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わたしだって、タワーレコードでCDを買いたかった。

 PaperBagLunchboxを聞いている。

 当時のことをあまり怒らずに聞いて欲しいのだけれど、大学時代は貧乏だった。いや、親から仕送りをもらっておいて何を……と言われればその通りなのだけれど、バンドっていうのはアレコレ出費ばかりで、ずいぶんと金のかかる趣味と言える。けれども、出会ってしまったものは仕方がない。
 iPhoneが出てきたのは大学2,3年の頃で、使っていた人は少なく、主流はまだまだiPodだった。あの、ぐるぐる〜っと回して曲を選ぶやつ。

 じゃあ、iPodに入れる曲たちはどうやって手に入れるのか。
 いちばん基本的な方法は「買う」わけだけれど、アルバム1枚3000円をほいほい買っていたらすぐに破産してしまう。軽音部のわたしたちは、年に数十曲を演奏する。いちいち買ってはいられない。
 違法いう意識は当時まだ希薄で、まだサブスクなんてものは全然なくて(YouTubeもほとんどなかった。アニメを見るサイトも、ほとんど違法なものだった)、iPodから曲を抜き出すソフトを使っていた。友達が来ればオススメの曲を、言葉通り”置いていって”もらった。

 mp3という拡張子を理解したのもこの頃だ。
 ふつう、CDには約80分程度しか収まらないのに対し、拡張子mp3を使うと、比較できないくらいに入る。USBメモリと同じような使い方……なんて言っても、もはやうまく伝わらないと思うけど、そんな感じだった。
 先輩の家で、あれやこれやオススメを教えてもらって……regaとかROVOとか、SAKEROCKとか、CDに”焼いて”もらったとき、PaperBagLunchboxも入っていた。アルバム「ヘッドフォンタウン」。「5度」という曲は、好きすぎて大学時代にコピーした。自分から「この曲をやりたい」と言ったのは、この曲以外にあまり思い出せない。

 それから時代はぐんぐんと進み、CDを焼くことも、USBメモリもあまり使わなくなって、クラウドが主流になった。容量の大きいものは、宅ふぁいる便で送る。
「オススメの曲を送って欲しい」と、まだまだ貧乏な仲間に言われて、データを詰め込む。
 そのときに、重複データだと誤って消してしまったのがPaperBagLunchboxだった。あんなに大好きだったから絶対に入れたくて、意気揚々と詰めたというのに。いちばん大切と言っても過言ではないくらいお気に入りの曲(それもアルバムまるっと1枚)を消してしまった衝撃といったら……「アイツが曲送れなんて頼んできたから!」と、意味のわからない八つ当たりをしてしまうくらいに(本人には言わなかったけれど)動揺して、怒りもした。おそらく十年以上前の出来事だというのに、今でも根に持っている。
 すぐに手に入るようなら買い戻したかったけれど、CDショップですぐに買えるような作品でもなく、当時の先輩とはとっくに疎遠。
 送り先の人から、こっちに再送してもらえばよかったのだけれど、相手は受け取りはできるけれど送信はできないパソコン音痴で、あれは当時の本人のパソコンだったのか、付き合っていた彼女のだったか、とにかくもうお手上げの状態で、途方に暮れた。忘れることが、いちばん健やかな答えとなってしまった。

 それからまた時代は進んで、YouTubeでMVが見られるのも当たり前になって、気がつけばサブスクの時代だった。わたしもずいぶんと乗り遅れて、数年前にSpotifyの有料プランに加入。
 空っぽのマイページを埋めるべく、自分のパソコンにある音楽の中から、一致するものをひとつずつ探す。大学時代から溜めてきた、数多のデータの中から、ほんとうに好きなものを……
 PaperBagLunchboxのことも調べた。いなかった。

 一年ほど経って、YouTubeプレミアム(YouTube MUSIC)に移行。
 また、まっさらになったマイページを見て、今まで何を聞いていたのかわからなくなる。自分が音楽を好きだったのかも。
 それでも、PaperBagLunchboxのことは忘れずに調べた。だよね、いないよねって。このときも思った。おとなしくスガシカオを登録して、それ以外の記憶はゆっくりと手繰っていった。

【2023年11月 幻の全作品が配信リリース】

 このニュースに出会ったのは、2024年になってからだった。
 もはや定期的な儀式のように、【PaperBagLunchbox】と打ち込んでいたある日のこと。
 まさかの結果に、息を呑む。
 いる。
 そこにいる。
 ある。
「ヘッドフォンタウン」
 忘れもしない、そのアルバムも。




 PaperBagLunchboxを聞いている。新宿に向かう。
 タワーレコードに行く。
 今日は推しの新譜……それも、メジャーデビューアルバムの発売日。

 いろいろな特典があって迷ったけれど、タワーレコードで買うことにした。フラゲの配送じゃなくて、店頭で。
 店舗ごとに異なる予約特典のアレコレが決め手になったわけではなく、むしろタワレコの店頭受け取りは商品と引き換えの支払いなので、早期予約特典がつかないんじゃないか。あれこれ調べて、たぶんそうだと思う。
 わたしはAmazonプライムの会員でもあるので、Amazonに頼めば送料無料で発売日の届けてくれることもわかっていた。

 でも、タワレコで買いたかった。
 新宿flagsのビジョンで、推しが流れるように、願いながら。(あのランキングって、オンラインを含んでいるのか、タワレコ以外の売上も反映しているのか、知らないけれど)
 新宿のタワレコで、このCDを欲しい人がいることを知って欲しい。
 できるだけ目立つように、陳列して欲しい。
「まだ見ぬあなたへ」宛てたこの音楽の便りが、出会いを求める然るべき人の元へ届きますように。「もっと早く知りたかった」と言ってくれる、未来の同士へ。




 結局わたしの人生で、タワレコにお世話になる期間というのはなかった。
 むかしはデータでやり取りをして、自分で曲を作っているときはCDを買う余裕なんてなかった。気がつけばサブスクが台頭し、月額を払うことで新しい音楽に出会える今が、すごく楽しい。
 昔より少しはマシになったけれど、まだまだ「欲しい=買う」の方程式は成り立っておらず、「欲しい→超吟味→ごく一部だけ買う」の暮らしの中、エンタメは溢れてゆく。本は紙から移行できないわたしなのに、CDといえばスガシカオしか買わない。いや、スガシカオだって、今回の新譜は書籍付き(書籍のみの販売は無し)、前回の新譜は超高画質のライブDVD付きだったから買ったけれど、そうじゃなければわからない……いまさら、CDが売れないから新譜を出さないというレベルのミュージシャンではない。と、少し高を括っている。その前の新譜は買っていない。

 親愛なるHACHIさま、メジャーデビューおめでとう。
 今までCDを買っていなくてごめんなさい。「タワレコで買えたら買ったのにな」と思っていたのに、こんなに早く実現するだなんて!
 ああ、早くあなたの特設コーナーがタワレコにできないかな。グッズとかも一緒に買えるようになるといいな。

 親愛なるHACHIさま、わたしに「タワレコでCDを買う」という、こんなにも嬉しい経験をさせてくれてありがとう。お恥ずかしながら、人生で数度目だと思う。
 わたしは、今日を楽しみにしていた。あなたの門出、新しい音楽に出会えることを。なにより

 わたしだって、タワーレコードの黄色い袋を持って歩きたかった。

 今回はフラゲだったから、あなたのCDが店頭に並んでいるところはまだ見ていないのだけれど
 大好きな人のCDを買って、浮かれて、早く聞きたいなと思いながら帰りたい。
 この日のわたしは子どもみたいに、家まで我慢できなくて、新宿のスタバでひとり開封の儀をしてしまいましたよ。写真、ぜんぜん上手に撮れなかったけれど、超嬉しかった。
 やっぱり、早期予約特典はなくて……「そりゃあ、前払いじゃないから当然だよな」と納得して、でもCDを見たらやっぱり予約特典も欲しかったなと少し寂しかったけれど。
 そんなことよりも、この黄色い袋が嬉しい。

 聞いてください。
 今日わたし、タワーレコードでCDを買いました。

「そんなことで」とみんなが思うかもしれない。
 それでもわたしは、飛び上がるくらい嬉しい。
 タワレコでCD予約したんだ、お店で引き取るんだって、こそこそ家族に自慢して、そして今日、この黄色い袋を持って帰る。ああ、憧れのタワーレコード。CDを新品で買えなかった頃のわたしに、見せてあげたい。きっと、「その子のこと、すごく好きなんだね」と笑ってくれたと思う。

 タワーレコードでCDを買いたかったわたしは、「タワーレコードでCDを買っちゃうくらい好きな子」に出会いたかったんだと気がついた。
 文庫本は新品でも「なんとなく」「ジャケ買い」をしたりすることもあるけれど、CDのジャケ買いってハードルが高い。それも近年の感覚でいえば、サブスクでも聞けるわけだし。

 わたしは、音楽があまり好きではないかもしれない。と悩んでいた時期もあった。ライブハウス勤めを辞めてから、ライブハウスには行かなくなった。あれは、仕事だったし、自分が出演していたから行く必要があっただけなんだよなあ。と、今でもぼんやり思う。
「趣味はタワレコとユニオンの徘徊」「休日はライブに行く」という話を聞くたびに、眩しい。ここ何年かはスガシカオのライブに行ったりしているけれど基本的にはそれだけで、音楽にうまく課金できない。財布の紐は固い。
 最後に、タワーレコードでCDを買ったのはいつだっけ……

 ライブハウスで飛び交う「好きな音楽は?」「普段なに聞いてる?」って質問、大嫌いだった。自分が何を好きなのか、そもそも本当に音楽が好きなのか、聞くのが好きなのか、弾くのが好きなのか、練習は嫌いで仕事は面倒で、ピアノは親から言われて習っていただけだったし、「山崎まさよしに憧れてアコギを買ってもらった」という輝かしいエピソードは、わたしには絶対に手に入らない。
 学校に行くことと同等の当たり前さで音楽教室に通い、なんとなく離れられなくなってここまで来ただけ。大学生になっていろんな音楽に出会ったけれど、自分より音楽に詳しい人ばかりで、オススメされるばっかりで、いつも友達の二番煎じみたいで、それでも「好きな音楽は?」って、わたしには残酷すぎる。

 それでも、あなたを好きになった。
 星街すいせいを勧めてくれた友人に感謝している。素直に好きだと思えて、よく聞いていた。そう、こうして音楽は誰かを通して好きになる。それでいいんだってことは、君が教えてくれた。
 星街すいせいから始まるSpotifyの自動再生で、いつも「いいな」と思って画面を覗くと表示されているのがHACHIだった。気がつけばひとつずつ曲を紐解いて、生配信で笑うあなたの声を聞いて、励まされて、ここまで来た。

 広げたCDを、そっと袋の中に戻す。
 これは、ゆっくり聞こう。ソファーに沈みながら、歌詞を見て、じっくりと、1曲目から。あなたが伝えたかった旅路を、その物語をひとつずつ紐解いて確かめてゆくみたいに。
 ああ、すごおく楽しみなのに、聞いちゃったら「最初に聞く楽しみ」がなくなっちゃうから、しばらくは眺めるだけになっちゃいそう。わたしってば好きなものは最後に食べるし、読みたい本は積んじゃうし、RPGはクリアの直前で迂回したくなっちゃうタイプ。


 ヘッドフォンのボリュームを上げる。
 PaperBagLunchboxが流れている。
 あの日、買えなかったCDの、いつか買いたかったCDの、失ったと思った音を聞きながら。

 今日、わたしはタワーレコードでCDを買った。
 好きな音楽を答えられなかったわたしが、いま、胸を張ってあなたを好きだと思いながら、溢れる幸福を隠せない軽やかな足取りで、タワーレコードの袋を握りしめている。


新宿のスターバックスにて


▼now playing

▼PaperBagLunchboxを聞きながら


▼推し(HACHI)の新譜も聞いていってください

「VESTIGIA」→「fragment」の流れがとても好きです。

▼わたしが語る、HACHIのこと


▼わたしが語る、スガシカオのこと
(今回で70本目。ライブ感想文からオススメの曲、ひとりごとまで)





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