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【第5章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025

▼前回のお話はこちらから


第5章|クライアントはドラゴン様

 「貴様の文章、燃やしていいか?」

 ――初対面で言われたセリフが、それだった。

 私の目の前にいるのは、長さ7メートルはあろうかという紅蓮の竜。鋭い爪に巨大な翼、眼光はぎらついたルビーのよう。じっ、とこちらを睨んでいる。

 “フレア・ドラグノス卿”。火山地帯「オルド山脈」に城を構える、ドラゴン族の王であり、莫大な財宝と影響力を持つ存在だ。今月の特別依頼は、このドラグノス卿が出したものだった。

「この“紹介文”とやら、どこがドラゴンの威厳を伝えているというのだ!」

 ぶわっと吐き出される熱気……いや、文字通り火の粉も混じってるんですが!?

「いえ、これは私が書いたものではなく、1つの例としてギルドが提出したものでして……」

「そんなもんいらん! さっさと貴様が書け。“母親の目線”とやらで、我らドラゴン族の尊厳を知らしめてみせよ!」

 かくして私は、“ドラゴン族の広報記事”という謎の仕事を任されることになった。

***

「……そもそも、誰が読むのかしら?」

 ギルドの編集担当・リリスが、頭を抱えた。

「火山近くの小国が、ドラグノス卿の支配地に観光ルートを開こうとしてるの。要するに、“ドラゴン様は怖くないよ”って記事が必要らしいんだけど……」

「あまりにも矛盾してませんこと?ドラグノス卿には"尊厳を伝えろ"と言われたのですのよね?」

「でしょ? しかもそれを、ドラグノス卿は“燃やすか認めるか”で判断するの。それって、ビジネスマナーとか、まるで通じないってことだよね」

 自分で言いながら「それはつまり――“納得させられなきゃ、消される”ってこと?」と思い至る。

 学校の先生をしていたときは「学校の先生の常識は社会の非常識」「先生はビジネススキルがない」とかってよく言われたものだった。
 だけどこっちの世界に来てみたら、「常識」なんてまるでない。「常識」も「フツー」も、所詮そのコミュニティの中でしか通用しないものなのだと思い知る。

 モンスターペアレントの次は、リアルガチモンスター対応かぁ。胃が、きゅっとなった。

 

 (じゃあ、逆に聞くけどさ……)

 頭の中を、自問自答がぐるぐるまわる。帰宅して一服する間も惜しい。さっそく手帳を開いて、思考を整理しなくては。

 ーー私はいつもこうして、文章を書き出す前に"読者の姿”を思い浮かべるところから始めることにしている。

 ドラグノス卿にとって、読者は誰?

 ドラゴンを恐れている観光客? それとも、部下たち? はたまた、他の王族たち?

 いや――もしかして、ドラグノス卿は、とにかく「誰か」に書いてほしい、のかな。尊厳を、誇りを、自分じゃうまく言葉にできなくて、悶々としている…のかも……。もしかして、「燃やすしかない」っていうのも。ちょっと不器用なだけ?

 (なるほど。じゃあ、“お母さんの文章”じゃなくて、“先生の文章”のほうがいいかもしれない)

 私はかつて、思春期真っただ中の生徒たちに、「自分の価値」を言語化する手伝いをしていた。

 照れ隠しでふざけたり、逆ギレしたり。自分を表現するのが苦手な子どもたち。だけど、書いた作文には、たしかに“その子らしさ”が詰まっていた。

 ドラグノス卿も、きっとそうだ。プライドが高すぎて、うまく自分を伝えられないだけ。

 なら、私は――

 「ドラグノス卿の“気持ち”を、カッコイイ言葉にしてみせる!」


 《その翼が空を裂くとき、大地の民はひれ伏す。

  だが、彼らは知らぬ。竜たちがどれほどの誇りと責任を背負って飛ぶかを。

  オルドの空に、今日も一柱の影が舞う。

  それは恐怖ではなく、“秩序の影”。この世を見守る者のしるし――》

 

 私が提出したのは、“神話の一節”をイメージした文章だった。

 怖がらせるのではなく、敬意を込めて。威厳を押し付けるのではなく、“静かな強さ”として描く。

 読み手は思うだろう――「ドラゴンは支配者ではなく、守護者なんだ」と。

 

***
 

 ドラグノス卿は、沈黙のまま、文を読み終えた。

 ぎらつく目が、すっと細くなる。

 そして――

「……ふむ。“燃やしたくならぬ文”だ」

 …………。
 どうやら、最大級の賛辞らしい。
 正直、冷や汗が止まらなかった。

 「“尊厳”とは何か」を押し付けず、そっと差し出すように提示する――それが、彼の心に届いたのだ。 

 「書き手よ。お前、何者だ」
 「ええと、元先生で、今は筆導士で……そして、2人の子どもの母です」

「人の子にしては、妙に肝が据わっておるな……良い。これより“公式記録作家”として、我らが歴史を任せる。お前には“言葉の炎”がある」

 気がつけば、私はドラグノス卿の“専属ライター”になっていた。

続く

次回:第6章|語彙力こそ異世界最強説


お楽しみに。

召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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