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【第3章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025

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第3章|言葉の呪いと、ペンとスライム


「ちょっと! ハルト、そっちはダメ、納品原稿があるんだってば!」

 事件は、我が家のリビングで起きた。いつものようにダイニングで原稿を書きつつ、子どもたちが遊んでいるのを見守っていたときのことだ。

 ミオとハルトの悪ふざけが、だんだんとヒートアップしていることには気づいていた。「あと少し、ここまで書いてしまいたい!」という自分の欲求を優先していたのが、よくなかった。

 大盛り上がりしたハルトが、スライムのおもちゃを投げ始めたのだ。「投げてはいけない」と止めに入っても、もう遅い。スライムを投げたら楽しいぞ!モードに突入した2人は、思い思いの場所にスライムを投げ始めた。

「いっくぞー!!!! くらえ、ママ!」

 ハルトが振りかぶったその先には、私……というよりは、私の魔導板。

 公園でキャッチボール中であれば、「おっ!ナイスボール!将来が楽しみだな!」とでも言いたいところだが、投げたものはスライム。そしてその軌道は的確に、魔導板へと向かっていく。いつもはノーコンなのに、なぜこういうときだけ、やたらまっすぐ投げるのだろう。

 私はとっさにあいだに入り、納品原稿を死守しながら叫ぶ。

「もうすぐ納期なの! やめてー!!」

 べちゃっ

 スライムは私の頭に当たり、見事、べっとりと髪の毛にからまった。

「…………」
「ママ、ごめんね」
「……落ちるかなこれ」

 転生しても、“母業”はあまりにも過酷だ……。

***

 それでも、ライティングの依頼は着々と増えていった。どうやら「読者の心を動かす文が書ける異邦の書き手」は評判になっているらしい。

 クライアントからの感想も届く。

 《読んでいて、涙が出ました。父の死を受け入れる勇気が湧きました》
 《おかげで、うちの宿の売り上げが3割増えました》
 《正直、文章ひとつでここまでとは思いませんでした。次もお願いします》

 “言葉”が、人の生活を変える。
 “書くこと”が、人を救う。

 国語の先生をしていた頃は文章の読み解き方を教えていた私が、今は異世界で言葉をつむぐ側として、生きている。

 なんかそれって、運命みたいじゃない!?
 気持ちは小学五年生、女児だったころの私。
 ふわふわ、夢見心地になっていた。

 ***

 だが、ある晩、事件は起きた。 
 ハルトの咳が止まらなくなったのだ。

 異世界の病気や医術は、現代日本のものとは大きく異なる。

 この症状は「言霊感染」ではないかと医師は言った。「言霊感染」とは、周囲の生き物が身近にある言葉の影響を受けて発現する病のことらしい。かつては「言葉の呪い」とも呼ばれていたそうだ。

「母君、お心当たりは?」

「……あるかも。昨晩、原稿で“命を削ってでも伝えたい”って書いたの。ハルトの横で」

 医師はうなずいた。

「筆導士の子どもは、もともと言葉から影響を受けやすいのです。くわえて、あなたの“書く意志”も強かったのでしょう」

「そんな……私のせいで……」

「言霊札を授けたから、もう大丈夫。安静にしていればすぐによくなりますよ。母君もお疲れでしょう。今日はもう休んで」

 “言葉は、誰かを傷つけてしまうこともある”。

 それは、先生時代から知っていたはずだった。
 だけど、こんなふうに、実際に人に影響を与えるなんて……。

 いや、違う。きっと今までだって言葉でたくさんの人を傷つけ、苦しめてきたのだろう。元の世界では、単にそれが目に見えにくかっただけだ。

 抱きしめた息子の背中が、小さく震えている。私は、自分の心の底に巣くう罪悪感を、ひたひたと感じた。

***

 数日後。私はギルドに一通の“謝罪文”を出した。
 今後は育児を優先し、筆導士の仕事はセーブすると。

 私にとっては、子どもたちが一番の宝物。書くことは好きだけれど、それによって子どもたちに危険があるなら、話は違ってくる。

 しかし、それに対して返ってきた返答は――

 《あなたの言葉は、救いです。》

 「救い」。そんなたいそうな……。だいいち、我が子ひとり守れないのに、他の誰かを救おうなんておこがましい。

 そう思う一方で、ふと思い出したのは、かつて教え子が卒業式にくれた手紙だった。

 《先生の書く文章が、私の支えでした。どんなに苦しくても、“言葉は私を裏切らない”って思えました。》

 ――たしかにあのとき、私は誰かを救っていた。そして同時に、私も救われていたのだ。

 言葉は、刃にもなる。だけど、灯にもなる。

 軽く目を閉じ、軽く息を吸って吐く。
 「よし」と小さくつぶやくと、私はまた、魔導板を開いた。

 ***
 

 「ママ。今、なに書いてるの?」 
 ハルトがのぞきこんできた。

「うん。“ママで、先生で、書く人”の話」

「ぼくも、ママみたいに“かくひと”になれる?」

「……うん、なれるよ」

 そのとき、ふっと、魔導板が淡く光った。

 子どもたちと共に生きながら、“書く”ことを選ぶ。
 それが、この異世界での、私の生き方。

 育児と、文章と、召喚された運命と。
 その全部を、私は引き受けて、書いていく。

続く

次回:第4章|魔導メールは納期厳守で


お楽しみに。

召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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#創作大賞2025
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