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【第8章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025

▼前回のお話はこちらから


第8章|寝て、治して、また書くために

――ああ、これはまずい。

 原稿は、無事に納期に間に合った。
 けれど、やってしまった。

「魔熱が移った……」

 まず発熱したのは、ハルトだった。
「ママ……」
 毛布に包まれながら、潤んだ瞳でこちらを見るハルト。なにか欲しいものでもあるのかと思いきや、違った。

「ママ、昨日はごめんね……」

 具合が悪いというのに、ごめんねだなんて。悪かったのは私のほうなのに。心がぎゅっと、苦しくなる。

「ハルト、本当にごめんなさい。ママ、全然周りのこと見えてなかった……。来年はかならず、お花見に行こうね」
「……! うん」
「早く治して、たくさん遊ぼう!」

 ……そこから「なんか喉が痛いな」と思ったときには、時すでに遅し、だった。私の熱は一気に上がり、ベッドに倒れ込んだ。

 思い当たる節は、あの夜にぐいっと飲んだ水。あれ、ミオの飲み残しだ。

やや体調が戻ってきて元気に遊ぶミオ
熱があるはずなのにフラフラと遊び回るハルト
そして体中が痛くて熱もなかなか下がらず、でも家事と育児はしないといけない私

 どういう地獄?

 これは、無理だ。ドラグノス卿の修正原稿、間に合わない。できない。

 ベッドで横たわりつつなんとか魔導ネックレスを起動し、恐る恐るメールを書き始めた。

件名:納期のご相談(大変申し訳ありません)

お世話になっております。

現在、家族全員が“魔熱”に罹患してしまい、私自身も執筆に集中できる状態ではなく……誠に恐縮ながら、原稿の納期を一両日、延ばしていただくことは可能でしょうか。

体調が戻り次第、速やかに修正原稿をお送りします。ご迷惑をおかけし、心よりお詫び申し上げます。


 なんたって相手は、ドラグノス卿だ。家ごと燃やされても、文句は言えない。いや、燃やされたら困る、困るけども。
 でも、あのドラグノス卿がわざわざこんな街のハズレまで来るわけないもんね。燃やすなら私1人にしてほしいしね。

 けれど、リアクションは返事が来るよりも早かった。

「……え?」

 家の前に、巨大な影が降り立った。窓の外に見えたのは、大きな翼を広げ、赤い瞳をぎらつかせるドラゴンの姿。ドラグノス卿、まさかの直来訪。


 ま、まさか本当に家を燃やしにくるなんて……神様、冗談!冗談ですってばぁ!

 私はふらつきながらも、あわてて玄関を開けた。

「お、お忙しいところ、すみません……!」

「ふん。人の子ごときが案ずるな。メールで返事をしてもよかったのだが、どうにも“お前の反応が目に浮かんだ”のでな」

 どういうこと?

「納期は気にするな」

「え、でも」

「……顔が真っ青だぞ。そんな状態で書いてもらっても困る」

 「そ、そうですよね。すみません。体調管理も仕事のうちだというのに……。修正もあんなにたくさんあった上に、熱を出して納期を延ばしてもらうなんて最低です……。本当にすみませんでした」

「修正は、その……悪い意味ではない。私はただ――お前がもっと書けると、信じているだけだ」

私がぽかんとしていると、ドラグノス卿は軽く鼻を鳴らしてから、顔を背けた。

「第一、あの原稿は急ぎではない。たとえ一年かかっても構わん。“本当にいいもの”を、共に作りたい。そう思ったから、原稿を戻したのだ! ……なぜ私がここまで言わねばならんのだ!」

 語尾をゴニョゴニョさせながら、卿はさらに続ける。なんだか今日はよく喋るなぁ、とぼんやりした頭で考える私。

「……子どもたちは城で預かっておく。ビョージホイク?とかいうやつだ。お前は、まずは寝ろ。治せ」

「え? え?」

「安心しろ。専門医もいる。お前、治ったら連絡しろ」

 子どもたちと、子どもたちのお世話セットをカゴに乗せ、ドラグノス卿は去って行った。

 怖がるかと思ったのに、子どもたちときたら「わぁ!ドラゴンだ!」「かっけー!」「最強?!」と大騒ぎ。ノリノリで乗り込んでいったので、なんかもういろいろと拍子抜けだ。

 昨夜あんなに思い詰めていたのは、なんだったのだろうか。

ーーと、そこへ。

「も~~!!!!なにやってんの~~!!!!!」

 庭の奥から、もう一人の来客ーーレオニスが、相変わらずのキラッキラの金髪×フードスタイルで登場した。なんだか久々に会ったな。

「え?なんでこんなとこでフラフラしてんの???寝てないとダメっしょ???みんな魔熱にかかってたんなら一言相談くらいしてよ水臭い!!!俺っちとみんなたちの仲じゃん???勝手のわからないこともあったでしょ。
 あれ?子どもたちは?え?ドラグノス卿のところに?え、ゲキアツ~!!!フレンドじゃんもはや、すげー!今度俺っちにも紹介して!」

 袋いっぱいの「お見舞いセット」をダイニングに展開しながら、高速で捲し立てるレオニス。

「魔熱のときは、まず水分。こっちはよく効く薬。ちょー苦いけどちょー効くから!!!くさいけど絶対飲んでね!!!で、半分がやさしさでできてる胃にやさしい草粥と栄養ドリンク、あと……」

「ちょ、ちょっとレオニス、そんなに……!」

「いいから!てか、まえから思ってたけど、なんでなんでも1人でなんとか
しようとすんの???」

「え……それは……」
ドキッとした。1人でなんとかしないと、とはなから思ってしまっていて、誰かに頼るだなんて発想がそもそもスポンと抜けていた。

「魔熱は重症化すると死ぬ病気だよ。無理してこじらせて死んだらどーすんの。仕事だって……別に休んだっていいのに……俺たち、そんなに頼りない?」

彼の声はどこか泣きそうで、でも強くて。
照れ隠しなのか、ひときわでかいグラスに入った水をぐいっとこちらによこす。

「はい!お水!!!」

――ああ、そうか。私は、ひとりじゃないんだ。

「ありがとう……」

ベッドで1人で寝るのなんて、いつぶりだろう。ハルトとミオに挟まれていないマットレスは、ひんやりと私を包んだ。

「もっと、まわりに甘えてもいいのかもしれないな――」

泣いてもいい。
休んでもいい。

そうしてまた元気になったら
きっと私はまた、書くのだろう。

魔導板の電源を落とし、魔導ネックレスもはずし、ゆっくりと私は眠りに落ちていった。

続く

次回:第9章|言葉にできない夜もある


お楽しみに。

召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜

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