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朝起きたら女将だった〜従業員一名で営業しております〜

土曜の朝。

起きてすぐ違和感があった。


下の子の顔が、やたら整っている。

猪突猛進のあいつ顔が、なんだかシュッとしている。

そして、くっきり二重。

今日、ビジュいいじゃん。


……あ。

これ絶対熱あるやつだ。


ピピピ。

37.9℃。

うっわ。

やっぱり。


その瞬間だった。

資格試験直前の夫、自室へ移動。

学校行事を控えた上の子、子ども部屋へダッシュ。

ものの30秒で隔離体制が整った。


早い。

判断が早い。

こういう時だけ。


出たよ。

いつものパターン。


家族の誰かが熱を出す。

みんな散る。

そして私だけ残る。


なぜか私はうつらない。

夫がインフルになろうが。

子どもが胃腸炎になろうが。

家族全滅しようが。

私だけ生き残る。


私は最強なのである。


朝食を作る。

発熱中の下の子にはおかゆ。

「ほら、食べな」

問題はここからだ。


トントントン。

夫の部屋をノックする。

「失礼いたします。朝食をお持ちしました。」

パソコンから目も離さず、

「あーありがとー。そこ置いといてー」

けっ!人を何だと思ってやがる。


続いて上の子の部屋。

トントントン。

「失礼いたします。朝食をお持ちしました。」

すると、

マンガ片手に寝転がっていたはずの上の子が、なぜか飛び起きた。


「あ!ありがとうございます!」


え。

なに、すごい喜んでくれてるんだけど!


「本日のお食事は卵焼き、ウインナー、味噌汁でございます」

「ありがとうございます!うわー!うごく美味しそうです!」

「何か足りないものがございましたら、LINEにてご連絡くださいませ。」

「はい!わかりました!」


なんだこれ。

めちゃくちゃ面白い。


よし。

やってやろうじゃないか。


私は覚醒した。


朝食の皿を下げる。

洗濯を回す。

掃除をする。

学校の持ち物確認。

犬の世話をする。

下の子の熱を測る。

名もなき家事を片付ける。


気づいたら昼だった。


料理長として冷蔵庫と打ち合わせを行う。

「本日の在庫状況はいかがでしょうか」

冷蔵庫は無言だった。

しかし中を見れば分かる。


瀕死。


おう。

仕入れだな。


残り物で昼食を作る。

運ぶ。

下げる。

洗う。

しまう。


下の子は熱があるくせに元気である。

動画見て笑ってる。

その元気さ、なんなん。

病人らしくしてくれ。

いや、元気なのはありがたいんだけど。


皿を洗っていた時だった。

ふと思う。


待てよ。


これ、家事じゃない。


旅館だ。


小規模旅館だ。


改めて宿泊客を確認する。


発熱中のお客様 一名

感染対策のため別室隔離中のお客様 一名

資格試験前で部屋にこもる長期滞在客 一名

従業員 一名


私である。


いや待て。

女将。

料理長。

仲居。

清掃員。

看護師。

購買担当。


何人雇ってるんだと思ったら、

全員私だった。


夕方。

料理長は仕入れに向かう。

スーパーを歩きながら思う。

経営状態が厳しい。

従業員を増やしたい。


ダメだ。採用担当も私だった。


夕飯を作る。

運ぶ。

下げる。

洗う。


ようやく終わった頃。

満足そうな上の子を見ていたら、新しい役職が発生した。


番頭である。


温泉、沸かすか。


風呂を洗う。

ちょっといい入浴剤を入れる。

そして客室へ向かう。


トントントン。


「お客様。温泉のご準備が整いました」


「あ!ありがとうございます!」


深々と頭を下げる上の子。

ふふふ。満足そうに去る私。


気づけば私は母親ではなく、

小規模旅館の経営者になっていた。


発熱中のお客様。

隔離中のお客様。

長期滞在客。


全員のお世話を終えた頃には、

女将はビールを飲みたくなっていた。


なお、もう一度言うが、

従業員は私一名である。

よくやった、ビールくらいいいだろう。


明日の朝も、

当館はお部屋食でのご案内となります。 


脳内議会はちょっと休憩中🍺

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