転職してたらジャングルでロックンローラーになって元に戻れない話(#新しい仕事に向き合うとき)
職場にて。
あまりの不条理さに追い込まれたとき。関係者がたらい回しにした残り時間10秒の時限爆弾を受け取ってしまったとき。
ああ、ロックンロールを炸裂させたい!
そう思ったことはないでしょうか?
叫びたい。叫べない。
本当に叫んでしまうと、99パーセントろくなことにならない。
だから、職場という空間で人はロックになれない。
反ロックンローラーの呪符が貼ってあるのが、職場。
ロック魂なんて封じておくのが正解なのか?
いや、起死回生の逆転劇だってある。
どうしようもない窒息状態を打破してくれるのもまたロック。
ロックンロール・エンタメの専門家です
◇ ◇ ◇
かつて、制作会社という魔界に足を踏み入れてしまった自分がいた。
そこはまったくの未知の世界。
わたしは慎重に、慎重に、前職のメーカー勤務の態度で石橋を叩いて渡った。
その前に勤めていたメーカーは、社内メールの「CCに並べる人の順番」を間違えることが破滅につながる世界だった
制作会社は、かつて勤めたどの業界よりもジャングル。
ここに迷い込んだ人間は、ディレクターという名の称号を与えられ、何の知識もノウハウも与えられないまま、未開の奥地へ放り込まれる。
つまり、本気で何もわかっていない人間が何かわかってるふりをして、お客さんと対峙する。
意味がわからないと思うが事実そうなのだから仕方ない。
ポジティブなところもありますので合わせてご覧ください
猿(ライターの先輩)とキジ(デザイナーの先輩)のお供がついた。
じゃあ、ひとりじゃないし、先輩は経験があるだろうからいいじゃない、と思ったら大間違いだ。
猿とキジは言うことを聞かない。
それどころか、自分がお客さんと接するわけじゃないから、ディレクターに対して好き勝手なことを言う。
助けてくれるどころか、邪魔をするのだ。
お客さんと内輪の人たち、どっちを見ればいいのだろう。
もうおわかりかもしれないが、お客さんありきの制作業は、全力でお客さんのほうを見なければ成立しない。
中途半端なスタンスをとるうちに事件が起きた。
それが分かれ道だった――。
分かれ道は入社後、3か月で訪れた。
わたしが業界最強のエースディレクターになるか、1年足らずで業界を退場するかの大事な分かれ道。
今だからわかる。
3か月の時点で事件が起きてくれてありがとう!
制作会社の事件簿ならおまかせください!
◇ ◇ ◇
制作業の経験がないとはいえ、わたしには仕事の常識がある。
何をすれば、お客さんがどう感じるのか推測することができる。
ある紙面を作るとき、わたしはキジ(デザイナー)に指示を出した。
偉そうな意味ではなく、ディレクターなのでそういう役割なのだ。
作業に関係のない猿がなぜか「お客さんに確認しろ」と言い出した。
確認する必要性がまったく感じられないので、「確認も何も、先方と打合せをしたときに、そう進めようって話だったじゃないですか」と言った(そもそも、あなた、この場面で関係ないですよ)。
猿が言い返す。「何かあったら、おまえ責任とれるのか!」
今だからわかる。
猿、早めにわけわかんないこと言ってくれてありがとう!
意味はまったく不明だが、責任とれるのかと言われたら、はいと言いにくい。
先輩を立てなければ破滅するという前職の引力も作用した。
まったく気が乗らないのに、それどころかそうすべきじゃないと思っているのに、お客さんに電話をした。
メディア関係の会社だった。担当者の女性はかなり不安定なところがある。電話口でびっくりするくらい怒鳴られた。
「そうしてくださいって言ったじゃないですか!! そんなことでいちいち電話してこないでください!! こっちは忙しいんです!!」
「も、申し訳ございませんでしたー(わたしもまったく同じ気持ちなのに、流されてかけてしまったんですー)」
今だからわかる。
ここまでお客さんに切れられたのは最初で最後だけど、
このタイミングでブチ切れてくれてありがとう!
受話器を置いたとき、わたしは変わっていた。
ここはジャングル。これまでの仕事の仕方は通用しない。わたしは新しい仕事に向き合うために変わらなばならない。
どう変わるべきか、そのときすべてがわかっていた。
方向性はまさかのロック。
キジのところに歩み寄る。
聞き耳を立てていたキジは何が起きたか想像が付いている。
わたしは宣言した。
「お客さんとやりとりするのはわたしです。行動の結果はすべてわたしに返ってきます。だから、これからはすべてわたしが決めます」
キジはひとこと「……わかった」と言った。
猿には、必要なときしか指示を出さないと決めたので、特になにも言わなかった(その後、必要のない要求はすべて撥ねつけた)。
業界の鬼神が生まれた瞬間だった。
……………………
鬼神は、その後向かってきたすべてのプレイヤーを葬る。
そして、脅威のレコードを打ち立てる。
案件を失敗させた数、ゼロ。
顧客からのクレーム、ゼロ。
彼らのおかげだ。
ありがとう、猿、キジ、ジャングル、お客さん。
わたしは新しい環境で化けた。最適な選択をした。
その選択とはジャングルで野生に返り、ポテンシャルを解き放つことだった。
まさか、
いい年をして、
会社員として、
ロックンローラーになる
とは夢にも思ってもいなかった。
ひとつ問題がある。
ふつうの人への戻り方がわかりませーーん!

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