カメのうそ
登場人物
ンジャ(ヒョウ)、クドゥ(カメ)、エトリ(ネズミ)、エムボンダ(エダツノレイヨウ)、イヘリ(ガゼル)、ンガンド(ワニ)、ンゴムバ(ヤマアラシ)
アメリカの宣教師、ロバート・ハミル・ナッソー(1835 - 1921)による採話。ギニア、ガボンなど西アフリカの国々で40年間暮らしたナッソーは、訪れた村で語り部が話す伝説を収集した。ムポングウェ語など土地の言葉で語られた話をナッソーが英語で語り直している。詳細はこちら
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注釈
アフリカの人々はヤシの木に登り、葉の茂る頂部を切って空洞をつくり、その下に容器を固定して、滲み出る甘く乳白色の樹液を受け止める。これは無酩酊性である。しかし、シードルのように数日保存すると酩酊性を帯びる。この切り取り作業により、木は2、3か月で枯死する。
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この話は、ヒョウが森に出かけていって、ヤシ酒を取るためにイトゥトゥ(竹ヤシ)の木を切るところから始まる。木の空洞に容器を縛りつけた後、木の頂上の中心部を切って、町に戻った。
カメがその竹ヤシのところにやって来て、頂上まで登っていった。そこでカメは容器にもう樹液がたまっているのを見つけた。カメはカップ3杯それを飲んだ。それに興奮してこう叫んだ。「酔っ払ったぞ、酔っ払ったぞ」
森の外でネズミがこれを聞いて、声のした方へとやって来た。カメに向かってネズミが言った。「これは誰のヤシ酒の木なんだ?」 カメが答えた。「オレのだよ」 ネズミがカメにこう頼んだ。「1杯おれにもくれ」 カメが言った。「登ってこい、何を怖がってるんだ?」 それでネズミは登っていった。ネズミも2杯いただいた。
そのときカメはヒョウがやって来るのを耳にして、ネズミにこう言った。「ここで待ってろ。オレはちょっと下に降りてくる」 カメは地面に着くと、木の幹の洞に隠れた。
そのすぐ後、ヒョウが木のところにやって来た。ヒョウは木の上に目をやり、ネズミの姿を見つけた。ネズミに向かってヒョウが言った。「このヤシの木は誰のものだ?」 ネズミが答えた。「友だちのクドゥのものだ」 ヒョウはさらに尋ねた。「そのクドゥはどこだ」 そしてヒョウはネズミに爪をたてた。そのせいでネズミは死んだ。
ヒョウはネズミの死体を手に、町に戻った。そして妻にこう言った。「これを料理するんだ、食事用にな」
ヒョウが木のそばを離れるとすぐに、カメが木の洞から出てきた。そして再度、木に登っていった。ヤシ酒をまた飲んだ。そしてこう叫んだ。「酔っ払ったぞ、酔っ払ったぞ」
岩に囲まれた穴の中に住むヤマアラシがカメの声を聞いて、木のところにやって来た。そして一杯くれと頼んだ。カメは木に登れと言った。「何を怖がってるんだ?」 それでヤマアラシはカメの言うことに従って登っていった。そして2杯のヤシ酒を飲んだ。
カメはまたヒョウがドスンドスンとやって来る音を耳にした。それでカメはこう叫んだ。「あー、腹がいたくなった。下に降りるわ」 地面に着くと、カメはまた木の洞に隠れた。
少ししてヒョウが木の下に到着した。見上げると、そこにはヤマアラシがいた。ヒョウはこう尋ねた。「ンゴムバよ、この木は誰のものだ」 ヤマアラシが答えた。「友だちのクドゥだよ」 ヒョウが訊いた。「そのクドゥとは誰だ? 会いたいものだ」 ヤマアラシが答えた。「クドゥはもういない、腹が痛くなったんだ」 ヒョウが大声を出した。「そうか、わかった! おまえらが俺のヤシ酒を飲みつくしたんだな」 そうしてこうつけ加えた。「いつ俺はクドゥと会えるんだ。その日が来たら戦いだ」 ヒョウがこう言っているとき、カメは木の洞の中でこれを聞いていた。
ヒョウがヤマアラシに手をかけた。ヤマアラシは地面に落ち、その屍を手にヒョウは町に帰った。そして妻に言った。「この肉を料理して食べよう」
ヒョウがいなくなると、カメが隠れていた木の洞から現れた。カメはこれで3度目、木に登っていってカップを手にし、2杯ヤシ酒を飲んだ。そしてまた声をあげた。「この俺クドゥは酔っ払ったぞ、クドゥは酔っ払ったぞ」
草原の向こうで、レイヨウがこの声を聞いた。そして木のところにやって来た。カメを見てこう言った。「お仲間、おれにヤシ酒をくれよ」 カメが指示した。「登ってこい、何を恐れてる?」 レイヨウは木に登っていってヤシ酒を飲んだ。
すぐにカメは、森からヒョウが走ってやって来る音を聞いた。カメがレイヨウに言った。「お仲間、腹がおかしい、すぐに戻るから」 カメは木を降りていき、いつものように隠れた。ヒョウが同じように現れた。レイヨウに話しかけ、また爪をたたて殺した。その屍を町に持ち帰り、妻にこれまでと同じように料理するよう言いつけた。
ヒョウが立ち去ると、カメはこれで4度目、木に登っていってまたヤシ酒を飲んだ。そしてまた声をあげた。少しだけセリフを変えて。「飲んだぞ、飲んだぞ」
ジャングルでこれを聞いたガゼルが木のところにやってきたが、じっと黙っていた。カメが先に口をきいた。「あー、甥っ子よ、ヤシ酒を飲み終えた」 ガゼルが尋ねた。「これは誰の木だ?」 カメが答えた。「オレの木だ、誰のものでもない」
ガゼルはジャングルからやって来るとき、袋を持参していた。ガゼルがまだ木の下に立っているので、カメがこう言った。「登ってこいよ、何を怖がってる?」 ガゼルは登っていったが、半分あたりのところで留まった。
ガゼルとカメが上下に分かれていて、ガゼルがまだヤシ酒を飲んでいないとき、カメはヒョウが薮の中を跳ねて来る音を耳にした。カメがガゼルに言った。「あー、甥っ子よ、オレを通してくれ。腹が痛くなった」 ところがガゼルがこう返した。「いやだ、おじさん、ここにいて、ヤシ酒を飲もう」 カメはヒョウが近づいてくるのを聞いた。そしてガゼルに言った。「ほら、早く、オレを通してくれったら。どんだけ腹が痛むか」 ガゼルが言った。「いやだめだ、いっしょに下に降りよう」
こんな風に言い合っているとき、ヒョウが木の根元に到着した。ガゼルが持ってきた袋にカメを隠した。ヒョウが大声をあげた。「イヘリよ! この木は誰のものだ」 ガゼルが答えた。「ボクのおじさんのヤシ酒の木だよ」 ヒョウが尋ねた。「おまえのおじさんとは誰のことだ」 ガゼルが答えた。「クドゥだけど」
ヒョウは木に登る準備をはじめた。ガゼルと戦おうというのだ。するとガゼルは袋に手を入れて、カメを引き出してしっかり掴んだ。そしてヒョウの顔に向けて、カメを投げつけた。ヒョウは地面に倒れ、その衝撃で呆然としていた。その間にガゼルは地面に降りて、森へと逃げていった。
ヒョウが起き上がると、カメが成すすべなくひっくり返っているのを見つけた。ヒョウはカメを紐で縛り、街へと帰っていった。そして妻にこう言った。「妻よ、俺様のヤシ酒を飲んだやつだ!」 そしてヒョウは紐でカメを吊り下げて、殺すのは明日にすることにした。
その日が暮れていった。みんな眠りについた。
そして次の日、朝日が昇った。
ヒョウが妻に言った。「5キロほど向こうで会合があるんで行ってくる。クドゥをウディカ(マンゴーソース)で料理しておくように。俺が帰ってきたらすぐに食べられるようにな」
ヒョウは会合に出かけていった。妻は家で仕事をするため残った。しかし、妻はこんな風に声をあげた。「あらー、夫の言ったことをわすれてしまった!」 カメはこれを聞いてこう言った。「あんたのダンナはこう言ってたよ。『乾燥したエトリを棚から取り出して、ウディカで調理しろってね。クドゥにそれをやれ。食べさせるんだ。それからクドゥを連れだして、小川の水で洗うんだ』」 妻はそれを聞いて喜びこう言った。「ああ、クドゥは夫の言ったことをよく覚えていてくれた」
それで妻はカメが言った通りにして、料理を食べさせた。カメが食べ終えると、妻はカメを連れて小川まで行き、岸辺でその体を洗ってやった。そうしている間に、カメは妻にこう頼んだ。「オレを川の深いところに放り投げてくれないか」 妻は言われたとおりにした。するとカメがこう叫んだ。「いいか、おまえは今日、夫の手で殺されて死ぬんだ」 妻は自分の間違いに気づいて、カメに頼み込んできた。「戻ってきて、町にもどろうよ」 しかしカメはこう答えた。「戻りゃしないよ! 川底の安全な場所にいるからな」
妻はしかたなく町に戻った。泣き泣き歩いていった。
その日遅く、ヒョウは会合を終えて戻ってきた。そして妻に向かってこう言った。「あー、妻よ、死ぬほど腹がへった!」 妻が答えた。「あー、クドゥは逃げてしまったんだ」 ヒョウは怒りにまかせて妻に爪をかけた。妻はそこで息絶えた。
カメはその頃、川の中を特急で泳いでいった。そしてワニの家にやってきて、戸口からスルリと入り込んだ。ワニは涙ながらにカメを迎えこう言った。「あー、クドゥ、あたし悲しくて悲しくて死にそうなの」 カメが尋ねた。「なにごと?」 ワニが答えた。「100個も卵を産んだのに、一つとして子にならなかった」 カメが答えた。「それなら任せておけ。卵から子をかえすんだな、オレがやろうか?」 ワニが同意した。「そうして、卵はまだ300個あるの。それを子にかえしてちょうだい」 カメが言った。「それができるのはオレだけだ」 ワニがこう言った。「部屋に入って、そうしてちょうだい」
カメが部屋に入ると、卵があった。ワニにこう言った。「やかんを頼む、それから薪と水もな。食べものも頼む。ここから当分オレは出ていかない。卵を子にかえすまで、ずっとここから出ていかないからな」 ワニはわかったと言った。「そう、お願いね。それがいい」 それでワニは仲間のワニたちにこう指示をした。「クドゥが欲しがるもの何でも、ここに持ってきてちょうだい」
というわけでカメは部屋のすべての扉に鍵をかけ、部屋の中に閉じこもった。カメは薪を用意してやかんをそこに乗せ、中に水を入れた。その日の午後、カメは20個の卵を取り出し、料理して食事と一緒にそれを食べた。
夜になって、みんな眠りについた。
夜が明けて、カメはさらに20個の卵を調理して食べた。昼にさらなる卵を調理して食べた。そして夕食時、また調理しそれを食べた。というわけで、7日間かけてすべての卵を食べきった。そしてワニを呼んでこう言った。
「赤ちゃんワニが話してるところを聞きたいかい?」 ワニが答えた。
「ええ、ぜひとも!」
カメは割れた皿のかけらを二つとって、こすり合わせキーキーと音をたてた。ワニと町の人々はそれを聞いて大喜び。
「ほら、ほら、ほら!」 そしてこう言った。
「赤ちゃんが話してるのを聞いたよ」
カメがみんなに言った。「明日は、もっと大きな声で話すよう、薬をつくろう」 ところがワニは疑いの目を向けはじめた。そして夜が更けていった。
次の朝、とても早い時間に、ワニの疑いは高まった。町の人に声をかけず、一人で起きた。そしてこっそりカメの部屋の中を隙間から覗いた。
ワニが見たのは卵の殻の山。ワニは不安になった。「赤ちゃんはどこ?」 そしてそっと自分の部屋に戻った。そして町の人々にこう言った。「起きて、クドゥの部屋を開けるのよ!」
みんな起きて、クドゥのいる家に向かった。扉をやぶって中に入ると、卵の殻に囲まれてカメがすわっていた。ワニが大声で叫んだ。
「クドゥ、あたしを騙したのね。あんたの人生も今日で終わり!」
みんなでカメを縛りつけると、やかんの中に入れた。そうやってカメを殺した。カメの肉を皿に分けた。そしてみんなでカメの肉を食べた。
これで「カメのうそ」の話は終わり。
日本語訳:だいこくかずえ
