『リンク』第1章〜一生懸命が切り拓いた道〜/Episode13
13-1 本格的にふたりで
りなちゃんが仕事を辞めてから、
ボクたちは、
本格的にふたりでクレープ屋さんを始めた。
もちろん、
最初から順風満帆だったわけじゃない。
相変わらず、毎日忙しい。
朝から準備して。
営業して。
片付けして。
また次の日の準備。
やることは山ほどあった。
でも、
ひとりだった頃より、
明らかに楽しかった。
⸻
りなちゃんは、もう接客だけじゃなかった。
クレープ作りも、
少しずつ覚えていった。
最初は、生クリームを絞るのもぎこちなかった。
でも、
毎日、横でボクの仕事を見ていたりなちゃんは、
覚えるのがとにかく早かった。
しかも。
りなちゃんが入ると、
お店の空気が柔らかくなる。
お客さんも、
なんだか楽しそうだった。
「おふたり、息ピッタリですね!」
そんなふうに、
言われることも増えていった。
⸻
でも、
ボクが一番驚いていたのは、
“働くこと”そのものが、
前より楽しくなっていたことだった。
ひとりで必死に走っていた頃は。
「売れなきゃ。」
「失敗できない。」
そんな気持ちの方が、ずっと強かった。
でも、
りなちゃんと働いていると、
忙しいのに笑っている時間が増えた。
仕事なのに。
どこか、毎日を一緒に作っているみたいだった。
営業が終わったあと。
「今日めちゃくちゃ忙しかったね〜!」
なんて笑いながら、ご飯を食べに行く。
そんな時間まで楽しかった。
⸻
そして、
佐渡での営業は、
再び大盛況だった。
新しく出店先になった企業を回っても、
どこへ行っても行列ができる。
「また来てくれた!」
そんな声を、何度ももらった。
⸻
でも、
その頃のボクたちは、
売上だけを見ていたわけじゃなかった。
「せっかくだから。
日本中、回ってみたいね。」
営業を続けながら、
そんな話を、少しずつするようになっていた。
⸻
その頃にはもう、
クレープ屋さんは、
ただの仕事じゃなくなっていたのかもしれない。
ふたりで、
未来を作っていく場所になっていた。
13-2 ふたりの船出
しばらくして、
ボクたちは、一緒に佐渡を出た。
本土へ戻り、
また、いろんな場所へ出店していく。
でも、
そこでも結果は変わらなかった。
どこへ行っても、
お客さんが並ぶ。
リピーターが増える。
「また来てくれた!」
そんな声を、何度も聞いた。
そして、
ボクは改めて思った。
「やっぱり、
佐渡だけじゃなかったんだ。」
車中泊生活をしながら、
毎日、積み上げてきたもの。
クレープの研究。
接客。
お店作り。
その全部が、
ちゃんと形になっていた。
しかも。
ふたりで営業するようになってから、
お店はさらに変わっていった。
⸻
りなちゃんが、
よく言っていた言葉がある。
「これまで忙し過ぎて、
形にできてなかった事あるでしょ?」
ボクひとりでは、
忙しくて手をつけれていなかったアイデアが
たくさんあった。
「私は、それを実現する為の時間を作りたい。
みんなが喜ぶ新しい事考えるの、得意でしょ?」
⸻
「私はそういうの苦手だけど。
黙々と作業するのとか、効率化するのとか。
そういうのは得意だから任せて!
あと接客も!」
……。
実際、ボクは、
新しいものを考えることが好きだった。
クレープの新しいメニューも。
お店作りも。
経営も。
「もっとこうしたら面白い。」
「こうしたら、みんな喜ぶかもしれない。」
そんなことばかり考えていた。
でも、
細かな作業管理や効率化。
人に仕事を振ること。
そういうのは、
正直苦手だった。
逆に、りなちゃんは、
新しいことをゼロから考えるのは、
あまり得意じゃない。
でも、
目の前の仕事を整理して、
効率良く回して、
周りを見ながら、
支えるのが抜群に上手かった。
つまり。
お互いの得意と不得意が、
びっくりするくらい違っていた。
でも、
それが不思議なくらい、
綺麗に噛み合った。
まるで、
パズルのピースがカチッとはまるみたいに。
しかも。
元々お互い、
仕事では評価されていた人間だった。
だから、
それぞれが得意なことを担当すると、
お店がどんどん良くなっていった。
ボクひとりだった頃には、
忙し過ぎて形にできなかったアイデアも。
少しずつ、
実現できるようになっていく。
そして、
それがまた、
お客さんの笑顔に繋がっていった。
⸻
行列ができても。
お互いの動きが分かる。
次に何が必要か、
言葉にしなくても分かる。
どれだけ忙しくても、
お客さんへの丁寧さだけは、
絶対に崩さなかった。
「お待たせしました!」
「ありがとうございます!」
そんな声が、
毎日キッチンカーの中に響いていた。
⸻
そして。
ボクは、
少しずつ思うようになっていた。
「……ふたりなら、もっといける。」
それは、
売上だけの話じゃなかった。
仕事も。
人生も。
ひとりでは辿り着けなかった場所へ。
ふたりなら、
行ける気がしていた。
13-3 導かれた道
本土での営業にも、
少しずつ慣れてきた頃。
ボクたちは、
次の出店先の話をよくしていた。
「次、どこ行こうか?」
そんな会話が、
毎日のように増えていく。
せっかくキッチンカーなんだから、
もっと、いろんな場所へ行ってみたい。
そんな気持ちが、
ふたりの中でどんどん大きくなっていた。
「沖縄とか、面白そうじゃない?」
「いいねぇ〜。」
「でも、秋田とかも行ってみたいよね。」
そんなふうに。
未来の話をしながら、
営業を続けていた。
⸻
そして、
十二月に入った頃。
ボクは、
出店先企業の資料を見ていた。
その会社は、
佐渡だけじゃなく、
本土にもたくさん店舗を持っていた。
そして。
何気なく、店舗一覧を見ていた時。
ある場所が目に入った。
「……え?日光東照宮前?」
栃木県。
しかも、
観光地ど真ん中。
年末年始なら、かなり人も来るはず。
「……ここ、面白いかもしれない。」
そう思って、
ボクは、なんとなく日光東照宮を調べてみた。
⸻
すると。
スマホの画面に、
一枚の写真が出てきた。
「あっ!!」
思わず大きな声が出る。
「え?どうしたの?」
りなちゃんが、不思議そうにこっちを見る。
「りなちゃん!これ見て!」
ボクは、慌ててスマホを見せた。
「ああ、これって日光東照宮の眠り猫?」
「そう!
しかも、ほら!」
ボクはスマホの画面を見せながら叫んだ。
「三毛猫!!」
りなちゃんは、
もう一度画面を見直して。
「え〜っと……。」
......。
「これ、三毛猫じゃなくて黒ブチじゃない?」
「……え?」
その瞬間だった。
「ニャー。」
外から、
猫の鳴き声が聞こえた。
りなちゃんは、
吹き出しながら笑う。
「ほら〜。猫に笑われてるよ!あははは!」
ボクは、思わず窓の外を振り向いた。
すると。
少し離れた場所から
一匹の三毛猫がこっちを見ていた。
「……!!」
しかも、
その三毛猫は、
前足を、
ちょいちょいっと動かした。
まるで。
「こっちだよ。」
そう言ってるみたいに。
そして、
クルッと向きを変えると、
一メートルくらいある塀を軽やかに飛び越えて、
そのまま姿を消した。
⸻
「……。」
ボクは、しばらく動けなかった。
そして、
次の瞬間。
「これ、絶対そうだ!!」
「え?」
「猫の神様が、
ボクたちを呼んでる!!」
「えぇ〜!?」
「だって!」
「ボクの地元の浜松城も、
徳川家康と関係あるし!
日光東照宮もそうでしょ!?」
ボクは一呼吸して叫んだ。
「絶対、導かれてるって!!」
⸻
りなちゃんは、
大笑いしながら言った。
「猫の神様って何それ〜!
変なのぉ〜!あははは!」
でも、
笑いながらも、
りなちゃんは最後にこう言った。
「私は、
どこでもくっついて行くだけだから。」
急にドキッとして、
ボクは固まった。
「別に、どこでもいいよ。」
……。
その言葉が、
なんだか、
すごく嬉しかった。
ボクは、
笑いながら頷いた。
「うん。」
そして、
「じゃあ、
一緒に日光へ行こう。」
⸻
そして。
それが、
ボクたちの人生を、
大きく変える旅の始まりになることを、
この時のボクたちは、
まだ、知らなかった。
🌿この作品は、実体験をベースにしたフィクションです。実際の経験をもとにしながら、一部構成・演出を加えています。
「これ実話?」と思った部分があれば、コメントで聞いてください。お答えできる範囲でお話します。
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