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「三成に過ぎたるもの」わが子が僕をそう呼んだワケ

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息子に「お父さんは島左近みたいだね」と言われた日

休日の昼下がり、歴史好きの息子と話していた時のことでした。彼は、戦国時代の武将について熱く語り終えた後、ふと私の顔を見てこう言ったのです。

「お父さんは、島左近みたいな人だね」

島左近。その名前に、私は一瞬、誰のことだろうかと考え込んでしまいました。歴史に詳しい方ならご存知かもしれませんが、決して誰もが知るメジャーな武将ではありません。恥ずかしながら、私はその時まで彼のことを詳しく知りませんでした。

「島左近って、どんな人なの?」

そう尋ねると、息子は待ってましたとばかりに目を輝かせます。 「知る人ぞ知る、最強の参謀だよ。石田三成に仕えた武将なんだ」

石田三成。豊臣秀吉の忠臣であり、関ヶ原の戦いで徳川家康に敗れた悲運の武将。どちらかといえば、少し融通が利かない、不器用なイメージを持たれがちな人物かもしれません。その三成について、当時こんな言葉があったのだと息子は教えてくれました。

「三成に過ぎたるものが二つあり、島の左近と佐和山の城」

息子はこれをスラスラと暗唱して見せました。主君である三成にはもったいないほど、いや、三成以上に素晴らしいものが二つある。一つは居城である佐和山城、そしてもう一つが、島左近という家臣の存在だった、と。主君を凌ぐとまで言われた人物。一体、息子の目には、私がそんな大人物に重なって見えているというのでしょうか…。

「お父さんは、前に出て『どうだ!』って威張るタイプじゃない。でも、なんだかんだ人に頼られてるし、実は強そう。頭で戦うタイプだから」

息子の言葉は、まるで私の心の中を見透かしているかのようでした。その洞察力の鋭さに、私はただただ驚かされるばかりでした。

武将の価値と、僕が選んできた道

実はこの会話の少し前、私は息子にある問いを投げかけていました。

「歴史に名を残すこと、長く生きること、たくさんの領地をもらうこと。君にとって、戦国武将として一番すごいと思うのはどれ?」

彼の答えは明快でした。 「歴史に名を残すことよりも、長く生きることと、たくさん領地をもらうことだよ」 つまり、後世の評価よりも、今を生きる上での成功や実利が重要だというのです。なんとも現実的で、子供らしい素直な価値観だなと微笑ましく思いました。

彼の「推し武将」が、小田原城主の北条氏政という、これまた少しマニアックな人選であることも、彼の価値観を物語っているのかもしれません。氏政は最終的に豊臣秀吉に敗れてしまった武将ですが、その生き様の中に、息子は何か惹かれるものを見出しているのでしょう。

その話の流れで、私は自分自身の価値観について話しました。 「お父さんは、経済的な成功とかお金も大事だけど、それよりも自分にとってのやりがいとか、『この人だ!』と思える人のために働けることがすごく大事なんだ」

かつて、私は大きな会社に勤めていました。安定し、恵まれた環境だったかもしれません。しかし、どこかで自分の心が満たされない感覚があったのです。私はその安定を手放し、しばらくフリーランスとして、自分の力だけで道を切り拓く時間を選びました。そして今、「おてつたび」という、地域の事業者さんと新しい価値観を求める人々とを繋ぐ素晴らしい活動に携わっています。自分が「これだ」と心から信じられる場所に、ようやく辿り着けた。そんな話をしたのです。

すると、息子は深く頷いて言いました。 「その生き方が、島左近に似ているんだよ」

400年の時を超えて重なった、生き方の軌跡

息子が言うには、島左近のキャリアもまた、一直線ではなかったというのです。

最初は、筒井順慶という武将のもと、安定した政権に仕えていました。しかし、その後、主君を失い、彼は約七年間も浪人として過ごすことになります。何の後ろ盾もない、まさに裸一貫の状態です。その期間、彼は特定の組織に属さず、自らの能力と価値だけを頼りに生きていたのです。いわば、「肩書よりも自分の価値で動く期間」を得たと言えるでしょう。

そして、その浪人期間を経て、彼が最終的に仕えることを決めたのが石田三成でした。破格の待遇で迎えられたと言われる左近は、三成という人物の中に、自らの能力を最大限に捧げる価値を見出したに違いありません。

大企業という安定を離れ、フリーランスとして自分の価値を問い続けた私。そして、心から共感できる「おてつたび」という場所に身を置くことを決めた私。その歩みが、息子の目には、安定した場所を離れ、浪人を経て、石田三成という信じる主君を見出した島左近の生き様と、ぴたりと重なって見えたというのです。

これには、もう言葉もありませんでした。我が子ながら、その知識の深さと、歴史上の人物の生き様を現代の父親のキャリアに当てはめてみせる抽象化・転用能力に、末恐ろしさすら感じてしまいました。

調べてみればみるほど、島左近という人物の魅力に引き込まれていきました。最強の参謀として知られ、関ヶ原の合戦では鬼神のごとき活躍を見せたと言います。そんな偉大な人物に自分を重ねてくれた息子の言葉は、恐れ多くも、私の胸を熱くさせるには十分すぎるものでした。

歴史は、現代を生きる私たちのための「事例集」だ

正直に告白すると、私は学生時代、歴史が大の苦手でした。年号や人名を覚えるだけの退屈な科目だと思い込み、その面白さに全く気づけなかったのです。息子とは大違いですね。

しかし、大人になり、「コテンラジオ」などを通じて歴史に触れ直す機会を得てから、その認識は180度変わりました。歴史とは、単なる過去の記録ではありません。それは、数え切れないほどの人間が繰り広げた、成功と失敗の壮大なデータベースなのです。

なぜあの国は栄え、なぜこの組織は滅びたのか。 どんなリーダーが人を惹きつけ、どんな判断が事態を好転させたのか。

そこには、現代を生きる私たちが直面する人間関係や組織の課題、キャリアの悩みに対するヒントが、無数に散りばめられています。歴史上の出来事や人物の生き様から、普遍的な法則や教訓を「抽象化」して学ぶこと。これこそが、歴史を学ぶことの本当の価値なのだと、遅ればせながら気づかされています。

今回の息子の言葉は、改めてそのことを強く私に教えてくれました。歴史という巨大な鏡の中に、自分の生き方を映し出し、未来へのコンパスを見出すことができる。息子の知識にはまだまだ敵いませんが、これからもこの壮大な物語から、自分らしい生き方を見つけるためのヒントを学び続けていきたい。

お父さんも、もう少し頑張らないとな。そう心に誓った、忘れられない休日となりました。

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