運命のジャズマンが遺したもの(ノイジーアパートPartⅡ)
最初にお伝えしておくと、この記事はJAZZのおすすめ名盤の紹介だ。
前回、外の騒音が強すぎるため、アコギ弾き放題となった奇妙なアパートの話をした。この話の続きからなぜそうなるのか?
災い転じて福となるじゃないけれど、わたしは失敗物件という名の無敵の個人スタジオを手に入れた。
通常、スタジオといえば防音だ。この通称「川ビル」は、音を内部に抑え込むのではなく、外部から大量の自動車の音を招きこむことによって、部屋の音を無効化する。
川ビルはまあ、ただの古くて長細いビルだ。
一度、アマゾンの奥地にいるような巨大なクモが、異様なスピードで排気口に入っていくのを見たことがある。地球温暖化? 今はそういう時代なのか……と思って気持ちを落ち着かせたが、あのレベルのクモはそれ以来20年近く見ていない。我ながらこのビルに住む人間はなかなかの強者だと思った。他の住人は、中近東系の顔の濃い外国人を見かけたくらい。テロリストではないかと少し疑ったことを覚えている。
仕事は絶不調だったが、(自分なりの)ミュージシャン活動は好調だった。コード理論を独学で学び、ギターを弾きながら作曲ができるようになっていた。そのいっぽうで独学もいいが、ギターをちゃんと習ったほうがよいのではないかとも考えていた。
そんなとき、三宮(神戸の一番大きな繁華街)のアーケードを歩いていて、たまたまジャズギター教室の張り紙を見つけ、そこに入会する。ほとんど記憶がないのだが、三宮のあまり特徴のない教室で数回レッスンを受けた。
講師のひとは「ジャズギターである必要はないが、ジャズと付けたほうがオシャレで入会者が増える」と言った。なるほど、わたしのようなやつのことだな。わたしはこれまでジャズなどまともに聴いたことがなかった。
こういうところだ! こういうふうに雰囲気だけに反応し、何も調べず、何も考えてないから、わたしは何度も大きな失敗をする。
おっと、なかなか名盤の紹介にたどり着かない。先を急ごう。
わたしはそんな調子でふらふらと生活を続けていた。
ある日、川ビルの階段で、例の中近東系の住人とばったり出くわす。アホのわたしでもさすがに気づいた。あれ、この人ジャズギターの先生じゃないか。向こうもすぐに気づく。「きみは……!」
住人は、外国人ではなく、ただ顔の濃いだけの日本人だった。わたしがテロリストかと思っていた人物は、ジャズギタリストだったのだ。
わたしの観察眼のやばさはいったん置いておいて、ものすごい偶然だ。この街から三宮は電車で15分離れている。三宮の小さなギター教室の先生が同じマンションの住人だったとは……。
ジャズマンは川ビルの部屋を2つ借りていた。ひとつは住居、もうひとつはギター置き場兼ギター教室。ジャズマンは川ビルでも教室を開いていた。三宮のほうは教室に雇われているだけだという。となると、三宮の教室に通う理由は何もない。わたしは川ビルのジャズマン教室の生徒となった。
その教室の生徒だったのは、2か月くらいだったと思う。わたしが全然練習をしなかったからだ。練習をしない生徒はお断り。
ジャズマンがわたしに残してくれたものは奏法ではなく、冒頭のおすすめ名盤だったというわけだ。
意外と気に入っていて、今でもたまに聴いている。完全なるジャズ初心者に向けたチョイスだと思う。よろしければ皆様も、わたしの「君の名は」ばりの出会いで手に入れた名盤をぜひ。
ジョーパスといえば人間国宝のようなソロギターアルバム「Virtuoso」が有名だが、このアルバムはトリオの演奏。バンド演奏のほうがわたしは好き。
ゴスペルらしい。「音数は少ないが、よく考えて弾いている」とジャズマンは言った。
ジャズ名盤100みたいな本に必ず載っている名盤ですね。わたしは1曲目のブルースがお気に入り。
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