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【短編恋愛小説】日本人が好きと言ったのに【後編】

この小説はthreadsで仲良くさせて頂いている「まさみん」さんから頂いた恋愛談をもとに書かせて頂きました。
但し、内容一部変更しているところも多々ありますのでご了承ください。
今回、恋愛談を提供してくださったまさみんさんもnoteをされていますので
是非とも覗いていただけると幸いです。
まさみんさんのnote記事はこちら↓

原案:まさみん
作成・構成:のぶ
補助:ちゃぴお


日本人が好きと言ったのに【後編】


 帰国してから数週間が過ぎた。

 シドニーでの生活も、マイケルとの時間も、少しずつ思い出になっていく。

 そんなある日の夜だった。

 実家の電話が鳴った。

 父が受話器を取る。

「……もしもし?」

 しばらく沈黙が続く。

 そして父が私を呼んだ。

「マサミ、お前に外国から電話だぞ」

「え?」

 受話器を代わる。

「Hello?」

『Masami!』

 聞き覚えのある声だった。

「マイケル?」

『Yes!』

 思わず笑ってしまう。

 本当に電話をかけてきた。

 しかも国際電話で。

 それから私たちは、片言の英語と片言の日本語で連絡を取り合うようになった。

 会話は決してスムーズではない。

 辞書を引きながら話すこともあった。

 それでも不思議と楽しかった。    



 ある日、マイケルが電話で言った。

『Japan...行く』

「え?」

『Masamiの家』

 一瞬、意味が分からなかった。

「……本当に?」

『Yes』

 冗談で言ったはずだった。

「両親に挨拶に来て」

 そう言えば諦めると思っていた。

 なのに。

 本当に日本へ来ると言う。

 その話を聞いた両親は大騒ぎだった。

「外国の人が家に来る?」

「えっ、結婚するってことか?」

 私は必死に首を振る。

「違う違う!」

「まだ付き合ってるかどうかも分からないから!」

 でも。

 誰よりも慌てていたのは私だった。   



 そこから始まったのは、想像もしていなかった遠距離恋愛だった。

 日本とオーストラリア。

 飛行機で何時間も離れた距離。

 会いたい時に会えない。

 電話代も高かった時代。

 それでも、お互い時間を見つけては電話をした。

 手紙も書いた。

 メールよりも手紙の方が多かった。

 その方が気持ちを伝えられる気がしたから。     



「日本語、勉強する」

 マイケルはいつもそう言っていた。

 私は笑って答える。

「じゃあ私は英語ね」

 本当にそうなった。

 気付けば私のTOEICは四百五十点から七百点まで伸びていた。

 一方のマイケル。

「日本語どう?」

 そう聞くと。

『まだまだ』

 照れながら笑う。

「私の方が成長してるじゃん」

 二人で大笑いした。    



 三年間。

 長いようで短い遠距離恋愛だった。

 そして、マイケルが日本へ来る日が決まった。

 私は新宿のホテルを予約した。

 パークハイアット東京。

 部屋から富士山が見えることで有名なホテルだった。

「せっかく日本へ来るんだから」

「富士山を見せたい」

 それが私の小さな願いだった。    



 ところが当日。

 東京はまさかの大雪。

 窓の外は真っ白。

 富士山どころか、目の前の高層ビルまで見えない。

「最悪だね」

 私は苦笑した。

 すると、マイケルが突然立ち上がる。

 そして、私の前で片膝をついた。

「えっ?」

 小さな箱を開く。

 中には婚約指輪が輝いていた。

「Masami」

『Will you marry me?』

 一瞬、頭が真っ白になる。

 外国映画みたいだった。

(本当にやるんだ……)

 それが最初に思ったことだった。

 後から聞くと。

「早く終わらせたかったからホテルにした」

 そう笑っていた。

 なんともマイケルらしい理由だった。

 そして、その指輪にも驚いた。

 オーストラリアではゴールドが一般的なのに、私が以前「日本ではプラチナが人気」と話したことを覚えていて、わざわざイギリスからプラチナの指輪を取り寄せてくれていたのだ。

「ダイヤは少し小さくなったけど」

 照れながら言うマイケル。

 私は首を振った。

「そんなことどうでもいい。

 覚えていてくれたことが嬉しい」

 私は涙を浮かべながら頷いた。

「Yes」    



 結婚が決まり、今度は大きな問題が待っていた。

 どちらの国で暮らすのか。

 何度も話し合った末、私がオーストラリアへ移住することになった。

 婚約ビザを申請した。

 ところが。

 一年近く経っても連絡が来ない。

 大使館へ問い合わせると、まさかの事実が判明した。

「メールは送っています」

 確認すると、送信先が別人だった。

 私は思わず天を仰いだ。

「そんなことある?」

 そのせいで退職後に派遣社員として働き直し、渡豪も延期。

 年をまたいだため、予定外の住民税まで支払うことになった。

「最後まで波乱万丈だね」

 マイケルは申し訳なさそうに笑った。   



 そして、ようやくシドニーへ。

 人生は、本当に分からない。

 あの日。

 友人が一本の電話をかけなければ出会わなかった。

 あの日。

「日本人が好き」

 そう答えなければ始まらなかった。

 あの日。

「両親に挨拶して」

 なんて冗談を言わなければ、きっと今の私はいない。

 窓の外では、今日も雨が降っている。

 私は思わず笑ってしまう。

「また雨だね」

 するとマイケルも笑う。

「ごめん。僕が来ると天気が悪いね」

 私は首を振る。

「ううん。

 あなたが来てくれたから、私の人生は晴れになったよ」

 マイケルは照れくさそうに笑い、私の手をそっと握った。

 富士山は、あの日見えなかった。

 でも。

 私には、あの日からずっと見えている景色がある。

 国も言葉も違う二人が、少しずつ歩幅を合わせて歩いてきた人生という景色だ。

 それは、どんな晴れた日の富士山よりも、美しく、かけがえのないものだった。

                           ― 完 ―

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