」の教訓と現在

1987年のタンカー戦争では、レーガン政権が米国旗を掲げた船舶の護衛作戦(オペレーション・アーネスト・ウィル)を実施しました。今回のトランプ大統領による「米軍によるタンカー護衛検討」の発言 は、まさにこの歴史の繰り返しです。そして当時と同様に、革命防衛隊は「機雷」を対抗手段として示唆しています。歴史は繰り返すようです。​

視点⑤:私たちの生活と未来──日本はどう動くべきか?

ガソリン・食品・プラスチック……全部つながっている

ホルムズ海峡の問題が「遠い中東の話」だと思ったら大間違いです。日本が輸入する原油の約90%は中東産で、その多くがホルムズ海峡を経由します 。​

封鎖や準封鎖が長引けば

  • ガソリン・灯油の価格上昇(すでに値上がりが始まっています )​

  • 食品・日用品の物流コスト増加(軽油価格上昇による)

  • プラスチック製品(納豆の容器や包装材にも!)の原料価格上昇​

  • 航空便の遅延・欠航(中東ハブ空港の被害により )​

政府は現在254日分の石油備蓄があると説明していますが 、長期化すれば備蓄だけでは対処できません。​

日本にとっての「船籍の問題」

イランの軍報道官は「米国とイスラエル関係の船を攻撃する」と言いました 。日本船籍の船は今のところターゲットとされていませんが、「日本が米国の同盟国である」という事実は変わりません。今後、日本の立場次第では日本船が「敵対国関係」と見なされるリスクもゼロではない。​

日本政府は、エネルギー安全保障の多様化(中東依存からの脱却)を長年の課題としてきましたが、今回の危機はその遅れを痛感させます。中長期的には再生可能エネルギーの加速や、中東以外のエネルギー調達ルートの確保が急務となるでしょう。

総合考察:「二つの声」を読み解くカギ

今回のニュースで最も重要な問いは、「どちらの発言がイランの"本音"か?」です。

整理すると

  • 正規軍報道官(シェカルチー氏)が「封鎖してない」→ 政府・外交ラインの発言

  • 革命防衛隊(IRGC)が「封鎖した、焼き払う」→ 最高指導者ラインの発言

  • 大統領(ペゼシュキアン氏)が「近隣諸国攻撃を中止」→ 政治的な出口探し​

これら三者の発言が同時並行で出ているということは、イラン内部での「路線対立」の表れでもあります。大統領・外交ラインは交渉の余地を残したい。革命防衛隊は強硬姿勢を維持したい。この二つの力の綱引きが、ホルムズ海峡の「事実上の封鎖」という曖昧な状態を生み出しています。

私たちが「イランは何をしようとしているのか?」を理解するには、「誰が発言しているか」を常に確認することが大切です。大統領の言葉と革命防衛隊の言葉では、政治的な意味が全く違うのです。

結論:「二つの声」が続く限り、海峡の霧は晴れない

ホルムズ海峡をめぐる現在の状況は、単純な「封鎖か否か」という問題ではなく、イランという国家の複雑な権力構造そのものが映し出されています 。正規軍と革命防衛隊が異なるメッセージを発信し続ける限り、国際社会も船会社も「安全宣言」を出すことができません。

この危機が私たちに教えてくれるのは、「エネルギーの脆弱性」と「地政学リスクは遠い話ではない」という現実です。ガソリンの値段が上がったとき、その背後にこんな複雑な歴史と政治が絡み合っていると知ると、ニュースの見え方が少し変わりませんか?

参考ニュース・情報源

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ホルムズ海峡:ペルシャ湾とオマーン湾を隔てる、世界の原油輸送の約2割が通過する「エネルギーの生命線」
イスラム革命防衛隊 (IRGC):イラン革命の体制を守るために創設された、最高指導者直属の精鋭軍事組織。軍事だけでなく経済・政
治にも巨大な影響力を持つ。
正規軍 (アルテシュ):国防省の管轄下にあり、主にイランの領土防衛を任務とする伝統的な国軍。
非対称戦術:小型高速艇やミサイル、機雷などを用い、正規軍同士の正面衝突を避けつつ敵の弱点を突く戦い方
タンカー戦争:1980年代のイラン・イラク戦争中、双方が互いの石油輸出を妨害するためにタンカーを攻撃し合った紛争。
WTI原油:米国テキサス州産の原油の指標価格。世界の原油価格の動向を決める重要なベンチマークの一つ。
地政学リスク:特定の地域の政治的・軍事的な緊張が、世界経済や市場に悪影響を及ぼすリスク。

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