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【魔族な俺ですが、人間達と仲良く暮らしても良いですか?#17】

炎の翼、堕つ


■登場人物紹介

【冒険者パーティー】

  • レオル(Leol)
     かつて魔王ザナグルを討った魔族の剣士。
     それからは孤独を貫いていたが、仲間たちと出会い「誰も見捨てない」という信念を持つようになる。
     今では「家族」を守るため、魂を代償に未知の力“アヴィス”を受け入れ、龍神の姿へと変貌した。

  • ミレニム(Millenim)
     人間の魔女で、レオルの参謀役。戦術と魔術の実力は高く、冷静沈着。
     レオルに想いを寄せ、時には命を賭けて彼と仲間を支える存在。
     作戦や陣術に長けた知性派でありながら、情にも深い。

  • ジュラ(Jura)
     陽気で豪快な格闘家の少女。
     情に厚く、仲間のためなら命も惜しまない。
     気の技と体術を駆使し、最前線でザインに挑む勇敢な拳士。

  • ハクロ(Hakuro)
     冷静沈着な獣人の斥候。索敵や戦術支援に長ける実務派。
     料理や日常の管理も担い、仲間の縁の下の力持ち的存在。

  • エルフィ(Elfi)
     魔力を失った元エルフの少女。支援魔法と癒しを担当。
     レオルに淡い恋心を抱きながら、彼の言葉に救われ、自身の価値を見出していく。

  • グレイシャ(Gresia)
     兵器として生み出されたホムンクルスの少女。
     レオルを父と慕い、人の心を学びながら成長中。
     “家族”の意味を知り始めている。


【仲間・支援者たち】

  • ゾラ(Zora)
     レオルの影に宿る古の魔族。魂魄術・精神干渉に長けた賢者。
     冷静に見守りつつ、レオルの変化を注視している。

  • リン(Lin)
     次元収納と“勇者”のスキルを持つ少女。
     過去の傷を乗り越え、「黒の勇者」として覚醒。
     レオルたちとの絆を通じて、神に背いてでも仲間を守る道を選んだ。

  • ホロ(Horo)
     リンの弟分で病弱な少年。
     リンの中にある優しさと決意の象徴でもある存在。

  • カリウス(Carius)
     冒険者パーティー〈赤き砂〉の指揮官。
     レオルらを協力しつつ、彼らの戦力と在り方を評価している。

  • ミィナ(Miina)
     ミレニムの旧友であり、情報と交渉を担う冷静な調整役。

  • エイラン(Eiran)
     〈赤き砂〉の戦士で、レオルと互いに認め合う関係。

  • カレン(Karen)
     ギルドの事務員。表向きは事務方だが、裏でレオルたちを支援している。

  • リゼル王女(Lizel)
     理知的な王国の第一王女。国と人々を守るため、現在はレオル達を支援する。


【敵対勢力】

  • ザイン(Zain)/炎翼のザイン
     異界から来た災厄の魔族。“星落とし”を発動し魂を喰らう魔神。
     本来の姿は「炎翼」と呼ばれた破壊の化身で、王国を壊滅寸前まで追い詰める。

  • エレクチュア(Erekutua)
     ザインに仕えていた半魔族の少女。
     レオルに心を寄せ、リタとの出会いを経てザインに背く。命を賭して少女を救い、現在はソフィアの力で生存中。

  • ルルリエ(Lulurie)
     傘を携えた謎多き魔族。
     “虚実反転”の力と観察者的な立場を持ち、ザインにも一目置かれている。

  • 雷王
     神の武神兵器。エレクチュアの命令で稼働。圧倒的な物理的戦力を誇る。

  • カリナ(Karina)
     雷撃を操る暗殺者。ジュラとの因縁があり、現在は敗走中。

  • ノワール(Noir)
     冷酷無比な暗殺者。ジュラと因縁を持ちながらも、ミレニム救出する。

  • オルト商会
     魔族・妖魔を売買する地下組織。陰謀の一端を担っている。

  • ヴァルトラム伯爵
     王国の腐敗貴族。レオルを追放に関わった張本人。


【その他の存在】

  • ルミエル(Lumiel)
     神造の天使人形。王国に仕えているが、使命と感情の間で揺れる。
     今は人間たちと共に戦い、徐々に“心”を持ち始めている。

  • シンエン(Shinen)
     海魔“深淵の姫”。妹を守るために人類に抗った存在。

  • シロガネ(Shirogane)
     シンエンの妹。無垢な海竜族の少女。

  • ソフィア(Sophia)
     時間を操る“懐中時計の少女”。世界の時?を管理する存在で、レオルの命を救う。

  • リタ(Rita)
     雑貨屋の娘。エレクチュアの心に人の温もりを灯した少女。
     その想いが、ザインへの反逆と世界の運命の一端を動かした。

  • アヴィス(Abyss)
     スキルの具現として現れた少女。レオルと契約を結び、彼の力を“龍神”へと変貌させた。
     その正体は“闇帝”の分体であり、魔族の本質を問う存在。彼女の意思が、レオルの選択を見極めようとしている。


炎の翼、堕つ

 「良かったですね……あれだけ想われたら、女冥利に尽きるのではないですか?」

 ノワールが、屋上の縁で細身の剣の刀身を目を眇めて点検している。

ノワール

 「それは、全くその通りなんだけど、ね」

 先程からミレニムがノワールに背を向けて、何やらフラフラ不安定な動きをしている。

 「ねえ、ノワールさん……レオルが私の名前を最初に出して、心を埋めてくれた、と言ってくれたことは純粋に嬉しかった……本当に嬉しかったの」

 「両思いですか、おめでとうございます」
 「あと、二人は想い人がいるように聞こえましたが……そこは大丈夫なのですか?」

 ……そもそも、それは両思いの範疇に入るのだろうか?

 ノワールは、そんなことを頭の片隅で思いながら、小さなハンマーを取り出し、剣の歪みで気になるところを応急処置していく。

 アサシンである彼女はいついかなる時にも武器の手入れが出来るように、道具を持ち歩いている。

 「それは、もう諦めているの。
 ジュラやエルフィのことは、姉妹みたいに思ってる……それはいいの」
 「でもね、そこじゃなくて……ノワールさん!」

 ミレニムが滑るように、ノワールの目の前に現れる。さすがのノワールも、少しだけ身体をのけ反らせる。

ミレニム

 「ここまで、念話が無差別に聞こえたってことは、王国の大半は聞いてたってことですよね!」
 「凄い恥ずかしいんですけど!……レオルが魔族ってことも、大っぴらになっちゃったし、私とか、ジュラとかエルフィが、みんなレオルのこと好きだって、みんなにバレちゃって……」  
 「明日からどんな顔して、この街を歩けばいいんですかーっ?!」

 ノワールが、ふむ、と視線を上にやる。

 晒し首だの、はずかしめだ、の物騒な単語を一通り呟いた後、ぱんと両手を打ち合わせる。

 「ああ……あれですね。公開処刑の単語が一番しっくりきます」

 ミレニムが、がくりと項垂れて、手すりに垂れ下がる。
 「もう、いっそ殺してください……いくら何でも、こんなばらし方って、ひどくありません?」

 目を細めて、呆れたようにミレニム見遣るノワール。細身の剣の手入れが終わり、澄んだ音をたてて鞘に収めていく。

ノワール

 「一応、私アサシンなので、そういう発言は控えていただければ」
 「まあ、いっそこと良かったのではないですか?」
 「バレるバレないで、ずっとびくびくするよりは、スッキリしたのですから」
 「万が一は、この国から逃げればいいだけですし、いざという時は、レオルさんの力で何とかできるでしょう」

 「レオルは、そういうこと嫌うわ」
 「貴方もそれに助けられたのだから、分かってるでしょう?」

 アサシンギルドが、組織の存続のためにノワールの首を差し出そうとした。
 それを止めたのが、レオルだ。彼は力づくて対峙しない者にまで、強引に実力行使はしない。

 「お陰でギルドに居づらくなりましたけどね」
 「命の借りは、命で返す。それが、私の流儀です……あそこへ行くのでしょう?付き合います」

 「ありがとう、ノワールさん……心強い味方を得た気分よ」

 ミレニムは術で身を浮かして、建物と建物の間を跳び渡るノワールの後を追う。


 「貴様はそうやって、口だけで相手を誑かし、運だけでここまで来た臆病者だ」
 ザインが下げていた頭部を上げ、下から龍神化したレオルと、アヴィスを睨め上げる。

 その瞳には、激しい怒りがあった。

 ザインがこれまで降した天使や人間は、数え切れない。逆らえば、同族とて滅ばしてきた。
 焼き尽くし、取り込んだ力を使い、次の敵を滅ぼす……そうしたことの繰り返しだった……
 
 世界など、所詮はエネルギーの貯蔵庫。
 大地の上に、取り込むべき魂が数え切れないほど乗っているに過ぎない。

 ギラ・ファンにおいては、全てを奪い蹂躙した。  
 全て焼き尽くし、己の力に変えてきた。

 その世界は、無慈悲なる闇の聖母、闇帝に飲み込まれ、消えてしまったが……それに対して、さしたる感傷もない。
 ただ、食い尽くされた残りカスが、宇宙の闇に変わっただけ……それだけだ。

 このエルサークとか言う世界も同じはずだった。
 ここの魔王がいなくなり、弱体化したこの魔法文明の遅れたこの世界。
 星渡りで尽きかけた力を補充するための、一時的な足掛かりに過ぎない、そのはずだった。

 それが、この世界であり得ない事が起きた。

 トイ・ブレイカーであるエレクチュアが反逆した。
 魔物を率いたルルリエが、上手く動く事が出来なかった。
 本体であるこの身体を持ち出してでさえ、仕留めきれないレオルとか言う魔族の存在。
 
 こんな人間や勇者、天使人形に助けらればかりの弱い魔族に闇帝が認められるという、あり得えぬ事態……闇帝がその力の象徴たる能力の一部を貸し与える……?

 ……ふざけるな……ふざけるな……ふざけるな……

 ……あり得ねえ……あり得ねえ……

 天使や人間を誑かしその支配下においているなら、まだ分かる……  
 そうした強大な支配力を持つ同族が存在することをザインは知っている……

 だが、コイツは違う。
 ただ、仲良しゴッコをしているだけだ……
 何も支配していない、何も闇帝に捧げていない……

 闇帝に取り入って、その能力を利用しているだけの卑怯で臆病な同族……
 ……甘い、甘すぎるだけの同族……
 
 いや、あんなモノを同族などと認められるものか……

 「これからやって来るであろう他の魔族に通じるものか!」
 「それに、守るべきものが力というのなら、これはどうする!」


 ザインが、その姿を変えてゆく……
 竜の姿が、より巨大なものへ……

 胸元に赤い光が集まってゆく。
 身体を覆う炎がより燃え盛る。

 あたりの温度が下がってゆく……炎と熱が、ザインへ集まってゆく……当たりの建物から、街から、王国の外を越えて、急速に炎の精霊力を奪い、集めてゆく……

ザイン本体(強化)

 『なるほど、そう来るか……いや、それしかあるまい』

 アヴィスが、黒き球を魔神の前に呼び出し、その身体を削り抉るが、魔神の再生力は先程とは比較にならない。
 一瞬で、再生してゆく……
 炎からエネルギーを連続供給することで、己の能力を底上げしている。
 瞬間再生のレベルまで、跳ね上がっている。

 周囲の建物の壁や窓に霜が、這いのぼる。

 「アヴソーヴの吸収力を上回る、エネルギーをあたりから奪い続けているのか」

 『アヴソーヴの弱点をつかれた……雑把にすぎるのだ、狙いが……』
 『かといって、今のお前にそこまでの正確さは求めるべくもない』

 レオルの分析に、アヴィスがそう付け加える。

 指を打ち鳴らすと、今度は炎の鎖を生み出している陣そのものに、黒い罅を奔らせ、砕ききる。

 『今の私のアヴソーヴは、まだ不完全だ。かと言って』

 「……アヴソーヴの力を上げれば、今度こそこの街に被害を出してしまう……」
 レオルが歯噛みする。

 ザインは、ギラ・ファンで闇帝の「収穫」を見ているのだ……この規模のアヴソーヴならば、対策を考えついても不思議はない。

 「それだけだと思うか……闇帝、しょせん、分体……本体に及ぶべくもない!」

 ザインが、紅い閃光を放つ。収束から、放出までの展開がおそろしく速い。

 ……こうして、やれば……っ!
 レオルが、見よう見まねでアヴソーヴを放つ。

 閃光が市街地の一部を狙うが、黒球を閃光の軌跡のわずか上に発生させて、曲げ逸らす。
 ザインの閃光の勢いが、アヴソーヴの吸収する速度を上回っている。

 紅光が、大気を灼いて空へと消えてゆく。

 吸収にこだわれば、閃光のエネルギーが処理しきれず街に被害が出ていただろう。 

 『よくぞ使いこなした……だが……』

 ……手を読まれた……何度も同じ手は通じはしまい……この者に与えられるスキルか、何かがあれば……

 アヴィスは、闇帝としては、らしからぬ思考を巡らせていることの自覚はなかった。
 ある意味、闇の聖母とはいえ、母としての一面を持つ故か……

 レオルのやり様に、配慮して何かを与える。
 ……それは、一見すれば本来の人間の親子のあり方に似ていた。
 魔族が究極の個と語った者の行動としては、明らかに矛盾が生じていた。

アヴィス(闇帝)

『お前、残存するエネルギー以外に、自分の魂を削る気はあるか?』
『ならば、手がないわけではない』
『だが、お前がそこまでやる意味はなかろう?』

 他の生命に配慮するということが、ここまで窮することになるか……
 ……この者との関係をゼロに戻すことも再考すべきか……

 「差し出せば、何とかなるのか……ならば、ためらうことはない、やってくれ」

 『魂そのものが削られれば、転生する回数が減ることは、お前は理解しているのか?』

 ……なぜ、コチラが心配するハメになる?

 「いや、初めて聞いた。だが、他に手だてがないのなら、それをやるしかないのだろう」
 「賭けるものが命か魂かは、俺はいつも選択を求められてきた……俺にとって重要なのは今を守ることだ」

 いや、違うぞ?命と魂は、天と地ほどに違うからな?
 ……こやつ、本当に理解しているのか?……まさか、考えなしの阿呆では、あるまいな……

 闇帝は、これまで存在した無限に等しい時の中で、心の中ではあるが、初めてダメ出しというものをしていた。

 

『お前……何か、即断が過ぎるのではないか?』
『自分の色々なもの、あっさり差し出しすぎではないか?』

 見ているこっちが、モヤモヤしてくるわ……こやつの仲間、よく付き合っておるな……

 

 ザインが、再び赤光を二方向に同時に放つ。

 レオルとアヴィスは、何の打ち合わせもなく黒球を先程と同じように発生させて、空へと光線を曲げる。

 『……よくわかったな』

 「そっちが、左肩に乗ってるからな……やってくれると思ったよ」
 レオルには、目の端でアヴィスが少しだけ笑ったように見えた。

 

 『お前の言うように、決断するべきだな』

 「それって、僕の魂の存在エネルギーをレオルにあげることって、できるの、闇帝さん?」

 ジュラが、龍神の肩に飛び移るや、そんなことを言ってきた。

 ルミエルがリンを背負い、ジュラを引っ張り上げながら、ここまで飛んできたらしい。おそらく重力操作ぐらいはしているだろうが……

 「さっき聞こえたですが、この国のことをレオルばかりにやらせては、ここを守る天使としてカッコつかないですよ」
 「闇帝、お前に頼むのは、正直、一生オヤツ抜きよりキツイのですが、このルミエルからもエネルギーをレオルにやってくれですよ」

 『いや、お前生体ゴーレムであろう?魂とか、ないのでは』
 『それに、取り込んでもいない魂のエネルギーを、こやつのスキルを立ち上げるのに使うのは』

 アヴィスが、ルミエルの中をざっとサーチする。

 ……いや、何か、魂っぽいものがあるな
 ……喋り方も、個性が豊かすぎる……結構適当に作られてないか、この天使人形……?

 「闇帝と聞いたから、わざわざ来たのに実は大したことないのですか?がっかりなのですよ」
 やれやれと、天使ルミエルが肩をすくめて首を振る。

 『安い挑発をしてくれる。アヴソーヴで、塵に変えてこやつの中に叩き込んでやろうか』
 アヴィスの片眉が跳ね上がる。

 「じゃあ、それをやってくれですよ」
 ルミエルが、アヴィスの深い色の瞳を捉える。

 『何をバカなことを?』

 「だから、それをやってくれと、言ったですよ」
 「だいたいレオルは、おかしいんですよ……この王国を、ここまで守る義理あるんですか?このルミエルや騎士団の仕事なんですよ、それは」
 「魂まで削るなんて恐ろしいこと、普通はやらないんですよ」

 「お前は、多分、私の知らないところで、何かを差し出しているのは、分かっているのです」
 「だけどこれ以上はやめてくれですよ」
 「ルミエルを助けてくれたヤツが、これ以上苦しむのは……見てられないんですよ」

 ルミエルの目から、何かが落ちる。

 「……お前だけ犠牲になって、ルミエルが一人楽しくオヤツ食べれると、お前はそう思ってるんですか!」
 ルミエルの叫び夜空に響く。

 「何、茶番を……!」
 ザインが、再び熱線を放とうとする。

 「お前、うるさいんですよ!」
 ザインの巨体が、地に叩きつけられる。

 ルミエルの腕と頬に、光の亀裂が奔り、光る体液が噴き出す。
 彼女の身体の限界を越えての重力の一撃だ。

 ルミエルの怒りが、弾け飛ぶ。

ルミエル

 「ルミエル……ありがとう」
 龍神となったレオルが、天使を優しく見つめる。

 「そんなの……聞きたくないのですよ……」
 ルミエルが背を向けて、翼が器用に近寄るなと主張してくる。

 「アヴソーヴ、使えるかも……」
 ミレニムが、合流する。ノワールが、その後ろに控えている。

 「闇帝さん……アヴソーヴを私達の魂から出ている存在エネルギーに狙いを定めること、できますか?」

 レオルは、一旦ザインから距離を取るように動く……作戦がまとまるまでの、一時の時間稼ぎだ。

 「やれぬことはないが……はっきり言って、全然足りんぞ?」

 『それなら、私の分も持っていってください!エルフの魂なら、他の人に負けませんから!』

 「エルフィ?」
 ミレニムが驚く。

 『む、念話の経路が開きっぱなしか』

 「そのことについては、後でお話があります……」
 ミレニムが、アヴィスの肩を掴んで静かに微笑む。闇帝が、彼女の謎の圧に怯む。

 

 『おい、こっちは王国騎士団第三中隊隊長ロイだ、事情はだいたい聞いていた、俺達からも持っていってくれ』
 『ここに家族がいるヤツらばっかりなんだ。遠慮するな!ヴァルターの親父のところも、同じだから、構わないと言っている!』


 『こちら第一大隊ククロアである』
 『こちらもやってくれて構わない、こちらはあまり役に立てていないからな、存分にやってくれ』


 『第一王女、リゼルです』
 『こちらも協力します。王城内の成人全員、提供できます。やってください』


 『冒険者ギルド、ステラです。こちらも、大丈夫です』
 『支部にいる事務員や冒険者、承諾取ってあります……死なない程度にお願いします』


 『こっちは、酒場やってるゴルドってもんだ。こっちも頼むぜ。避難してきてるやつらも、そう言ってる』
 『ここブラッドレインは、冒険者が建てた街だ、魔族に一泡吹かせてくれるなら、やってくんな!』

 『ミィナです。ミレニム、カリウス達も聞いてたから、闇帝さんに伝えて!やっちゃって、って!』

 『兄さん、俺も忘れんでください!』

 『グレイシャも、パパの力になりたい!』

 『リタだよ、アイツにかましてやって!』
 『エレの分まで!』


 ……何だ、この意識の奔流は……

 ……こやつら、自分の魂を闇帝たる私に……委ねる、と?……
 ……我が子たる魔族にすら、忌み嫌われる私を、信じる……?

 ……分かっておらぬだけだ……吾が何者であるかを……

 ……勝手に……期待しおって……
 ……責任はとらぬぞ……

 ……この、荒くも瑞々しい魂のあり様は、冒険者の街という性質故か……

 ……わからぬ……

 ……こやつらの、考えがわからぬ……

 ……いつから、自分以外の考えに関心を持たなくなっていたのか……とるに足りぬ、と断じていたのか……

 ……もう、憶えてもおらぬ……


 ……ただ、この宇宙の闇を支えるだけの存在……

 ……そのための、膨大なエネルギーを集めるだけの存在……それが、吾だ……


 ……だが、何だ……この、心地よさ、は……

 ……吾が、闇帝ゆえに、捧げられなかったもの……

 

 ……応えてやりたい、と思う……

 ……心の衝動……力になってやりたいという、何か……
 

 白皇のヤツめ、こんなものを独り占めしておったのか……
 ……やはり、あやつは許せぬな……

 アヴィスが、念話の経路を切ろうとした途端のことだった。

 ミレニムのアイデアが、呼び水になって王国中の『声』が集まってゆく……

 「闇帝さん、リンといいます。勇者スキルがあるので、接続手伝います……急ぎましょう!」

 『……ええい、分かった。やってやろうぞ』
 『レオル、グランドスキルだ。集めた力を魔族の最上位武器へ変換させる、剣か、槍、弓、どれが良いか選べ!』

アヴィス(闇帝)

 「槍で頼む……手の縮尺から考えて、一番扱い易いはずだ」

 『分かった、魔槍ブリューナクを選択……王国の全範囲を指定、その上で先程のリンクのあった者だけを選別』
 『リンとやら、回路を繋ぐぞ、構えよ』

 

 リンの肩にアヴィスが手を置く。

リン

 リンの意志が、一瞬にて光に変じる……

 闇帝は、一瞬でそれを成す……

 ミレニムやジュラさん、ルミエル……

 繋げていく……ハクロさん……リタ……名も知らぬ人へ……

 ……光が奔っていく……人の魂の光が見える……

 ……次へ……人の魂から、魂へ……道をつくる……
 ……こんなにも熱い……こんなにも暖かい……
 
 ……私が、恨んでいたこの国の中に、こんなものがあったなんて……

 ……全てを一つに……闇帝のもとへ……

 ……光の流れを、光の川を……彼女に導いていく……

 エネルギーラインが、アヴィスへと繋がる……


 『……よくぞ、一度で成し遂げた』
 『貰うぞ!お前たちの魂の光を!』

 アヴィスが、手を空へと突き出す。

 『闇たる帝が命じる!魔槍ブリューナクよ、今ひとたび、顕現せよ!』
 『続けて、変生せよ、変幻万華鏡ブリューナク!』

 龍神の手に、光の武骨な巨槍が現れる……

 だが、それは転生する……闇帝が、本来の魔槍に違う性質を上書きしていく……

 槍の刃に、円鏡がはまり込み、光を放ちながら回り出す異槍へと生まれ変わる……

ブリューナク

 「変生だと……過去の魔族の勇者の武具に、無理矢理別の機能を付けたのか!」

 ザインが唸る。

 この世の理を捻じ曲げるルザロ・ワーズの中でも、一等異質の能力。
 闇帝しか使えぬと言われる異能力。

 『無理矢理ではない』
 『自然に無理なく、元からそうあったように同化させたのだ……大サービスというヤツだ』

 アヴィスが、得意気に笑う。

 槍が使い方を教えてくれる。まだ、お前を認めぬが、使われてやる、と……

  

 巨槍の円鏡が回る……渦が回る……
 ザインの纏う炎を強制的に奪い、吸い上げていく……回転速度が上がっていく……

 ザインが閃光を、続けざまに放つ。

 槍が自ら正面を向く……閃光を先端に吸い込んでいく。
 円鏡の回転が上がり、紅い色を帯びていく……

 同時に槍の先端に紅の光が集まってゆく……


 「ルミエル、いいよ!」
 ミレニムがルミエルの腕の傷を治す。

 応急手当だ。
 ルミエルに腕だけでも動けるようにしてくれと言われ、手持ちのポーションで上等の物を惜しみなく使った。

 

 「ジュラ、頼んだですよ!」
 ルミエルの髪と瞳は、既に金色を失っている。

 力が尽きかけている……あと、一度やれるかどうか……

 「アンチ・グラヴィティ・ボール!」
 光玉がザインをの周囲を回り出す。

ルミエル

 ジュラが、龍神の肩から跳ぶ。

 「貴様らなどに……!」

 魔神の腕が振られるが、ジュラが軽く触れて滑り落ちてゆく。

 「そうさ……君は負けるよ」

 巨大な魔神の足にジュラの手がかかる。
 ジュラの身体がその一点を起点として、回転する。

 魔神の身体が、羽の如く浮き上がる。

 ルミエルの反重力の術が、強制的に魔神の重さを限りなくゼロにしている。

ジュラ

 

 「重さがなければ、君なんてこんなものさ!」
 かつて、黒騎士ヴァルハルトを宙に舞わせた技。

 それが今度は、塔程もある巨体を城外に向けて投げ飛ばす。
 「君は、レオルが生命をかけて集めたものに負けるんだ」

 

 異槍の円鏡の回転速度が最大になり、うねりを上げる……!

 ザインの閃光を蓄え、より上位の術へ、より上位のルザロの術へと昇華させた……術が放たれる!

 「赤の閃砲」

灼炎の閃砲

 熱線がザインを貫く!
 魔神の身体を城壁を飛び越えて、ブラッドレインの街の北に広がる平野に叩きつける!

 熱線の放出は止まらない。

 ザインを、大地を、焼き尽くしていく。

 「俺が、炎翼公と呼ばれた俺が焼かれるだと……」

 「……あり……えぬ……このよう、な終わり……」

 「このよう……な辺境の世界で……滅びる……」

 熱線がザインの身体を貫いた穴を広げていく。

 砕かれていく……
 「……あり、えぬ、わ……」

 黒い物質へと、塵へと還っていく…… 

 炎翼のザインの最期だった……


 拍手……

 「なんとも、心躍る展開になりましたね」

ルルリエ


 「その心で、闇帝までも取り込みますか」

 傘がクルリと回る。
 ルルリエが城壁に腰掛けて、レオル達を見遣る。

 「レオル様もですが、彼が言ったように人間にも興味が湧きました」
 「この国には、しばらく滞在させていただきましょう」

 「よろしくお願いしますよ、皆様方」 
 ルルリエが、上機嫌に城壁の向こうへ消えていった。


………………………………………………………………

【2025年創作大賞ファンタジー小説部門:冒険者】
 第7話から第18話が一つのまとまりの応募となります。


続編


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