警察庁答弁が暴いた辺野古の現実――“平和学習”で高校生を連れて行く場所だったのか
辺野古沖で起きたボート転覆事故について、単なる海難事故としてだけ見るのは不十分だと思う。
もちろん、直接の事故原因は捜査によって明らかにされるべきである。
出航判断は適切だったのか。
波浪注意報が出ていた中で、なぜ高校生を乗せて海に出たのか。
転覆後の安否確認は行われたのか。
船長や運航主体の安全管理はどうだったのか。
これらは、海上保安庁の捜査で厳正に確認されるべき問題である。
しかし、5月8日の衆議院法務委員会で見えてきたのは、もう一つの論点だった。
それは、そもそも学校は、どのような現場に高校生を連れて行ったのかという問題である。
今回、高校生たちが乗ったボートは、基地反対運動に関わる人たちの船だったと国会で指摘された。そのうえで、警察庁に対し、沖縄の基地反対運動に関する逮捕者数や、極左暴力集団の関与について質問が行われた。
ここから見えてくるのは、辺野古の現場が、単なる「平和な市民運動の現場」として学校が無警戒に扱ってよい場所だったのか、という重い問いである。

警察庁答弁が示した、沖縄の基地反対運動の実態

国会答弁で、警察庁はかなり具体的な数字を示している。
キャンプ・シュワブおよび米軍北部訓練場周辺での抗議行動に関連し、平成27年以降、沖縄県警察が逮捕した者は89件、延べ110人。主な内訳は、公務執行妨害事件41件・延べ41人、道路交通法違反事件24件・26人、刑事特別法違反事件9件・19人である。
さらに、その110人のうち、外国人が5人、逮捕当時に沖縄県外居住だった者が23人であるとも答弁されている。
この数字は軽くない。
もちろん、逮捕者がいるからといって、基地反対運動全体を一括りにして断罪するべきではない。
地元で基地負担に向き合い、真剣に声を上げてきた人たちもいるだろう。基地問題には、沖縄の歴史、住民感情、安全保障、日米関係が複雑に絡んでいる。
しかし同時に、現実として、辺野古周辺の抗議活動は「穏やかな市民運動」というイメージだけでは説明できない。
警察庁が国会で出した数字は、そこに一定の治安上のリスクが存在してきたことを示している。
「極左暴力集団」とは何か――単なる左派や反基地派のことではない

ここで一度、言葉を整理しておく必要がある。
「極左暴力集団」という言葉は、一般の人にはあまりなじみがない。
しかも、この言葉を雑に使うと、「反基地派は全員危険だ」と言っているように見えてしまう。
それは違う。
ここでいう「極左暴力集団」とは、単なる左派、リベラル、反基地派、市民運動家のことではない。警察庁が用いる公安上の用語であり、警察白書では、暴力革命による共産主義社会の実現を目指す集団と説明されている。警察庁は、こうした集団について、依然として「テロ、ゲリラ」の実行部隊である非公然組織を持ち、組織の維持・拡大を狙って、暴力性・党派性を隠しながら大衆運動や労働運動に取り組んでいると説明している。
また、警察白書では、極左暴力集団が反戦・反基地運動や反原発運動に取り組み、それらを通じて同調者や支持者の獲得を図っているとも説明されている。
つまり、問題はこういうことだ。
表向きには「市民運動」「反基地運動」「平和運動」と見える場であっても、警察庁の見方では、その一部に過激派組織が関わっている可能性がある。
だからこそ、学校がその現場に高校生を連れて行くなら、単に「平和学習だから」「沖縄を学ぶためだから」で済ませてはいけない。
警察庁は「一部には極左暴力集団」との見解を維持している

今回の法務委員会で、特に重要だったのはこの部分である。
参政党の和田議員は、2017年の参議院内閣委員会で警察庁が「沖縄の基地反対運動を行っている者の一部には極左暴力集団も確認されている」と答弁したことを取り上げ、現在も同じ認識なのかを確認した。
これに対し、警察庁は、見解に変わりはないと答弁した。
ここは、かなり重要である。
繰り返すが、これは「基地反対運動全体が極左暴力集団だ」という話ではない。
そういう雑な決めつけをすると、論点がぼやける。
問題は、警察庁が公式答弁として、沖縄の基地反対運動を行う者の一部に極左暴力集団が確認されているとの認識を、現在も維持しているという点である。
この答弁がある以上、辺野古の現場を単なる「平和学習の場」として扱うのは、あまりに軽い。
そんな現場に高校生を連れて行くなら、学校は何を確認したのか

修学旅行は、政治活動の現場見学ではない。
もちろん、沖縄の基地問題を学ぶこと自体は否定しない。
むしろ、日本の安全保障、沖縄の基地負担、日米関係、地方自治、住民感情を考える上で、重要なテーマである。
しかし、重要なテーマだからこそ、扱い方は慎重でなければならない。
特に、警察庁が「一部に極左暴力集団も確認されている」との見解を維持しているような現場に高校生を連れて行くなら、学校側には通常以上の確認義務がある。
確認すべきだったのは、船の安全だけではない。
現地団体の性格を把握していたのか。
運航主体は信頼できる相手だったのか。
船舶の安全管理や登録状況は確認していたのか。
活動現場の治安上のリスクを評価していたのか。
政治的に一方の立場だけに接続していなかったのか。
保護者に十分な説明をしていたのか。
緊急時の連絡・救助体制は整っていたのか。
ここを確認せずに「平和学習です」で通したのだとすれば、それはあまりに甘い。
「市民運動」という看板で、チェックが甘くなっていないか

日本では、「市民運動」という言葉がつくと、なぜかチェックが甘くなることがある。
市民運動だから善意。
反戦だから正義。
平和学習だから教育的。
沖縄だから学ぶ価値がある。
そういう空気が、現場のリスク評価を鈍らせていないか。
本来、学校行事で生徒を外部団体の活動現場に連れて行くなら、学校はかなり慎重でなければならない。ましてそこが、警察庁の答弁上、逮捕者が多数出ており、一部に極左暴力集団の関与も確認されているとされる現場なら、なおさらである。
これは、基地賛成・反対の話ではない。
教育活動として、子どもをどこに連れて行くのか。
その場所にどんなリスクがあるのか。
誰が案内し、誰が運航し、誰が安全責任を負うのか。
それを学校がどこまで把握していたのかという話である。
文科省答弁も、学校側の確認責任を示している

文部科学省も、今回の法務委員会で重要な答弁をしている。
文科省は、修学旅行等の実施にあたっては、安全確保のための配慮が必要であり、事前の実地調査などにより、安全に実施するための情報をあらかじめ確認すること、関係業者を利用する際には信用を十分に調査することが必要だと説明している。
さらに文科省は、教育基本法第14条第2項に触れ、特定の政党を支持・反対するための政治的活動は禁止されていること、特定の見方や考え方に偏った扱いで、生徒が主体的に考え判断することを妨げてはならないことも示している。
これは当然の話である。
学校教育は、政治的主張をそのまま生徒に浴びせる場ではない。
基地問題を学ぶなら、反対派の声だけでなく、賛成・容認・安全保障上の必要性・地元経済・国の政策判断など、複数の視点を示す必要がある。
それをせずに、一方の運動現場に生徒を接続するだけなら、それは教育というより、政治的な現場体験に近づいてしまう。
「平和」を語るなら、まず子どもの安全を守れ

平和学習という言葉は、非常に強い。
だからこそ、その言葉で何でも正当化してはいけない。
平和を学ばせたいなら、まず生徒の命を守らなければならない。
人権を教えたいなら、まず目の前の子どもの安全を最優先にしなければならない。
政治を考えさせたいなら、特定の運動に接続させるのではなく、複数の視点から判断できる材料を与えなければならない。
今回の警察庁答弁が示したのは、辺野古周辺の抗議活動が、単なる「平和な市民運動」という一枚絵では語れないという現実である。
ならば、学校はその現実を踏まえていたのか。
そこを曖昧にしたまま、事故だけを「不幸な海難事故」として処理してしまえば、同じ構造はまた繰り返される。
問われているのは、基地反対ではなく、学校の現場認識である

今回の事故について、捜査中の事実を断定するべきではない。
船長や運航団体の責任。
学校側の責任。
旅行会社の責任。
行政の対応。
それぞれは、今後の捜査や検証によって明らかにされるべきだ。
しかし、国会で警察庁が明らかにした答弁だけでも、少なくとも一つの問いは立つ。
そこは、本当に高校生を修学旅行で連れて行くべき現場だったのか。
平和学習の看板を掲げれば、現場の危うさは消えるのか。
市民運動という言葉を使えば、学校の確認責任は軽くなるのか。
基地問題を学ぶ目的があれば、生徒を政治的対立の最前線に近づけることは当然なのか。
私は、そうは思わない。
学校教育に必要なのは、思想への共感ではなく、安全への責任である。
政治的熱量ではなく、現場を見る冷静さである。
そして何より、子どもの命を最優先にする判断である。
警察庁答弁は、その当たり前を改めて突きつけている。
参考情報

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警察庁答弁
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極左暴力集団
警察庁が用いる公安上の用語。暴力革命による共産主義社会の実現を目指すとされる過激派組織を指す。
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在日米軍施設・区域への立ち入りなど、日米地位協定に関連する特別法に違反する行為。
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