【第4章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025
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第4章|魔導メールは納期厳守で

異世界にも、納期はある。
「三の月五日、日没まで。よろしく頼むよ、筆導士さん」
そう言って、依頼人の魔導商人は、魔導板を通して詳細を送ってきた。どうやら新商品の広告文らしい。
内容は、「火を使わずに調理できる“温魔鍋”の紹介記事」だ。
(電子調理なべみたいなやつかな? 私も向こうの世界にいるときはよくお世話になったっけ)
手軽に美味しいものが食べたいっていう気持ちは、どの世界でも変わらないんだな、と思わず笑みがこぼれる。さあ、どれどれ、どんなふうにお役に立てるかな?と内容確認。
この世界には「魔導ネットワーク」が存在する。文字を刻めば空間を通じてデータが送られる、“魔導メール”。とはいえ、機械的なものではない。
書き手の“熱量”や“感情”が乗るため、送り主の感情までビリビリ伝わってくるという、面倒にも便利にもなり得る仕様だ。
そして恐ろしいのは―—メールを介して依頼を受領した時点で、納期カウントが始まること。「三の月五日、日没」は、文字通り厳守である。
私はさっそく、メモを書きながらつぶやく。
「火を使わないため、育児中の家庭にも安全。調理中に手が空くぶん、自分の時間を作れる……」
「ママ、なにつくってるの?」
とそこへ、ミオが横からひょこっと顔を出した。
「ママね、お仕事中なの。今は“魔法の鍋”の文章書いているんだ」
「へー。ぼく、火こわいから、そのなべいいなぁ!」
おっ。リアルな声。これはそのまま使えそう。
確かにミオは料理が好きで、日頃からよくお手伝いをしてくれる。でも、親としても、本人も、まだ火を使うには不安があった。
「じゃあ、ミオが“体験談”のモデルさんになってくれる?」
「なにそれ!」
「ミオでも使える魔法の鍋! ――って感じで、読者に伝えるの」
「やるやる! モデルさん!」
小さな“共演者”を得て、私は再び魔導板に向かう。
言葉を紡ぐたび、心が整っていく。これは、先生だった頃の“授業準備”に近い感覚かもしれない。
***
ただ問題は、集中できる時間が限られているということだ。とくに育児中は、作業時間もこまぎれになりがちで、隙間時間をどう使えるかが大事になってくる。
魔導板には“集中ゲージ”のようなものが可視化されている。良くも悪くも、作業できる「残りHP」がはっきりわかってしまう。
深夜1時。
ようやく原稿の9割を書き終えた頃、ハルトが寝室から泣き声を上げた。
「ママぁぁ……怖い夢見た……!」
子どもにとっては、こちらの仕事も、納期も関係ない。「今この瞬間の不安を抱きしめてくれる存在」が必要なのだ。原稿の一時保存は忘れずにしつつ、慌ててハルトに駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫。ママがいるよ」
「ほんと?」
「夢の中でもママ、ハルトのことちゃんと守るからね」
うん……と小さく返事をすると、ハルトはそっとまぶたを閉じた。
すーっ、すーっと、ハルトの寝息が整ってきたのを見計らい、こっそり部屋を出る。もう一度魔導板に向かい、最後の仕上げだ。
―—が、しかし。
魔導板の“集中ゲージ”は赤を示している。子どもの対応も間に挟まって、もう深夜2時過ぎ。そりゃそうか。いま無理に書いても、クオリティが下がったり、ミスが起きたりする可能性もある。
「おとなしく、寝るかぁ」
明日の私よ。よろしく頼む。
2人のかわいい子どもたちのあいだに挟まって、おやすみなさい。
***

ーー三の月五日。
「ぬああああああ! なにが明日の私によろしくだあああ」
昨日の私を恨むことしかできない、今日の私の様子をご覧ください。
昨夜の悪夢は体調不良の前触れだったのか、ハルトは熱を出し、嘔吐。なんだかミオも熱っぽいような……。
吐いたものを片付け、医者を呼び、水分をこまめに摂らせ、試行錯誤で薬を飲ませ、食べては吐くハルトはどんなものなら食べられるか手あたり次第試し、ミオは隔離しつつ適度に相手をし―—ていたら、あっという間に時間が溶けた。
ようやく2人とも昼寝したタイミングで、一気に原稿に向かう。
大急ぎで手を動かしながらも、同時にいろいろな想いが錯綜する。
こんなことなら徹夜してでも仕上げたらよかった。いやいや、問題ない。前倒しで進めていたおかげで今日仕上がる。大丈夫。見直しもした。推敲もした。出せる。
なんとか原稿を完成させ―—魔導メール送信!
いっけぇぇぇ!
その瞬間、魔導板が緑色に光る。納期厳守の証だ。
一息つき、冷めきったコーヒーをすする。
やった、間に合った……。
すると、先方からさっそく返信が届いた。
《読んだ瞬間、涙が出たよ。うちの鍋が、こんなふうに“家族の時間”を支えていくんだって、目に浮かぶようだ。これは、広報以上の意味を持つ文章だよ。ありがとう》
――ああ、やっぱり、書いてよかった。
育児と仕事の両立はしんどい。でも、文章が誰かの“支え”になるのなら、私はその役目を果たしたい。
魔法も、モンスターも、派手な戦闘もない。けれど、“言葉”を武器にするこの仕事は、私にとってきっと“冒険”だ。
子どもたちは1日休んで、すっかり快方に向かっていた。
寝かしつけを終え、静まり返る夜。私はそっと魔導板に指を置いた。
《明日もまた、誰かのために書こう》
続く
次回:第4.5章|迷子の地図
お楽しみに。
召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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