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【第11章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025

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第11章|読まれることで、つながっていく



「ママ、これどういう意味?」

 朝食の準備をしている間に、ハルトが手紙を持ってきた。メールではなく、手紙? どうやら、外の郵便受けに入っていたらしい。

「ちょっと見せて」

 手紙を受け取り、目を通す。

『あなたの書いた「子育て奮闘記」を読みました。私も二人の子どもを育てる母親です。あなたの言葉に何度も救われました。ありがとう』

「え? なにこれ」

 混乱した。私は『子育て奮闘記』なんて書いていない。そもそも、誰かに向けて個人的な文章を公開したことはない。

 そのときは人違いかなと思って気に留めなかったが、翌日、手紙はまた届いた。

『筆導士さま。あなたの言葉で、夫婦の危機を乗り越えました。感謝しています』

 続いて、もう一通。

『異世界で頑張るあなたの姿に、私も勇気をもらいました。これからも応援しています。ハルトくん、ミオくんにもよろしく』

明らかになにかの誤解だ。急いでにレオニスに連絡する。

「なんだか変なことが起きてて。家に謎の手紙が届くんだけど、これってどういうこと?」

「あ~、それは……」

 レオニスは少し困ったような声で説明し始めた。

「筆導士ちゃんが書いてた日記みたいな文、あるっしょ」

「日記?」

 確かに、誰かに見せるでもなく、日々の記録を魔導板につけている。日記、とまでいえる代物かはわからないけれど。

「魔導板は魔法で動く特殊な品物で、書くことに特化している……って話は前したじゃん。書くときに込められた感情が強いと、時に文章が『魔導書架』に転送されちゃうんだよね〜」

「魔導書架……ってなに?」

「王国立図書館の一角にある書架。そこには魔力を持つ文章が集められて、誰でも読めるようになってんの」


「待って。そこに、私が書いた日記もどきが並んでいるってこと!?」

 信じられない。私の個人的なつぶやきが公開されていたなんて。

「筆導士ちゃんの言葉に、強い感情が込められてたんじゃね?特に『書くこと』と『母であること』の葛藤を描いた部分が、いろんな人の心にぶっ刺さってるみたいなんだよね」

 困惑と恥ずかしさで頬が熱くなる。自分の弱さや悩みをさらけ出した文章が、見知らぬ人々に読まれているなんて。

「それは、どうすれば取り下げられるの……?」

 レオニスは、少し間を置いて答えた。

「ん〜〜〜、取り下げることもできるけどさ……事実として、多くの人がキミの言葉に救われてんだよね。特に、子育てと仕事の両立に悩む女性たちに。それは忘れないでほしーな」

 そう言われると、複雑な気持ちになる。私の悩みが誰かの助けになっているのか……。

「……少し考えさせて」

ーーとはいったものの、居ても立っても居られなかった私は、その日の午後に王国立図書館を訪れた。

「魔導書架はどこですか?」

案内された先には、柔らかな光を放つ書架があった。

さまざまな本が並んでいるなかから、その人に最適な本がさしだされ、ページが自らめくれる仕組みだという(機能オフもワンタッチでできるらしい)


 私が一角に足を踏み入れると、勝手に『異世界筆導士・子育て奮闘記』と題された本が私の目の前に出てきた。すごすぎる。

「あなたが、その作品の作者さん?」

振り向くと、年配の女性司書が立っていた。

「はい、そうです……」
たぶん……とこっそり心の中でつけたす。

「あなたの『子育て奮闘記』、素晴らしいわ。多くの人が読みに来るのよ」

言われるまま案内された先に、私の文章が収められた小さな本が並んでいた。『異世界筆導士・子育て奮闘記』の残りの巻と(待って、こんなにあるのかよやめてくれぇ)、今まで私が取り組んできた記事がまとまった冊子もある。

 あらためて手に取って中身を確認すると―—確かに私が今まで魔導板に書き綴った言葉だった。仕事と育児の葛藤、異世界での不安、そしてなにより、子どもたちへの無限の愛情。すべてが赤裸々に記されていた。

「恥ずかしい……」

 やはり、取り下げてもらおう。
 本を閉じようとした時、背後から声がした。

 「あの……作者の方ですか?」

 振り向くと、小さな女の子を抱いた若い女性が立っていた。

 「はい……」

 「あ、あ、あの!私、あなたの本を読んで、勇気をもらって……。私も最近、子どもを産んだばかりで……仕事を諦めようと思っていたんです」

 彼女は涙ぐみながら続けた。

「でも……あなたの『子どもがいても、夢を諦める必要はない。時に立ち止まっても、また歩き始めればいい』という言葉に、救われて」

 思わず胸が熱くなる。確かにそんなことを書いた覚えがある。深夜、ミオが熱を出した後、疲れ切って書いた言葉だ。

「あなたのおかげで、『薬草師』として仕事を続ける決心がつきました」

 「いえ、私は……」

 言葉につまる。この女性の目には、純粋な感謝が宿っていた。
 「……ありがとうございます、お役に立てたのなら、うれしいです」


 その後も、次々と人々が声をかけてきた。

 子育てに疲れた母親。
 仕事と家庭の両立に悩む父親。
 異世界から来た人。

 みんな、私の言葉になにかを見出し、勇気をもらったという。

「あなたの『完璧でなくていい』という言葉に、どれだけ救われたか」 「子どもの前で泣いていいんだと気づいた」 「異世界で迷子になった気持ちが、初めて誰かに理解された」

 一人ひとりの言葉が、私の心に沁みていく。

 恥ずかしさは次第に薄れ、代わりに不思議な充実感が広がった。私の弱さや苦しみが、誰かの支えになっている。そのことに、言いようのない喜びを感じた。

 図書館を出る頃には、もう取り下げる気持ちはなくなっていた。

***

 子どもたちを寝かしつけた後、魔導板を手に取った。
 誰かに向けて書くつもりはなかったけれど、こうなってくるとどうしても、読者を意識してしまう……。

 いやもういっそ、今日は読む人がいる前提で書いてみようかな。すべてが「魔導書架」に送られるとも限らないし、読者の方に感想をもらって心が動いたのも事実だもんね。

『今日、私は初めて自分の言葉が誰かに届いていることを実感しました。恥ずかしさと戸惑いもありましたが、それ以上に、言葉がつなぐ絆の力を感じました。』

『私たちは皆、きっと似たような悩みを抱えているのだと思います。子育ての不安、仕事への迷い、自分自身との葛藤。』

『でも、そんな時こそ、誰かの言葉が光になる。私が前の世界で国語の先生だったときに、生徒たちに伝えていたことを、今、自分自身が体験している気持ちです。「言葉は人と人をつなぐ橋」なのだと。』

 書き終えると、文字が淡く光った。これが「魔導書架」に送られていくのだろうか。少し照れくさい気持ちになりながらも、誰かの心に届くことを願った。

 私は、今も迷いながら生きている。
 書けない日もある。怒ってしまう日もある。

 でも、そんな私の言葉が、どこかの誰かに“灯り”になっているかもしれない。それが、書く理由の一つになった。


 “読まれることで、つながっていく”

 先生のころにはなかった感覚。
 母であることで気づけた感情。
 書き手として、それを伝えることの喜び。

 この異世界で、私はようやく“書くことの意味”を自分のものにし始めた気がする。

 次に書くのは、誰に向けた言葉だろう。
 
 静かな夜の読者に、また届くように。
 私は今日も、小さな机の上で文章を刻んでいく。

続く

第11.5章|編集者の秘めた想い―—リリスの夢


お楽しみに。

召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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