【第11.5章】召喚された異世界でライターになりました!~学校の先生、今は育児と原稿に追われています。〜 #創作大賞2025
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第11.5章|編集者の秘めた想い―—リリスの夢

「あの……実は相談があって……」
王立図書館での一件から数日後、リリスが神妙な顔で訪ねてきた。
「わたくし、筆導士のお仕事をしてみたいと思っておりますの」
思いがけない告白だった。彼女はギルドきっての編集者。そんなリリスからこんな相談をもらうとは、なんだか意外だったのだ。
「えっ、そうだったんだ?」
「もちろん編集も好きですわ。編集という仕事があってこそ、多くの素晴らしい言葉が世に出ていくと心から信じております。今回は、だからこそ……の相談なのです」
リリスはずずいっと私の方に迫ってくる。いつにも増して、気迫がすごい。
「実は、わたくし――とある名家の出身でして。いわゆる『箱入り』で育ちましたの。学校を出たらすぐに結婚するようにとも言われていたのです」
家柄や性別に関係なく生き方を選べる。そんな雰囲気が出てきたのはごく最近だという。歴史ある名家になればなるほど、「しきたり」「伝統」による縛りは強いのだとか。
「わたくしも『そういうものなのだ』と思って生きていました。ーーですが、小さな頃から本が好きだったこともあり、学生時代よく図書館に通っておりまして。そこで知ったんです。書き手だけでなく、その言葉を磨き上げ、最高の形で届ける『編集』という素晴らしい仕事を」
彼女の声には誇りが感じられた。
「そうして、なんとか父を説得し、働く了承を得たのですわ。保守的な父を納得させるのは大変でしたけれど。今では、編集の道を進むわたくしのこと、家族も応援してくれています。
言葉の世界を支える——それがわたくしの天職だと信じているのです」
「素晴らしい仕事だよね」
私も心から同意した。
「ええ!ですが、最近思うのです。より良い編集者になるためには、書き手の気持ちも知るべきではないかと。文章がどのように読者の心に届くのか、その過程を理解したいのです!」
なんて熱意に溢れた言葉。瞳には、確かな決意が宿っていた。
「だからわたくしも……筆を執ってみたいのです。両方の視点を持つことで、より深く言葉と向き合いたい」
ーーと、急にリリスは語りをやめ、視線を床に落とした。声が震えている。
「実はずっと執筆に興味はあったのですが、わたくしにその資格があるのか、わからなくて……。恐ろしくて、ずっと言い出せませんでした」
言葉の重みを知っているリリスだからこその……繊細で、真摯な想いだった。
筆導士は今でこそ「斜陽産業」だが、かつてはこの世界の花形だった。各地を駆け回り、言葉の魔力で世界を動かす。
一方で「失敗」したときの風当たりも強いのが、この仕事の難しいところでもあった。リリスは編集者として、さまざまな場面を見てきたのだろう。
「……『子育て奮闘記』を読んで、勇気が湧きましたの。わたくし自身の言葉で誰かを支えることができるのか、わたくしも……挑戦したみたいと」
私は、彼女の手を取った。
「互いの立場を理解することで、より良い仕事ができるよね。一緒に書いてみる? 私も編集の視点を学びたいな」

その日から、リリスは編集業のかたわら、自分の文章を書き始めた。テーマは「言葉を知らなかった少女が、言葉で生きていく物語」。
数週間後、彼女の処女作が魔導書架に並んだ。
が、しかし。
「……思ったほど、反響がございませんわ」
「そりゃ、最初はそんなもんだよ」
思わず笑ってしまった私に、リリスはむくれ顔になる。
「で、でも……!そんなにつまらなくはないと思うのですけれど!」
「書いたものがいきなりヒットしたら、今ごろみんな筆導士になってるよ。私の仕事、なくなっちゃうよ」
「……わかっておりますわ。でも……毎日一生懸命書いておりますのに……!」
――でも、私は知っていた。そんなふうに言っていられるのも、今のうちだと。
多くの文章を読み、磨いてきたリリスの筆は、柔らかく、けれど芯があり、心にすっと染みわたる。いったん誰かの目に留まれば、きっと広がっていくに違いない。
「さぁ、私もがんばらなくっちゃ!」
続く
次回:第12章|わたしは、母で、先生で、書き手だ
お楽しみに。
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