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虹をつかもう ――罠――

虹をつかもう

「ロックスターになりてえなぁ」プロジェクト

【登場人物】
■ 雨男(あまお):
 お笑い芸人にあこがれる普通の高校生
■ 七瀬隆史(なな):
 雨男のクラスメイト、人が放つ気の色が見える
■ 木原愛(あい):
 雨男のクラスメイト、武術気功の使い手
■ セイウチ・ウォルラス(じじい):
 謎のお笑い芸人
▢ 鉄男(光田光男):
 鋼の肉体を持つ学校のボス、凶暴
▢ ねずみ:
 鉄男にすり寄りナンバー2に上り詰める、狡猾

◀◀前話

44

星のない闇の下を、ぼくはふたたび走る。上空には、夕刻見たあの重たい雲が、まだ敷き詰まっているのだろうか。

今は下り坂だ。ペースがいい。並走する彼らに、状況をなるべく正確に説明する。本当の勝負は、最後の10分だろう。ぼくも戦う。

セイさんの自転車のブレーキが、キーキーとやかましかったが、伝えられることは伝えたと思う。特に、ネズミが身につけた硬気功、鉄男の状態と、彼の台詞のニュアンス。

それを受けて七瀬さんはこう言った。ネズミの気が常人の域を超えて大きくなっていた。我流でも、硬気功への応用は可能ではないか、と。

鉄男とネズミ。おそらく彼ら二人とも、セイさんの言うところの、生まれつき元の気が大きくて、意識せず能力を強化してしまう特異タイプ。

そのバロメーターともいえる爆弾の威力が示すように、急激に力を増大させている。

セイさんはそういう人間の多くは不幸だとも言った。彼らはどうなのだろうか――。

実際のところはわからないが、七瀬さん、木原とは間違いなく対極の位置にいる。力に溺れ、自分の快楽ために利用し、他人を巻き込んでいいはずがない。

ネズミは、鉄男との出会いを、縁だと言った。
ならば、ぼくの縁は――この仲間たちだ。
ちょっと誇らしい。ぼくはいるべくしてここにいる。

今度は息が切れていない。走るペースをうまくキープできた。足を止めることなく、学内に突入。残り10分を切っている。9分半。

道の途中で決めた作戦。ネズミのいる柔道場には、少なくともリミット5分前までに七瀬さんが向かう。

木原は、すぐ技術室に向かうと言う。彼女は、鉄男という標的しか見えていないのだと思う。そちらは、リミットに合わせる必要はないのだが、ぼくは、鉄男の含みを持たせた、あの笑いが気になっていた。

「技術室ってどこ」走りながら、木原が訊いた。
「教室とは別の棟です。一階の奥」

「柔道場から近いのか」と七瀬さん。
考えたこともなかった。「柔道場は、学校の隅に独立してあるんですけど……、ええ、位置は近いと思います。けど、技術室には、正面玄関から入らないと」

「窓を使えば」
たしか、廊下の窓から柔道場が見えた。「それなら、50メートルくらいだと思います」

「俺も手伝うか?」七瀬さんが木原に訊く。おそらくは木原のことを心配して。「技術室の鉄男をさっさと倒してから、ネズミを倒しにいくって手もある」

その心配は正しい。はたして今の鉄男に、木原が通じるか。

二ヶ月前のバトルも、木原の優勢に見えてはいたが、ダメージらしいダメージはほとんど与えられていなかった。

直後、しかしと考え直す。相手はおそろしくタフ。七瀬さんが加わったとしても、きっと長丁場になる。すると今度は、肝心のリミットに間に合わなくなるのでは……。

「いい。ななは、ネズミをぶっ倒して」
「じゃあ、じじい。あいについて」大きめの声。
自転車をキーキーいわせているセイさんは、後ろから「ほいほい」と答えた。

「ぼくはどっちに向かえば?」
どちらでもいい、と言っているような間がある……。

「攻撃タイプではないな」と七瀬さん。消去法で来た。
「どっちかというと、爆弾処理班じゃないの?」木原が言うと、七瀬さんは、「いざとなれば、モノに触って、起爆回路をショートできるかもしれないしな。電化製品とか水で壊れるし」と思いつきを口にした。

「それ、爆弾を直に触るってことですか!」
「できる?」
「……やります」
戦うと決めたばかりだ。観念する。雨男、命をかけます。

「じゃあ、俺と雨男、じじいと木原に別れよう」

「しかし鉄男が、あえて技術室ってのは、どういうことでしょうね」ふと思いついて口にする。
「技術室ってどういうとこ?」
この人たちは、ほんとに自分の学校のことを知らないな……。

「美術の授業で、木工細工をつくるのに一度使ったことがあるんですけど。たしか、電動の糸のこぎりがあったり、バーナーがあったり。スペースをとって作業できるような、大きな木の机が並んでいたと思います」

「大きな木の机ねえ。あえてそういう環境を選んだってことか……」
木生火の能力。木原のアドバンテージだ。
「やつら、見抜いているんでしょうか」
「わからん」
「馬鹿だから大丈夫」と木原。

とても嫌な予感がする。先日やつらに渡したリュックのことを思い出した。こちらが、おがくずを使うことはばれている。

――そういうわけで、ぼくは七瀬さんと一緒に走る。
校内に入り、木原組とすぐに分かれ、右斜めへと突っ切る。離れの柔道場を目指して。

45

風が強くなってきた。草を踏む音と、風の音が混じる。足元が暗い。ぽつぽつと外灯ランプが灯るのみ。

進む先に、ここが戦いの場だと主張するように、ひときわ大きな明かりが見えた。柔道場だ。扉は開いているようだ。

左側にも、窓から明かりがこぼれているのが見えた。技術室だろう。思ったよりも手前だった。その明かりは、すぐに木々で遮られる。

柔道場が近づき、扉のその奥が見えたとき。
唖然とした。

ネズミじゃない。
鉄男……。

やられた。そうと思うと同時に、悔しいことに、その場と鉄男がこれ以上ないくらいしっくりきていた。

この黒い悪をはじめて遠めに見た日から、ふたまわりは大きくなっている。柔道場を丸ごと使うにふさわしいスケール感。

「七瀬さん!」
相手の策略に気づいているだろう七瀬さんは、走る速度を緩めない。

「俺はこのままいく。雨男はむこうに合流してくれ」
「えっ、でも」
「爆弾はあっちだ」
「はい」

ぼくは直角に左に折れる。全速力で、これ以上ないくらいに走る。正面玄関まで戻っていたら、とてもじゃないが間に合わない。

目指すのは、明かりの漏れていた場所。そこから少し、玄関側に引き返す。
技術室は一階の突き当たりだ。廊下の、技術室に一番近い窓に突進する。

ぼくが、窓をぶち破れるわけもなく、どんどん叩いた。素晴らしいタイミング、木原組がちょうどやってきたところだった。

木原に開けてもらい、窓枠から身体ごと落下するようにして合流した。

現在地は、技術室のドアのすぐ手前。
「鉄男は向こう、柔道場です!」
「は? ここは」
「おそらく、ネズミ」

「ドアに爆弾あるんじゃね」
セイさんのひと言に、ぼくらは後ずさった。

ガラっとドアが開く。
「ぎゃあ」ぼくは尻もちをついた。

「さっさと来いよ。爆弾は使わねえって言ってるだろ」声が遠い。
木原、セイさんにつづき、技術室に入る。強烈な木の匂いがした。

奥にネズミが、柔道場のときと同じの姿勢で、教師用の机に腰かけている。ドアを開けたのは急上昇野郎だとすぐに分かった。

覇気がない。その表情は、すべてをあきらめているようだった。出世競争のなれの果て。社長のお考えにはついていけません。退職寸前の失墜野郎だ。

ここは、通常の教室よりも縦に長い。向かい合って六人が作業できる大きな机が、二列に並んでいる。天井からぶらさがった、細長い電灯の明かりは、弱々しく、青白かった。

匂いの正体はすぐに分かる。入り口付近を除き、床と机の上、辺り一面に、おが屑がばらまかれていた。

「よお、待ってたぜ。あと4分半な」
「どういうことだ」ぼくはかすれ気味に声を絞る。

「こういうことだよ。七瀬は、光田さんにやってもらう。そのほうが確実だしな。俺はむかつくやつがぶっ殺されれば、それでいんだよ」

木原が、前に出る。怒りを爆発させるには充分な台詞だ。

「待った、あい」セイさんが制する。「燃える、燃える」

「ああ、言い忘れてた。机には爆弾にも使ってる燃料を仕込んでるから、引火させないように気を付けろよ。威力は、そうだな、至近距離だと腕の一本とか飛ぶんじゃないの。俺は安全圏だけど。ひゃっはっは」

「約束が違う。バトルに爆弾は使わないって約束だ」ぼくは叫ぶ。

「違わねえよ。爆弾ってのは、起爆装置があるから爆弾だろ。この部屋のものはただの固体物だ」

「馬鹿のくせに」木原が噛みつく。
表情が鬼神のようだ。

「愛、おまえはだめじゃ」
セイさんが、ぼくのほうを向く。「雨男、あいを落ち着かせるの手伝え」
「え」

「一発ギャクでええから」
「なんでこんなときに」
「ワシも多少は気の形が見える。あいの気がこれ以上、荒れたら危険じゃ。引火する」

「ひゃっはっは」
こいつの笑い声だけでいらつく。最悪の相性だ。対戦相手を逆にすると、こうも分が悪くなるなんて。

柔道場の七瀬さんを思った。もう鉄男とぶつかっている。相手の気が見えるとはいえ、無事で済むとは思えない。鉄男が相手では、七瀬さんのカウンター攻撃も効くかどうか……。

「おまえ、馬鹿って言ったか。能力が読まれてるくせに。おまえの『気』が、『木』を引火させるんだろ。ダジャレみたいな奴だな。ひゃっはー」
くだらない。

が――、
あっはっは、と壊れたように、失墜野郎が笑い出した。そうとう精神がいっているらしい。

「ふー、ふー」木原が深呼吸しだした。
このコンビ、木原をいらつかせるという意味では最強だ。

「俺の能力と似てるよな。理屈は分かんねえけど、なんか、昔のダチがつくった起爆回路が反応してくれるんだよ。お・そ・ろ・い」

「ふー、ふー」
木原は、木生火が使えないどころか、動くことさえできず、自らが起爆装置と化している。

「やばい、雨男、落ち着かせるんじゃ」
一発ギャグは苦手だっていうのに。「あれでいいですか」

ポケットには、金生水のための小さなスプーンが入っている。それを使って、たまにポケットティッシュをウェット・ティッシュに変えている。

ぼくを合格に導いてくれた渾身のギャグ。
スプーンを取り出す。「体温計!」脇に挟んだ。

「あっはっは」失墜野郎だ。おまえが笑うんかい!
「おまえ、本当に怒りっぽいよな。俺たちの間でなんて呼ばれてるか知ってるか」

「聞くんじゃない、愛!」
「欲求不満女だぜ。ひゃっはー」

渾身の一撃――。
ネズミ、おまえは最強の相手だよ。ぼくはこの男に敬意を覚えた。

「はっ、はっ、はっ」木原の呼吸が、どうしようもなく荒い。

「愛、よう聞け。昔、中国のある村におじいさんとおばあさんがおってな」
あかん、師匠もいっぱいいっぱいだ。

「爺さん、あんたがやるかい? それどころじゃないようだけどな」
セイさんが、小話のあいだに、口早に言う。「いや、ワシ、戦闘タイプじゃないんで」

「張り合いがねえな。もう2分切ってるんだぜ」
ぼくは時計に目をやる。1分50秒。

「時間は厳守だ。1―5組に、ターゲットの二人を縛ってある。そこに開いてる窓があるだろ」
ぼくたちから見て左側、ネズミの真横の方向にある窓が開いていた。

「あの向こう側にある、1―5の教室の窓も開いている。俺の気がよく届くように、だ」
ネズミは右腕をその方向に伸ばした。拳は握ったまま。「信じるも信じないもお前らの自由だがな」

それが事実なら、ここからの距離は、中庭の幅ともう少しということになる。ネズミの射程距離が、動物爆破予告のときから、さらに伸びているとしたら――。

失墜野郎が急に笑い出した。精神のねじがふっ飛んだような笑い。
これは、本当だ。

「雨男、おまえしかおらん。あいつ、ぶったおせ。もう、水の能力とか関係ないけどな」
「ええ」

「ななは厳しい!」
その言葉に絶望がよぎる。

七瀬さんに限らない。あんな化け物を倒せる人間など、果たして存在するのか。だけど、どこかに、もしかしたらと期待があった。

師であるセイさんの言葉は、その最後の希望をも吹き消した。

これまでぼくを助けてくれた七瀬さんはいない。木原は動けない。

ぼくがやるしかない。どうする?
それも失敗は許されないのだ。

次は最終話だよ。ここまで読んでくれてありがとね。

▼ AIイラストを使い倒してきた ▼

▼ 小説家になろう、きっと楽しいよ ▼


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焔ふぁい|FIREの精霊 クリエイターであり続けたいー! が、整体に行かないと死ぬ。ポンコツゆえ、ポンコツゆえ、300円よろしくお願いしまーーす!