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【第4.5章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025

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第4.5章|迷子の地図


「どこいったんだろ……」

 私は書斎の引き出しを必死で探していた。

 ーー元の世界から持ってきた、家族アルバムがない。レオニスに頼み込んで、彼の「なけなしの魔力」で唯一運ぶことができた思い出の品だったのに。

「ママ、なに探してるの?」
 ハルトが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「ねえハルト、アルバム見なかった?」
「アルバム? ……ああ、あの写真がいっぱい入ってる本ね」

 ハルトの表情が微妙に変わった。なにか知っているようだ。

「見た?」
「いや……」

 くちごもるハルトの視線が、無意識に庭先を向いた。

 目線の先を追うと……さっきまで庭で遊んでいたミオの姿がない。
「……ミオは?」

「……言えない……」

珍しく頑固な様子のハルト。
なにか事情がありそうな気配を感じつつも、
「ミオになにかあったら大変でしょう」
と、なんとか説得する。

「……ミオが持ってった」
「なにを」
「前住んでた世界の写真の、その……アルバム?」
「なんで。どこに」

 訳がわからなくて、つい問い詰めるように質問を投げかけてしまう。

「ミオは悪くない!」

 ハルトはむきになって答えた。

「ミオが、友達に『ミオにはパパがいない』って言われたって言うから……。いくら説明しても誰も信じてくれないから、それで、ぼく、ミオに写真のこと教えた」 

「えっ」
 頭が真っ白になる。
「そんなこと、ミオもハルトも、一言も」

「……ママ、さみしい気持ちになるかなって、思って。夜、1人で写真見てることあるでしょ……。だから、こっそり持ってった」

 なんてことだ。確かに子どもたちの寝かしつけがすんだあと、こっそり1人でアルバムを眺めていた。それをまさかハルトたちが知っていたなんて、思いもよらなかった。

 こんな小さな子どもたちに、気を遣わせていたなんて……。

 いや、その前にとにかくミオの身の安全が最優先だ。ミオはまだまだ小さい。1人で出かけるなんて危険すぎる。

 でも……どこへ向かったのか全く見当がつかない。
 ハルトもその「友達」の名前までは知らないというし……。

 と、そこへ。
 興奮気味にやってきたのはレオニスだった。

「ちょりりーす!みんなげんき~?レオニスにーちゃんだよ!
ねぇねぇちょっち聞いて!街の北で『記憶の場』が現れたんだって!これっていわゆる【SSR】ってやつじゃね???どうする?見に行く?」

「ちょっと今それどころじゃ……」

「なにその反応!あ、ごめん!『記憶の場』のこと知らねーか! 『記憶の場』ってーのは、強い感情・思い出をまとってる品物から、ごくまれに生まれる空間のこと!持ち主の記憶世界に迷い込んで出られなくなるから、『記憶の迷路』って呼ぶ人もいるな! ど!?ふしぎじゃね!?」

 強い感情や思い出をまとった品物?

 背筋が凍った。こんな都合のいい話があるか?とも思うが、今のところこの話以外の当てもない。それに、もしアルバムがそこにあるなら、誰かが私の過去の記憶世界に迷い込む可能性がある。

「……場所を教えて……」

***

 『記憶の場』は、町外れにあった。普段は何もない広場だったはずが、こちらの世界にはない樹木が生い茂り、霧がかかっている。

「これは……日本の公園?」



 かつて住んでいた家の近くの公園そっくりの風景だった。記憶が実体化したのだろう。中にミオがいるの?覗き込もうとした瞬間ーー

「ちょっと!入っちゃダメ~!」
 後ろからレオニスが駆けつけてきた。

「『記憶の場』は、強い想いを持つ人ほど危険なんだってば!」
「でも、ミオが入ってしまってたら……」

 その時、ミオの友だち——リナちゃんのママが慌てた様子で駆け寄ってきた。

「ミオくんのママ! 今呼びに行こうと思っていたの。今、ミオくんとリナがこの中に……」

 心臓が止まりそうになった。

「ーー私が行きます!」

 レオニスが止めるのも聞かず、私は森に駆け込んだ。




 中に入ると、景色が一変した。そこは紛れもなく、日本の我が家だった。玄関、リビング、キッチン……全てが記憶通りに再現されている。

「ミオ! リナちゃん!」

 声を張り上げながら探すと、2階の子ども部屋からかすかな声が聞こえる。駆け上がると、そこにはミオとリナちゃんが、半透明の「夫」の幻影と向き合っていた。

「マ、ママ……ごめんなさい……でも、リナちゃんに、ミオにもパパいるよって教えたくて……」

 ミオの小さな手には、アルバム。

 胸が痛んだ。私が元の世界の話題を避けていたせいで、余計に子どもたちを不安にさせていたんだ。

「ミオ、アルバムを貸してくれる?」

 アルバムを手に取ると、中の写真が輝き始めた。夫、両親、友人たち、教え子たち…懐かしい顔々。

「みんな、ごめんなさい。私、ずっと目を背けていました」

 心の中で、封印していた思いが溢れ出す。

「こっちの世界に来て、みんな優しくて、だんだん環境にも慣れてきた……でも、それを認めると、みんなを裏切ったような気がして……もう帰れなくなるんじゃないかって、怖くて……」

 すると不思議なことに、夫の幻影が笑顔になった。

「……ママ、パパ笑ってるね」
ミオの一言が、心の氷を溶かした。
「……そうだね」

 きっとみんなを不安にさせてるよね。心配させてるよね。ごめんなさい。帰れるのか、ずっとこのままなのか、私にもわからないけれど。今私たちはこうして、元気にやってるよ……。

 アルバムを閉じると、周囲の景色が霞み始めた。急いでミオとリナの手を取り、出口へと走った。

 森を出ると、心配顔のレオニスとハルトが待っていた。

「ママ!ミオ!」
「3人とも大丈夫!?」
「うん、なんとか」

「ママ〜!!!」
 リナちゃんも、ママにワッと抱きついた。
 無事に再会できて、本当に良かった。

「リナちゃんママ、このたびはミオが本当にすみませんでした」
「ちがうの、リナがミオくんにひどいこと言ったから……パパがいるなんてウソだって……ミオくんごめんね」
「………大丈夫だよ! ミオも、ちょっとだけど、パパに会えて、うれしかったし……」

 ハルトが、不安な表情でこちらを見る。
「ミオ、いいな……ぼくもパパに会いたかったな……。……ママ、ぼくたち、いつかまたパパに会えるよね?」

 夫に会えるのか。元の世界に戻れるのか。正直わからない。わからないけれど。

「みんなにもう一度会える方法を、一緒に探そう。それに……」

 私は答えながら、アルバムの表紙をゆっくりと撫でる。

「……これからは、もう隠さない」

 その夜、家族で写真アルバムを見た。私は一枚一枚の思い出を、子どもたちに語った。楽しかったこと、辛かったこと、大切な人たちのこと。

 それからは、アルバムはリビングの棚に置いている。

 過去を閉じ込めるのではなく、今に生かす。
 そうして、私たち家族は、新しく歩み始めた。

続く

次回:第5章|クライアントはドラゴン様


お楽しみに。

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