【第69話 初恋の人は特別】初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺
中学三年生・想いを伝える為に編
第69話 初恋の人は特別
「実はね……私……『白血病』なの……」
「えっ!?」
俺は、とてつもない衝撃を受けてしまった。
まさか……
あの石田が……
いつもあんなに元気な石田が、白血病だなんて……
「だからね……将来、私が『女優』になることは無いんだよ……」
「そ、そんなの分からないじゃないか!?
白血病だからって、治療すれば治るかもしれないじゃないか!!」
俺は語気を強めて石田に言い返す。
でも、心の中は穏やかではなかった。
何故、『この時代』で白血病なんだ!?
まだ白血病に対して医学が発達していない『この時代』に……
『前の世界』なら、医学も発達していて、完治している有名人などを俺は何人も知っている。
でも、まだこの時代は……
あと十年……
いや、あと五年待ってくれれば、石田が助かる可能性が爆発的に上がるのに……
いや、諦めるなんてまだ早い!!
『この世界』に来た俺は、今まで色々な奇跡を見てきている。
だから石田の病気だって……
医学だって、急に進歩するかもしれないんだ!!
「五十鈴君……私ね、死ぬのは全然怖くないんだよ……」
「えっ!? バ、バカな事を言うなよ!!
い、石田が白血病なんかで死ぬわけが無いじゃないか!!」
石田……
何で『死』に対して、そんなに冷静でいられるんだ!?
お前はまだ十五歳の中学生なんだぞっ!!
これから楽しい事や嬉しい事が、たくさんあるはずなんだ!!
俺なら絶対に生きたくて、死にたくなくて、もがき苦しんでいるはずなのに……
「私はね……色んな思いを皆に伝えられないまま死ぬ事が一番嫌だし、
一番怖いの。後悔しながら死ぬのだけは嫌なんだ……」
「だ、だから、まだ死ぬって決まった訳じゃ無いんだから!!
そんな悲しい事を言わないでくれよ……」
「ご、ごめん。そうだね……」
石田は少しだけ笑った。
「それに有難う……。
実はお母さんも私の病気をなんとか治したいと思って、
色々と必死で調べてくれていたんだ。
それで東京に白血病専門の有名な先生がいるって事が分かって、
近々、東京に行く予定なの」
「東京……?」
「今もそうだけど、治療には凄くお金がかかるから……。
だから塾も辞めてしまったんだけどね……」
東京……?
ま、まさか……
「東京にはいつ行く予定なんだ?」
「えっとね、全国の患者さんからの予約でいっぱいらしくて、
私が診察して貰えるのは八月くらいだとお母さん言ってた。
...…でも……」
はっ、八月だって!?
これはマズいぞ!!
っていうか、もしかして……
「石田、東京に行くのをもう少し早める事は出来ないのか!?
そ、それとも九月くらいに伸ばす事とかは出来ないのか!?」
俺は自分で言いながら、もう石田に言える限界を超えている事を理解していた。
もう開き直って、全てを話そうと思った。
その矢先だった。
石田の凄く驚いている表情が視界に入り、俺はそれ以上の言葉が出てこなかった。
「五十鈴君……
さっき私に何を考えているのか分からないって言ってたけど、
私からすれば五十鈴君の方が何を考えているのか分からないところが
たくさんあるわよ」
石田は少し困ったように笑う。
「それに五十鈴君って昔から子供のくせに、
どこか『大人』の様なところがあったし……」
「…………」
「それと、何だか『先の事』が分かっているかの様な発言も、
たまにあるしね……」
石田の言葉で、俺の心臓の鼓動は激しくなっていた。
俺の心は……
もう隠すのは限界だ!!
今の石田になら、『本当の俺』の事を言ってもいいんじゃないのか?
遂にそう思った俺は、石田に本当の事を打ち明けようとした。
「い、石田……実は……」
「五十鈴君!!」
だが突然、俺の言葉を遮る様に石田が話を変えてきた。
「五十鈴君!!
ま、前にね、国立病院の前で偶然、会った事があったでしょ?」
「えっ? ああ……そんな事もあったなぁ……。中一の頃だったかな?」
そう。
あれは俺が『空白の一年』を取り戻そうと、つねちゃんの実家に向かっている途中で石田とバッタリ会った時の事だ。
「あの時……あの時、私……国立病院に入院している
お婆ちゃんのお見舞いに行った帰りだって言ったでしょ?」
「ああ……」
「でも実はあれ、嘘なんだ」
「えっ?」
「本当は私が病院で診察を受けて、家に帰るところだったの……」
「そ、そうだったんだ。
でも……言われてみれば、今なら納得できるよ……」
そっか……
もうあの時には……
「あの時に五十鈴君、私に言ったよね? 『事故』に気をつけろって……」
「えっ? あ、ああぁ……そんな事を言ったような……」
「私が『事故』で死んじゃう夢を見たって言ってたよ。
それも何度か見てるって……」
石田の奴、よく覚えているよなぁ……
石田から話を変えてくれたから少し安心したのに、これじゃあ話が元に戻ってしまう……
そんな時だった。
トントン……
「あっ? はーい、どうぞぉぉ」
ガチャッ。
「ジュースとお菓子を持って来たわよ。
五十鈴君、ゆっくりしていってちょうだいね?」
「あ、ありがとうございます……」
「五十鈴君、しばらく見ないうちにホント『良い男』になったわねぇ?」
「へっ!?」
俺は石田の母親の言葉にマジで照れてしまい、顔が真っ赤になった。
そんな俺を見た石田が、ほっぺを膨らませながら母親に文句を言う。
「もうぉぉ!! お母さん、五十鈴君に何を言ってるのよ!?
変な言い方しないでよ!!」
「アラッ、ごめんなさいね。
おばさん、思った事をつい口走ってしまう癖があるのよぉぉ」
「もういいから、早く部屋から出て行ってちょうだい!!」
「ハイハイ、分かりましたぁぁ。
五十鈴君、遠慮せずにゆっくりしていってちょうだいね?」
「は、はい……ありがとうございます……」
ガチャッ……
バタン……
ふぅぅ……
俺は大きく息を吐いた。
石田は母親に対してだろうが、何かブツブツと言っている。
でも、仲良し母娘なんだろうなぁ……
俺は微笑ましく思った。
「五十鈴君!?
今、お母さんに『良い男』って言われて、
まんざらでもなかったでしょ!?」
「えっ? べ、別にそんな事は……」
正直に言えば、『前の世界』の俺からすれば石田の母親は『ストライクゾーン』だ。
だから、いくら俺がつねちゃん一筋であっても、この年代の人に褒められると悪い気はしない。
逆に中学生に告白される方が戸惑ってしまう。
「ほんと五十鈴君ってさ、『大人の女性』が好きよね?
つねちゃんといいさ……」
「ほ、ほっといてくれよ!!
つ、つねちゃんは『特別』なんだからっ……」
「あっ……」
「な、なんかゴメン……」
「はぁぁぁ……何で謝るのよ?」
石田は少し寂しそうに笑った。
「別に五十鈴君は何も悪くないんだから。
でも私も、もう少し生きられたら...…
五十鈴君の『特別』になれたかもしれないのになぁ……」
「し、死ぬ前提で言うなよ!!」
「それじゃあ、病気が治ったら私と付き合ってくれる!?」
「えっ!? そ、それは……」
「フフフ……冗談よ。気にしないで……」
もし石田の病気が治ったら……
もし石田が飛行機事故で死ななかったら……
もし石田が全力で俺に愛の告白をしてきたら……
もし『前の世界』の初恋の人と思っていた石田と、これからも長い付き合いをする事になったら……
俺の心に……
揺らぐはずの無い俺の心に、何か変化が起こるのだろうか……?
はぁぁ……
思ってはいけない事を、ふと思ってしまった。
その瞬間、一気に疲れが出てきた。
「石田……俺、そろそろ帰るよ……」
「そうね。今夜は塾がある日だもんね」
俺が玄関まで行くと、石田の母親が待っていた。
「五十鈴君、また来てちょうだいね?」
「は、はい……どうもお邪魔しました……」
俺が外に出て、少し歩き出した時だった。
「五十鈴君!?」
石田が俺を呼び止めた。
「本当は他に何か私に言いたかった事があったんでしょ?」
「…………」
「でも私も本当は五十鈴君に伝えたかった事があったの」
石田は少し微笑んだ。
「だからまた次の機会に、ゆっくりお話ししましょう!!」
俺は少し驚いた。
でも『元演劇部』として表情を変えず、必死に平静を装って答えた。
「そ、そうだな。また来るよ。その時にゆっくり話をしよう……」
俺はこの時、石田の家にお邪魔したのが――
最初で最後になるなど、思いもしなかった……
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