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草むらのにおい

 スーパーから家へ戻る近道に、手入れのされていない空き地がある。雨上がりに通りかかると、湿った土と草のにおいが立ちのぼってきた。

 足をとめた。理由はない。ただ、においに引き寄せられた。

 わずかに伸びた草むらに、つぶれたペットボトルと、誰かが落としていったらしい手袋が見える。かがんで覗きこむと、ちいさな虫が、タンポポの葉から葉へ移っていった。名前は知らない。

 幼いころ住んでいた社宅の近くにも似た空き地があった。探検と称して入りこんでは叱られたものだ。「蛇が出るから」と大人たちは言ったが、本当は蛇など見たことがなかったのかもしれない。

 草の濃さと、土のにおいと、わずかに混じるけもののような気配。危険は、いつも名前のつかないかたちで潜んでいた。

 においだけは、あのころと変わらない。変わったのは、こちらの背丈と、叱ってくれる人がいないことだけ。

 しばらく立っていた。そぼ降る雨の名残りが、葉の先から一粒、また一粒と落ちていく。

 歩きだす。においは、数歩のうちに遠ざかった。

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